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08 ゴブリンの村へ


 魔の森へ着いて狩りを始めましたが、屋敷を出るのが遅くなってしまったのでそう、時間も立たずに昼食の時間となってしまいました。

 今日はお昼を持参していませんし学食もお休みのはずなので、解散するとばかり思っていたのですが。


「この奥にゴブリンの村があるんだ。そこで昼食にしようか」


 下位クラスでは、この辺りまで授業で来ることはないので知りませんでした。

 敵意のないゴブリンに対して命の保証をする代わりに、レストランを経営してもらっているそうで。その村が、魔の森で唯一の安全な休憩所なのだとか。


 初めて行く場所に少しわくわくしながら、私はふと気がつきました。


「もしかして殿下が言っていた違う初めて(・・・・・)とは、このことでしょうか?」

「そうだね、これもそのひとつかな。ミシェルは未体験のことが多いみたいだから、これからもたくさんの初めてを貰いたいな」


 殿下は、初めての学食を誘い損ねたことに対して悔しく思っているようですが、そもそも私は殿下といると新鮮な体験ばかりですので、すでにかなりの数の初めてを殿下は手に入れていると思います。


 例えば、男性と手を繋ぐのは、幼い頃のセルジュ様を除けば初めてですし。

 男性と二人きりで狩りをするのも、幼い頃にセルジュ様に無理やり連れていかれて、ひどい目に遭ったのを除けば初めてです。

 誰かに本をお勧めするのも幼い頃を除けば……。セルジュ様に絵本を貸したら、落書きされて戻ってきた悲しい思い出が蘇ります。

 屋敷に私のお知り合いが訪問するのだって、幼いセルジュ様が呼んでもいないのに頻繁に来ていたのを除けば……。


 改めて考えてみると、私の初めては随分とセルジュ様に奪われていたようです……。

 妙に悔しさが湧いてくるのはなぜでしょう。



 しばらく歩くと原始的な村が見えてきて、その中にとても不釣り合いな貴族向けの建物がありました。

 村の入り口にはゴブリンが立っていて、私たちを見つけると「キキッ」と声を上げながら近づいてきました。


 殿下が食事をしたいと伝えると、そのゴブリンは建物へと案内をしてくれます。

 ゴブリンは初めて見るのですが、人間と変わらない行動ができる彼らがモンスターだなんて、不思議な気分です。


 建物の中へ入るとそこは、学園の学食と変わらないほど綺麗なレストランになっていて、大勢の学生が昼食を取っていました。

 休日にこれほどの人数が、レベル上げに励んでいたなんて驚きです。

 そのほとんどが上位クラスの生徒で、熱意の差をまざまざと見せつけられた気がしました。


 その大勢の人たちが一斉にこちらへ視線を向けたので、私は驚いて思わず殿下の後ろに隠れました。

 殿下はくすりと笑いながら私に振り返って「個室が良さそうだね」と提案してくれます。

 こくりとうなずいたところで、殿下の周りに人が集まってきたことに気がつきました。


 殿下の横から覗いてみると、UR美少女ちゃんたちが大勢いらっしゃるではありませんか……!


 紫のしなやかな髪の毛が美しいURエリザベスちゃんに、陶器のように白くてツルツルのお肌が美しいURマーガレットちゃん、あちらには前世の私が好きだったURユリアちゃんが! 長いまつげをバサバサさせている姿が麗しくて私の目が潰れてしまいそう! こんなに近くでURちゃんを拝めるなんて感激!


