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09 狩りの成果


 それから数週間後のお昼休み。私は先生に呼び出されて、職員室にいました。

 先生との話が終わり職員室を出ると、廊下には殿下がいて。


「どうだった? ミシェル」

「明日からは中位クラスで学ぶようにと、先生から指示を受けました……」


 下位クラスの生徒とではレベルが合わなくなったので、中位クラスに編入する必要があると。


 下位クラスの生徒はあまり狩りをしないので、すぐにレベルが合わなくなるはずだと殿下は予想を立てていたのですが、本当にその通りになってしまいました。


 あまりにあっさりと中位クラスになれたことに呆然としていると、殿下は嬉しそうなお顔で私に抱きついてきました。


「おめでとう、ミシェル!」

「でっ殿下、ここは廊下ですよ……」

「誰かに見られると恥ずかしい? 俺としては、皆の前でミシェルを独占したいけど」


 殿下の気持ちに気がついてしまってからというもの、日々大胆になっていく殿下の言動に私は慌ててばかりです。

 冷静で無表情だった私は、どこかへと消え去ってしまいました。


「恥ずかしいに決まっています……」

「そんなふうに、頬を染めるミシェルが可愛くてつい。ごめんね」


 そして私が露骨に狼狽えるものだから、私の頬を染めて喜ぶという遊びを殿下は覚えてしまったようです。


 謝りつつも離れるつもりはなさそうな殿下は、私の頭をなでました。


「よく頑張ったね、ミシェル」

「……頑張ったのは殿下のほうですよ。私は補助魔法でお手伝いをしていただけで」


 レベルが上がり、ひとつだけある攻撃魔法が開放されたおかげで、スライム程度ならひとりでも倒せるようになりました。けれどそれも、殿下の努力によって成り立っているのです。


「モンスターが強くなるほど、補助役の重要性が増すことを忘れないでほしいな。俺はいつもミシェルに助けられているよ」


 補助役としてお荷物だと思っていた私でしたが、殿下がいつも大切な役割だと認めて感謝してくれるおかげで、少し自信がついてきました。

 最近では少しでも狩りで役に立ちたいと思うようになり、補助役として必要な立ち回り方を学ぶため、戦術の本を読み漁る日々です。


「けれど、俺も頑張ったと思ってくれるなら、ミシェルに褒めてほしいな」


 殿下は私から離れると、少し屈んで私と目線を合わせました。

 これは殿下が私にしてくれたように、してほしいということでしょうか。


 殿下の髪に触れてみると、見た目の艶やかさ通りにとてもサラ艶な手触りが伝わってきます。


「私のために、いつもありがとうございます。ルシアン殿下」


 頭をなでながら日頃の感謝をしてみると、彼はふにゃりと微笑みました。


 殿下、それは可愛すぎます。

 可愛いもの好きな前世の私を、刺激しないでください。






 下位クラスに戻り、クラスの女の子たちに編入の件を知らせると、皆とても悲しそうな顔になってしまいました。


 長年このクラスで学んできたけれど、彼女たちと仲良くなったのはつい最近。

 やっと楽しい学園生活が始まったばかりなので、私も寂しい気持ちでいっぱいです。


 けれど、毎日狩りを頑張ってくれている殿下に、編入したくないとは言えませんし、そもそも皆と仲良くなるきっかけを作ってくれたのも殿下です。

 私ひとりでは得られなかった充実した生活を与えてくれた殿下のために、残りの学園生活は殿下が望むままに送るつもりです。


「クラスが離れても、お友達でいようね! また学食に行ったりしよう!」


 マリーちゃんは私の手を力強く握りました。まるで、これくらいで友情など崩れないと言ってくれているようで、嬉しくなります。


 私も休み時間に遊びに来ると約束し、図書室にもたまに来てくれると嬉しいとお願いしてみると、これからは読書家になると皆張り切ってくれました。


 今までどうして仲良くなれなかったのだろうと思うほど、このクラスの女の子たちは良い子ばかりです。

 きっと私が近づきがたいオーラを出していたのでしょうが、クラスを離れる前にお友達になれて本当に良かったです。


 そんなことを思っていると、ふと視界の端から視線を感じました。

 そちらに目を向けてみると、委員長がこちらを見ていて。

 視線が合うとすぐに、目を逸らされてしまいました。


 最近、女の子たちとおしゃべりをしている時に、委員長の視線をよく感じるのですが。どうかしたのでしょうか。





 放課後。図書室へ行く前に、この教室で最後に挨拶しなければならない人の元へ。

 帰り支度をしていた委員長は、私が来るのがわかっていたかのように振り向きました。


「中位クラスに編入するんだって?」

「はい。委員長には今まで大変お世話になってしまいまして、本当にありがとうございました」


 長年ぼっちを極めていた私の相手をしてくれたのは、このクラスでずっと彼だけでした。

 いつもため息をつきながらも、実技ではパーティーに入れてくれて、クラスの連絡事項なども欠かさずに教えてくれる面倒見の良さで。

 ぼっちながらも、気が滅入ることなく学園生活を送っていたのは、彼の気配りによるところも大きかったと思います。


 今までの感謝を伝えると、彼はいつものようにため息をつきました。


「ミシェル嬢みたいな性格だと、中位クラスでまた苦労するだろうね。待っていて、僕もすぐにそっちへ行くから」

「え……、委員長も中位クラスへ?」

「委員長として僕は、君の面倒を見る義務があるからね。一ヶ月くらいで編入するから、それまではなんとか耐えしのいでよ」


 委員長はブツブツと、中位クラスへ編入するためのプランを練り始めました。


 心配してくれるのはありがたいですし、上のクラスを目指すという向上心は素晴らしいと思います。ですが、どうして私のためにそこまでしてくれるのでしょうか。

 私が中位クラスに編入した時点で、委員長としての彼の役目は終わるというのに。

 ため息をついたにも関わらず、編入しようとしている意味がわかりません。


 何にせよ、彼には彼の事情があるのでしょうから、私が拒否反応を見せるのもおかしいです。「同じクラスになったら、またよろしくお願いします」と挨拶をして、彼の元を去りました。 



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◆作者ページ◆

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