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05 下位クラス


 この学園のクラス分けは、レアリティ別になっていることからも解るとおり、ほぼ基礎能力値で決まっているようです。

 けれど私のように、その枠から外れている人も何人かいます。

 その人たちの共通点としては、座学か実技の成績が極端に平均から外れているということでしょうか。


 私は座学の成績は良いほう。なので上位クラスを目指すには、実技の指標であるレベルを上位クラスの平均値までに上げる必要があると思います。

 あるいは私がSSRだということを踏まえると、基礎能力値でURに劣るので平均以上のレベルが必要になるかもしれませんが。


 どちらにせよ、皆が何年もかけて積み上げてきたレベルに追いつくなんて、到底不可能だと思います。

 さすがに殿下は冗談を言ったのでしょう。


 と、思ったのですが……。


 

 翌日の放課後。図書委員の活動中に殿下の本を選び、彼とはお別れしたはずなのに、活動を終えて玄関に向かってみれば殿下が待ち構えてるではありませんか。


「日が暮れるまであまり時間はないけれど、少しでもレベルを上げておこうか」


 冗談ではなかったことに驚きつつも、上位クラスへ編入なんて現実的ではない提案にお付き合いする義理もありません。


「それはありがたいご提案ですが、馬車を待たせておりますので」

「ミシェルの馬車には、屋敷に帰るよう伝えておいたよ。帰りは俺が送るから心配しないで」

「…………」


 さすがは殿下。ターゲットの退路はすでに断っていたようです。


 残念ながら私は、おとなしくレベル上げをするしかないようで。殿下との接点を増やしたくないと思っているのに、どうも上手くいきません。


 せめて欠片を集めて、エピソードの開放だけは阻止したいですが、殿下が見えていない欠片を集めても意味がないのではとも思ってしまいます。

 とりあえず狩りはするので欠片は集めますが、他に確実なハーレム回避方法がないか考える必要がありそうです。


「それじゃ、行こうか」


 爽やかに微笑んだ殿下は、当然のように私の手を握りました。




 殿下が張り切って狩りをしてくれているおかげで、私のレベルは順調に上がっており。

 素材もたくさんいただき欠片も増えて、私だけが得をしているような気分です。


 殿下の得になることはひとつもないのに、そこまでして私の魔法スキルを独占したい理由が不明です。

 別に私でなくても、殿下のクラスにはUR美少女が大勢いるというのに。

 魔法スキルも、URキャラのほうがよほど性能は良いのですが。


 ただ、今狩っているモンスターの素材は次の授業で使うので、とても助かります。

 お礼を言うと、どうやら殿下も次の授業で同じ素材を使うようで。


「素材加工の授業は内容が同じなのですね」

「そうみたいだね。いつも素材集めはどうしているの? この辺りは下位クラスだと少しきついだろう?」

「クラスでパーティーを組むこともありますが、私は中位クラスから買い取る場合が多いです」


 私はこのとおり足手まといでしかないので、あまりパーティーに呼ばれることもなく。ほとんど買取で済ませています。

 

