傷付け、傷付く
放課後になり、谷津瀬が姿を見せた。
肩に腕を載せられ、捕まる。
「よっ、鴻上。美浜とは仲直りできたか?」
「谷津瀬……お前のせいでもあるんだぞ。あれから一度も姿を見せてない」
「俺のせいにすんなし!キスくらいはしてやれよ」
俺は椅子から立ち上がり、教室を出ていく。
「お前はしてんのか、島田と?」
「普通にしてるよ、キスくらい」
廊下を二人並んで歩く。
「くらいね……谷津瀬って大切な人を……傷付けたことあるか?」
「ねぇんじゃねぇか?どういう傷付け方したんだ、お前はさ?」
「取り返しのつかない傷付け方だよ」
「そうか……美浜とは仲直りしとけよ、俺達まで気まずくなるし、美彩が変なことしてくるかもだしな」
「うぅっ……島田にまた変なことされたら平常心を保てなくなるよ。頑張ってみるわ」
俺達は下駄箱で別れて、別々に下校した。
玖渚家に赴いた。
インターフォンを押し、返答がない。
玄関扉のドアノブを掴み、開けて、脚を踏み入れた。
「お邪魔しまぁす」
階段を上がり、美月の自室の扉の前に佇み、深呼吸した。
はぁー、ふぅー。
扉をノックした。
反応を窺う。
「入ってよ〜!」
扉を開けて、脚を踏み入れた。
「お邪魔するよ」
「はぁ〜い」
青いチャイナ服を着た美月が椅子に座ってこちらを見た。
「どう?似合う?あっくん」
不安そうに声のトーンを低くしながら訊いてきた。
「おぉぅ、似合う似合う!可愛いよ、美月」
「そぉう?可愛い……そう言われると照れるなぁ〜!!」
「だけど……脚のスリット、深くないか?そのパンツが見えそうまで——」
彼女はスリットの入ったところを強調して見せてきた。
「あっくんなら見られても構わないよ。見て見て!」
「羞恥心は持っててくれよ、美月」
「あっくんが照れた!ほっぺ真っ赤だぁ〜!!そういえば、今日はお土産はないんだ、そっか。マフィン作ったんだ、食べる?」
「食べたい」
「わかった!!持ってくるね!!」
部屋を出ていき、バタバタと脚音を響かせ、階段を降りていった彼女。
戻ってきた彼女はマフィンを載せたトレーを持っていた。
勉強机にトレーを載せ、マフィンをひとつ持って俺の傍に歩み寄って手渡してくれた。
「ありがとう。いただきます」
俺はお礼を告げ、マフィンにかぶりつく。
食べ慣れた彼女のマフィンは優しい味だった。
いつのまにか涙を流していた。
「あっくん、なんで泣いてるの?美味しすぎて?」
「うん、美味しすぎてだよ」
俺は彼女に背中をさすられ、宥められた。
俺は美浜を傷付けたまま、日を跨ぐのは違うだろと澱に沈んだ己が叫ぶ。
「ありがとう、美月」




