言えない
俺は玖渚家に脚を運んだ。
玄関扉を開け、「お邪魔しまぁーす」と挨拶してスリッパを履いて階段を上がる。
美月の自室の扉の前で佇み、扉をノックした。
「入ってー」
美月は起きていたようだ。
扉を開けて、脚を踏み入れる。
「あっくんあっくん、私とあっくんって結婚出来るよね?」
「なんだよ、急に?結婚なんて……早いだろ」
「早くないよ、全然!今日さー、映画の『秒速5センチメートル』を観返して泣いたんだー。私とあっくんは結ばれるよね?」
「『秒速5センチメートル』は泣ける映画だよなぁ、あれは泣ける。どうだろ?もっと違う景色を見たら、俺より素敵な奴は見つかるかもな」
「えぇ〜!?あっくんは私と結婚したくないの??私はあっくんと結婚したい!!」
「したい、したくないじゃなくて……色々とすっ飛ばして結婚は無理じゃ……」
今にも泣き出しそうな顔をした美月の顔を見て、言葉が詰まる。
美浜が脳裏を過り、否定しそうになった。
俺は目の前の美月を宥める。
「結婚したいとかそういうことじゃなくて……俺以外にも美月を幸せにしてくれる奴が居るんじゃないかってことだよ。俺では美月を救えないんじゃ……なんて思う。美月を幸せに出来てないだろ、実際?」
「そんなこと……なぁいっ!!私はあっくんが傍に居てくれて幸せだよ。あの映画みたいに離れずにいれて幸せだよ。長い間ずっとあっくんを引き摺るなんて辛すぎる!!あっくん、私の傍にずっと居てくれるよね?あっくん、応えて……」
「俺も美月の傍にいれて幸せだよ。でもこれからもずっと一緒にいれるかわからないよ。今以上に傷つけないように生きるから!泣かないで、美月……」
「あっくんあっくんあっくん……うぅうぅぅっっ」
彼女は俺の背中に両腕を回し抱きついてきた。
彼女は俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくる。
俺は彼女が泣き止むまで抱きついている腕を引き剥がさずにいた。
泣き止んだ彼女が泣き腫らした顔で、俺に聞いてきた。
「あっくん、私以外に好きな娘が居る?」
「それは……そんなこ……美月は好きだよ」
「そう……」
俺は正直に告げられなかった。
美浜と交際していることも、美月と結婚出来ない真意も告げることが怖かった。
臆病になる。
彼女は薄々解っているはずだ。
俺は玖渚家を後にして、別れた。
俺は今もあの頃も変わらぬままの臆病で狡い奴だ。
自身の本質を解っていながら、変わろうとしない。
こんな己が嫌になる。
何の為に玖渚家を訪れて、美月と会い続けて居る?
そんなの解ってる。
ベッドの上に横たわって、拳でベッドを殴る。
はぁー、俺って奴は。