 中位クラスの方が売ってくれる素材はぼったくり価格ではありますが、それがなければ授業を受けられませんので助かっています。


「それなら授業で使う素材は、レベル上げついでに一緒に集めることにしようか」

「……助かります」


 また接点が増えてしまいますが、どのみち上位クラスに編入するまで開放してもらえなさそうです。それに素材集めは正直いうと、本当に助かります。


 なんだかんだで殿下には助けてもらってばかりで、素直に感謝したいのにハーレムがそれを邪魔します。




 日が暮れるまで狩りをした後、殿下は約束通りに私を馬車で送ってくれました。

 屋敷に到着し、今日のお礼を言って降りようとしましたが、殿下は私の手を握ってそれを遮ります。


「ミシェル……、本当に嫌な場合ははっきりと断って良いからね」


 何の脈絡もなくそう言った殿下は、辛そうなお顔をしています。

 彼自身、強引に事を進めている自覚はあったのかもしれません。


 私は本当に殿下のハーレムには入りたくないので、できることなら関わりたくないと思っています。

 けれどここ数日間に殿下と接してわかったのは、彼は優しくて頼りになり、笑顔の絶えない素敵な男性ということ。


 それに対して私ときたら、常に無表情。


 いくらハーレムが嫌だからといって、彼をこんな顔にさせてしまうのは違うのではないでしょうか。


「今日の狩りは、とても楽しかったです。おやすみなさい、ルシアン殿下」


 機敏に動くことが苦手な私は、補助役としてもパーティーではお荷物で。狩りを楽しいと思ったことは、今まで一度もありませんでした。

 けれど私が補助魔法をかけやすいように殿下が気を遣ってくれたおかげで、殿下との狩りは本当に楽しく思えたのです。


 感謝の意味を込めて初めて殿下に微笑んで見せると、彼はぽかんとした表情で握っていた私の手を離しました。


 ここで黙られても、困ります。


 慣れないことをして急に恥ずかしくなった私は、逃げるように馬車を降りたのでした。






 翌日。

 私には重大な任務がありました。


 殿下は昨日の狩りで、私が授業で使う素材だけではなくクラス全員の分を集めてくれたのです。

 これをクラスの皆に配らなければならないのですが、私には立ちはだかる難題がありました。


 正直に申し上げますと、私はこのクラスで浮いています。

 基礎能力値でいえば中位クラスでも上のほうに位置するはずの私が、実技の不得意さゆえに下位クラスに落ちてしまったのですから、積極的に仲良くなりたいと思う人がいるはずもなく。

 初めは魔法スキル目的でパーティーに誘われることもありましたが、近年では補助役が見つからない場合の最終手段としてしか誘われません。

 授業の実技でもいつも最後に余るので、仕方なく委員長がパーティーに入れてくれます。


 いじめられているわけではありませんが、前世の言葉でいうところの『ぼっち』状態なのです。


 そんな私が皆に素材を配るなんて、できそうにありません。

 申し訳ありませんが、今回も委員長に頼らせていただくことにします。


「おはようございます、委員長。ご相談があるのですが、少しよろしいでしょうか」


 一番前の席で勉強をしていた彼にそう声をかけると、委員長は教科書から顔を上げて私に視線を移しました。


「おはよう。ミシェル嬢から話しかけてくるなんて珍しいね。どうかしたの?」

「実はルシアン殿下からこのクラス全員に、素材の差し入れがありまして」


 そう言いながら、魔道具の圧縮袋から素材をひとつ取り出して委員長に見せると、彼は眉間にシワを寄せました。


「ミシェル嬢は、殿下と親しい間柄だったの?」

「いえ。親しくはありませんが、狩りをご一緒する機会がありまして」

「そう……。それで? 皆に配る勇気がないから、僕に代わってほしいと?」


 妙にほっとした様子の委員長に、適格すぎる私の要件を言い当てられてしまい。申し訳なく思いながらも返事をすると、彼はため息をつきながら教科書を机の下にしまいました。


「相変わらずだね、ミシェル嬢は。いいよ、僕が代わってあげるから素材を全部渡して」


 嫌々ながらも彼は、いつもこうしてクラスの面倒を見てくれるしっかり者の委員長なのです。


 素材を全て渡してからお礼を伝え、感謝の印として素材をひとつ多く彼に渡して席に戻りました。

 これでなんとか、殿下が集めてくれた素材が皆に行き渡りそうで一安心です。



 委員長はチャイムが鳴ってから、全員に事情を説明しつつ素材を配ってくれました。

 男女関係なく人気があるルシアン殿下からの差し入れということで、クラスの皆はとても喜んでくれました。


「ねぇねぇ、ミシェル様はルシアン殿下とよく狩りをするの?」

「これからは、そうなりそうです」


 今までろくに話したこともなかったSR美少女ちゃんが、気さくに話しかけてきて。内心驚きつつもそう返すと、周りにいた子たちも「きゃー!」と騒ぎながら、私を囲むように集まってきました。


「いいないいな! 今度、私も誘ってほしいな!」

「私も私も!」

「ルシアン殿下に、聞いてみますね」


 SRちゃんとRちゃんたちを連れて行けば、ハーレム好きの殿下は喜ぶのでは?

 もしかしたら彼女たちを気に入って、私への興味が薄れるかもしれません。


 これはぜひとも殿下に提案しなければと思っていると、後ろにいた子が急に私の肩を掴んできたので、驚いて一瞬肩を震わせてしまいました。


「ミシェルちゃん硬いわ! クラスメイトなんだから、敬語なんていらないのに」

「そうよ、もっと皆と仲良くしましょう」

「私、ミシェルちゃんとお友達になりたいわ!」

「うん……。ありがとう、皆」


 最終学年になるまで学園にお友達がひとりもいなかった私なのに、殿下の手にかかればあっという間にお友達ができてしまうようです。

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◆作者ページ◆

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