弱音が辛く響く
玖渚家に到着し、手土産の袋がシャカシャカと鳴るのを気にしながら上がり、彼女の自室へと歩んでいく俺。
階段を上がる最中にも、スピーカーから流れる歌声が彼女の自室から漏れていた。
俺と彼女の共通して好きなバンドの楽曲だ。
彼女の自室の扉をノックして、室内に足を踏み入れると彼女がベッドでうたた寝をしている姿が目にはいった。
「おぉ~いぃ、美月っ。小腹が空いてないか?美月の好きな──」
呼び掛け、袋を彼女に突き出しながら訊ねている最中に匂いに釣られたように飛び起きて抱き付いてきた彼女。
「うにゃあぁ~!あっくん!?ポテトにハンバーガー......食欲旺盛だ、あっくんは」
覆い被さりながら猫のような声をあげ、鼻をクンクンと鳴らしながら手土産の匂いを当てる彼女。
俺は彼女に抱き付かれた衝撃で受け身が取れず、彼女の下敷きになったと同時に掴んでいた袋が室内の角に飛んでいってしまった。
「せぇ......か、いっ。おも、いから......どいて」
腹を圧迫されながら言葉を発するのは難しい。絶え絶えながら言葉を発した俺だった。
「ごめん、あっくんっ!毎日のように買ってきてくれるのは嬉しいけど、大丈夫なの?」
「うん、まあ......美月の部屋に入り浸ってるからこのくらい──」
「そんなっ......私がもっと我慢──」
「違うっっ!あっ......ごめん、取り乱して。美月は悪くない、美月が悪いなんて......言わせ、ない」
突然の叫び声に身体を震わせ、怯えた彼女に謝る俺。
「あっくん......変だよ、様子。いじめ、られてたり......あっくんぅぅ」
「そうじゃ、ない......心配するほどのことはない、から......美月」
気に掛ける彼女の手に触れながら弱々しい声で返すのが精一杯だった。
彼女が自身を責めることなんてあったらいけない。責められるのはあいつらだ。
「──ょうぶ、──丈夫っ?あっくんっ大丈夫?」
心配する彼女の呼び掛ける声が響いているにも関わらず、延々と繰り返される言葉が消え去ってくれず、耳に残り続ける。