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35 殿下の誕生日


 後日。アデリナ殿下はクロード殿下に婚約破棄され、国へ強制送還されました。


 殺人未遂の罰としては軽すぎるのかもしれませんが、私が外交面で禍根を残さないようにしてほしいとお願いしたので、婚約破棄という形になったようです。

 いずれ殿下が治めるかもしれないこの国の将来に、負担をかけたくはありません。私はこのような結果になり、良かったと思っています。


 婚約破棄の理由は教えてもらえませんでしたが、彼女は自国へ戻ったら修道院で暮らすことを望んだそうです。

 どういう心境の変化なのかわかりかねますが、婚約破棄についてはクロード殿下が主導してくれたようなので、これ以上はあまり考えたくはありません。

 



 事件が収束したことにホッとしながら、私は馬車に揺られて王城へ向かっていました。

 膝の上には、赤いリボンをかけた蜂蜜色の箱があります。


「殿下は喜んでくださるかしら」

「もちろんですとも! お嬢様の刺繍は、いつも惚れ惚れする出来栄えですもの!」


 向かいに座っているメイドは、自身の袖に施されている刺繍を嬉しそうに眺めました。


 彼女はこの前、ドルイユ家に同行していたメイドです。

 あの日は私がさらわれたことに気がついた後、隙をついてドルイユ家から逃げ出したのだとか。そして屋敷に報告へ向かう途中で、ドルイユ家の者を捕縛に向かう騎士団と出会ったそうです。


 彼女が屋敷内の状況を伝えたおかげで捕縛がスムーズにおこなえたと、騎士団から感謝状が贈られました。

 お父様からも特別手当が支給され、私もお礼と屋敷に残してしまったお詫びとして、彼女のブラウスに刺繍をしました。

 使用人に感謝する際はいつも刺繍をしているのですが、使用人からは「勲章を貰ったようで励みになります」と、おおげさなほど好評だったりします。


 今回捕縛されたのは、ドルイユ家の他に第三王子派の貴族が数名。あの日はお茶会ではなく、派閥の一部が集まっていたのだそうです。

 彼らは過激な思想を持っていたそうで、クロード殿下は「処分できてすっきりした」と満面に笑みを浮かべていました。


 クラリス様とはあの日以来、会っていません。彼女は学園を辞めてしまったので、今後も会うことはないのかもしれません。

 同じく委員長も学園を辞めたそうですが、彼がその後どうなったのかは教えてもらえませんでした。





「ミシェル、会いたかったよ」


 王城に到着し、殿下のお部屋に案内されて中へ入ると、彼は嬉しそうに迎え入れてくれました。


「先ほどまで、一緒にいたではありませんか」


 晴れて私は上位クラスに編入できたので、殿下と同じ教室で学べるようになりました。

 何らかの配慮があったのか、それとも元々殿下の隣が空席だったのかわかりませんが、私たちの席は隣同士です。

 私が編入した日、殿下は教科書を忘れてしまったそうなので、私の教科書を二人で使っていたのですが。シリル様に「毎日はいけませんよ」と注意されていたので、どうやら確信犯だったようです。


「今日は特別な日だから。本当は二人きりで過ごしたい気分だよ」

「ふふ、それだと婚約発表できませんよ?」

「うん。それも大切だからね。来年は結婚した後だし、二人きりで過ごしたいな」


 今夜おこなわれる殿下の成人を祝うパーティーでは、私たちの婚約が発表されることになっています。


 殿下はまるでこの日のために、私たちの諸問題を全て解決してきたのではないかと思えるほど、彼の思いどおりに事が運んでいるように思えます。

 これも主人公としての力なのか、はたまた私が知らないだけでこれがメインストーリーなのか。

 どちらにせよ、殿下のお誕生日に婚約の発表もできるのは、私としても嬉しいです。



 お茶の準備が終わると殿下は人払いをしたので、私もメイドに持ってもらっていたプレゼントの箱を受け取り、彼女には下がってもらいました。


「ルシアン殿下。改めまして、成人のお誕生日おめでとうございます」


 プレゼントの箱を渡すと、彼は「ありがとう、ミシェルの色だね」と目を細めて微笑みました。

 大切そうな仕草で、丁寧にリボンを解いて箱の中を確認した殿下は、驚いた様子で刺繍されたハンカチを広げました。


「これは、ミシェルが刺繍してくれたの?」

「はい。殿下が、私の髪の毛と瞳の色がお好きだと言ってくださったので、その色を使ってみたのですが……」

「素晴らしいよ! ミシェルはお菓子作りだけではなく、刺繍も得意だったんだね。驚いたよ……」


 刺繍をしてみようと思ったきっかけも、刺繍の本を読んでいたら自分でもしてみたくなったからで。

 私の好奇心は、本に影響されることがほとんどだったりします。


 殿下は私に抱きつくと「嬉しいよ、俺の宝物だ」と喜んでくれました。

 そして、殿下の膝の上にあった箱の位置がずれたことにより、殿下は気がついてくれたようです。


「……まだ、箱に何か入っているの?」


 彼がそう言いながら箱の中身を確認するのを、私は緊張しながら見つめました。


「ミシェル、これ……」


 殿下がそっと箱から取り出したのは、赤いハート型のクリスタル。

 私の欠片を百個集めて変化した、あのクリスタルです。

 思ったとおり、殿下はそれを手に取ることができるようです。


 クリスタルを見つめた殿下は「気がついていたの?」と呟きました。


「はい。私が拾いやすいように配慮してくださっている気がしていましたし、クリスタルを確認した時に、殿下もクリスタルを見つめている姿が映っていたもので」


 殿下に悟られないよう、彼が見ていない隙に欠片を拾っていましたが。その隙が多すぎることには、百個も集めているうちに気がついてしまいました。


 殿下はずっと、欠片が見えないふりをしていたのです。

 それを確信したのは、クリスタルに映った殿下の姿でした。

 私の『心』とも言えるこのクリスタルを見つめる彼は、とても幸せそうに見えたのです。


「そっか……。気がつかれないようにしてたつもりだったんだけど、俺もまだまだだね」


 殿下は小さく微笑むと、私の顔を覗き込みました。

 探るような視線を向けながら私の頬をなでる殿下に反応して、私の心臓は大きく波打ち始めました。


「ねぇ、ミシェル。これは俺にしか見えないアイテムのはずなんだけど、なぜミシェルにも見えているの?」



次回でラスト……の予定です!

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