第2話
視点が変わります。
「なあ、聞いたか?」
「何をだよ」
「教授、今日から研究休暇らしいぜ」
「はあ?じゃあ授業はどうすんだよ」
「助教授が代わりに来るらしいぜ」
「助教授?そんなのいたのか?」
「たいしたことなさそうだな」
「ばか、やめろよ」
黒いローブの学生で溢れ、ざわめく講義室に、扉を開けて入ってきたのは―灰色のローブを身にまとった幽霊のような女性。
しん、とした静寂の中、彼女は一言も発することなく黒板に向かい、すらすらと何か書き始めた。
その内容に再び講義室がざわめき出す。
『以下の古代語を訳し、提出すること。提出次第本日の講義は終了――』
「講義終了?何だよそれ」
「いいじゃん楽で」
「あいつやっぱりたいしたことねえじゃん」
そして―我関せずと板書を続ける彼女が書き始めた内容に、教室が静まりかえる。
そこには「本時の課題」として、流麗な古代語の長文が直接、チョークで手早くすらすら書かれていく。
教授の書き取りがゆっくりに思えるほどの高速のそれに―むろんそれでも速いと尊敬していた―言葉を失う生徒たち。
は、と我に返った生徒たちが慌てて解読に取りかかる中、板書を終えた彼女は教卓の隣にぼふんと椅子を出現させ、
腰かけて生徒の提出を待っていた。
「お疲れ様ですぅ」
こと、とシオンの前にカップが置かれる。
差し出されたお茶を飲みながら、医務室にて本日何度目かのため息をつく。
「講義はいかがでしたかぁ」
いかがもなにも、とお茶を淹れてくれたおっとりとした女医を胡乱な目で見つめると、うふふ、と微笑まれる。
「こんなに疲れたのですからぁ、本日はしっかり眠れるのではありませんかぁ?」
果たしてそううまくいくのだろうか。そんな本心に答えるかのように
「このミドが保証しますわぁ」
と彼女は答えた。寝付きをよくする茶葉を手土産にもらい、医務室をあとにした。
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