 はっ。

 前世の私が、思わず出て来てしまいました。


 さすがにこの人数のURちゃんに囲まれると、圧倒されてしまいます。

 SSRの私など、足元にも及ばないのは一目瞭然。容姿うんぬんというより、オーラが違います。


 皆嬉しそうに殿下に話しかけていますが、どうやら殿下が休日に狩りをするのは久しぶりのようです。


 そこへURちゃんたちの間から、ひときわ美しいオーラを放っている女性が進み出てきました。


 彼女は確か、隣国の王女アデリナ殿下。

 この国へは留学のために滞在していて、殿下と同じ上位クラスです。


「ルシアン殿下。皆様も喜んでいらっしゃるようですし、よろしければ昼食と午後の狩りをご一緒にいかがですか」

「悪いが、今日は彼女と一緒にすごしたいんだ」


 殿下はそう言いながら私を抱き寄せ、皆の前に出すのはやめてください。URちゃんたちのオーラに押しつぶされてしまいます。


 硬直した私を、アデリナ様は観察するようにじっくりと見回しました。

 そしてとても優雅な仕草で、余裕に溢れた笑みを浮かべました。


「あら、可愛らしいお嬢様ですこと。皆様、今回は残念ですがまたの機会にいたしましょう」


 彼女はURちゃんたちのトップに君臨しているのか、彼女の発言によりURちゃんたちは、残念そうに元の席へと戻っていきました。

 URちゃんをしょんぼりとさせてしまい、私も心が痛いです。けれど一緒にお食事をするなんて恐れ多くてできませんので、殿下の配慮には感謝したいと思います。


 アデリナ様は席に戻る際、一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けました。


 彼女は、前世の私がゲームをプレイしていた時点では、登場していない人物ですが。

 あのメインヒロイン級のオーラは、ただのモブではなさそうです。

 殿下とはどういうご関係なのでしょうか。




「殿下は、アデリナ様とご友人なのですか?」


 個室へ通され席についてから、そう尋ねてみました。

 メインヒロインか、新規URちゃんですか? とは聞けないのでこのような表現にしてみましたが、殿下は意外そうなお顔を私に向けます。


「ミシェルが俺のプライベートを気にするなんて、初めてだね」

「そうでしたか?」


 むしろ殿下のプライベートについては、とても興味がありますが。

 毎日私と狩りをしつつ、ハーレムを維持するのはとても大変だと思います。


「うん。俺に興味を持ってくれて嬉しいよ。今の質問はヤキモチと受け取って良いのかな?」

「良くないです。私は……」


 ただ、アデリナ様の立ち位置を把握しておきたいだけなのですが……。

 今までハーレムの内情も探ろうとしなかった私としては、不自然な質問をしてしまったかもしれません。


「心配しなくても、俺はミシェルしか見えていないよ」


 殿下はまるで、乙女ゲームか少女漫画のようなセリフを、甘い声に乗せてきます。


 ゲームの中でセリフがあるのは美少女だけで、淡々とした説明文での表現しかなかった主人公。

 美少女たちが喜び、頬を染め、時には涙を流していたのは、こんな甘い言葉をかけられていたからなのでしょうか。


「その顔は信じていないね?」

「女の子たちに囲まれた後に言われましても……」

「上位クラスは卒業後に軍に入る者が多いから、仲間としての絆が深いんだ。それに彼女らは、俺を王太子に押し上げるために今まで支えてきてくれた大切な存在だ。けれどその信頼関係と、誰かを想う気持ちを混同しないでほしいな」


 ゲームで例えるなら、殿下はメインストーリーは進めたけれど、美少女とのエピソードは開放していないと言いたいのでしょうか。

 もしそうなら殿下がハーレム形成に励んでいるというのは、私のただの勘違いになってしまいます。

 私に接触してくるのは、ハーレム勧誘が目的だと思っていたのに。


 ではどうして殿下は、私に優しくしてくれるのですか?


 さまざまな理由を考えてみたけれど、殿下の今までの言動と照らし合わせると、どうしてもひとつの答えにしかたどり着けません。

 考えれば考えるほどなぜか心臓が活発に動き、血の巡りが良くなってきます。


「ミシェル」


 必死に自分の勘違いではないかと考えていると、殿下が優しい声で私の名前を呼びました。


 殿下に視線を戻してみると、彼は頬杖をついて満足そうに微笑んでいます。


「頬を赤く染めたミシェルは、とても可愛いよ」


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◆作者ページ◆

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