イタズラはほどほどで
騒がしさを取り戻した教室から出ようと、通学鞄を肩に提げながら椅子から腰を上げて立ち上がった俺に聞き慣れた声が近付いてきた。
「もう帰ったかなって焦ったけど、まだいたーぁ……はぁはぁ。あっちゃん、ダブルデートすることなんで黙ってたのーぅ!言ってよぅっ、あっちゃん!」
大股で歩み寄り、激しく肩を上下したままに詰め寄る美浜。
「あぁー……えっと、あおちゃ、蒼依が変なことねだってきてそれに応えることで頭が——」
「変なことって、ひどい……あっちゃん、そんなふうに思ってたんだ。あっちゃんのばかっ」
両手で顔を覆い、震えた声で非難する美浜。
「あっいやっ……そういうじゃ、あっとぅ……泣かないで、ごめん……ごめんってば、蒼依ぃ……」
俺は恋人に泣き出され、慌てふためき宥めようとする。
教室で騒いでいた生徒らが、俺に対して悪者だと言わんばかりに睨んでいた。
大勢の前で泣き出さないでほしい……切実に。
俺を孤立させたいの……美浜ぁー。
「ここは……なんだから、教室……出よう、蒼依。ねっ?」
俺は彼女の肩に手を置き、病人を介抱するように教室から連れ出した。
胃がぁ……キリキリ、するぅ。
廊下で擦れ違う生徒にもれなく不審な視線を向けられた。
あぁー、明日からヤバそうだよ……色々と。
「蒼依、さっきのは言葉の綾でそのぅ……えっと、だからその……そろそろ泣くのは」
チュっと、宥め続ける俺の頬に唐突に柔らかい感触とリップ音が襲った。
「私に隠し事したから、つい……困らせたくて。ごめん、あっちゃん。蒼依って呼び直されたのもひどいって思って、それで……」
「はぁーあ……泣き出すなんて、やめてよあおちゃん。心臓に悪いって、ああいうの。イタズラはほどほどにだよぅー……」
彼女の小悪魔な笑みに安堵して、深い吐息を漏らして抗議する俺。
彼女の瞳は若干ではあるが潤んでいるし、頬も濡れている。




