ただそれだけ
6月上旬。
俺は玖渚美月を誘い、長野県上伊那郡辰野町に来ていた。
多くの蛍が見れるスポットのほたる童謡公園に来た。
20時前でまだ蛍の光は見えなかった。
「長野県なんて初めて来たよ、あっくん!!」
「俺も初めてだよ、長野県。蛍が見れるスポットで検索したら此処が良いってあったから」
「蛍って小さい頃見たっけ?」
「どうだったっけ?」
幼少の頃を思い出そうとするが思い出せない。
俺は美浜には言わずに玖渚と長野県まで来ている。美浜からメッセージは届いていない。
「あっくん、私は漫画を描くことしか出来ないんだ」
「唐突に何を言い出すんだよ、美月。漫画を描く以外にも色んなことができるだろ」
「そんなことないよ。私が死んだら泣いてくれる、あっくん?」
「美月が死んだら悲しくて、泣くに決まってんだろ。何変なこと、言い出すんだよ!」
「そう……そっか。あっくん、泣いてくれるんだ……うぅっ……うぅぅっっ」
玖渚が急に泣きだし、俺は急いでハンカチを取り出し、渡し、宥めた。
「泣くなよ、なんで泣き出すんだよ……ほら、ほらもうすぐ蛍が見れるぞ」
20時15分が過ぎた頃だった。
「うぅっ、あぁありがとう……私のこと、好き?」
「好きだよ、美月のこと」
「そう……美浜さんとはどうなの?」
「美浜とは普通だよ。ほっほらっ、蛍だ、あれっ!」
話題を逸らそうと光り出した蛍の光を指差した俺。
幻想的な無数の蛍の光りが動いていた。
「蛍の光りだ……」
俺と彼女は、蛍の光りで輝く景色に見惚れていた。
「綺麗……」
「あぁ、綺麗だなぁ」
「あっくん、私のどこが好きなの?」
「美月の全てに決まってんだろ。美浜と比べることなんてしなくていい、美月がやれることだけやったら良いんだよ。無理し過ぎは勧められない」
「私は漫画を描くことしか出来ない……こんな私は此処にいるよ」
彼女が作るはにかんだ笑顔を見て、愛おしいと思えた。
「嬉しいことと悲しいことはいつも半分こずつだよね。だから昨日を探さないでね」
「俺は美月と明日、明後日明々後日、その先を過ごしたいに決まってる」
「あっくんと幸せだねって言えるまで光っていたい。死にたくないよ、あっくん!!」
私はまだ学校に行けずに引きこもっている。
あっくんに打ち明けられた美浜と交際していることを知って、胸が痛んだ。
私が学校に行けない間、あっくんには愛する女性が出来た。
私には鴻上彰人以外の男子を知らない。あっくん以外の男子を好きになれない。
私はあっくんと電車に揺られ、自宅に帰宅する。




