第1話
初めまして、朔夜蕾と申します。この小説を開いて頂き、ありがとうございます。
ご意見、ご感想書いて頂けましたら嬉しく思います。
ぱち、と夜明け前の薄闇の中で目を開け、ため息をつく。
眠れない。
なぜ、と問うことはとうの昔に諦めた。
何をどうしても眠れないのである。
少し眠ったかと思えば奇妙な夢ばかり見て、夜中に何度も目が覚める。
しばらくぼんやり天井を眺め、また一つため息をついて支度しようと身を起こした。
鏡に映るのは、見るからに不健康そうな己の顔。
目の下のくまが消えなくなっていったい幾日が経過したのか。
髪をとかして後ろで編み込んでまとめ、仕事着であるいささか草臥れた灰色のローブを身にまとう。
身分証であるバッジを胸元にとめ、朝の鐘の音とともに部屋から出た。
朝の学院食堂は、学生や研究員、教授たちで大変混雑している。
面倒だし朝食はいらないかと通り過ぎようとしたところを、よぉ、と呼び止められた。
「シオンじゃねえか、元気ねえなぁ。飯でも食おうぜ」
いらない、と呟くが聞く耳を持たない筋骨隆々の大男になかば連れ去られるようにして食堂に入った。
「おめえさんこんな早ぇ時間にいつも起きてんのか。相変わらずしけた顔して。このダン様に話してみな」
豪快に笑い、もりもりと―こちらが胸焼けするほどに―朝食をたいらげる同僚。
「眠れねぇ?飯食って暫くしたら眠くならねえか?ならねえ?じゃあよお、、、」
強引だがお人好しの彼は次から次へと提案してくれるが、生憎全て試した後である。
「なんだ、もう行くのか?頑張れよ、助教授さん」
ばしんと背中を叩かれ、よろめきながら研究室に向かった。
研究棟の一室に彼女の勤める古代語解読室がある。
今日は朝一で教授から呼び出されているのである。
「ふぉっふぉ。おはよう、シオン君。」
革張りの心地よさそうな椅子に座って穏やかに微笑むのは彼女の上司―ログ教授である。
教授の証である白のローブに身を包み、彼は続けた。
「研究休暇を取ろうと思っての。それで、わしの受け持つ授業を引き継いで貰いたいのじゃ。一年間」
え、と教授の顔を見つめると、ふぉっふぉ、と笑い、
「なあに、心配はいらぬ、やることはすべて決めてある。あとはおぬしが生徒の前でその通りさせるだけじゃて。
それに、おぬしが引き受けてきた解読依頼をこなせるように人員の手配も済んでおる」
じゃあの、頼んだぞい、と彼女の意見は聞かぬまま彼はぼふんと転移術式で旅立ってしまった。
呆然と教授の机を見てみれば、ふだん『古代語学教授 ログ』と書かれて机に置かれている名札は
ご丁寧に『古代語学助教授 シオン』とかわっており、授業計画とカレンダーが残されていた。
そして最初の授業の日付を確認すると、なんと―今日。
授業計画に目を通し、もう逃げられないことを悟り天を仰いでいると、扉を叩く音。
誰だと出てみれば、ぱりっとした濃灰色のローブを身にまとった五人の研究員がいた。
「おはようございます、シオン殿。お話は全て教授から伺っております。何でも本日から学院の教壇に立たれるとか。
解読依頼は我らにお任せ下さい。ささ、授業が始まってしまいます。お早く」
そうして、解読室から送り出され―もとい、追い出され―渋々、講義棟へと向かうのであった。
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