表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/37

27 早朝の学園


 帰りの馬車。


「不安なことがあれば、いつでも俺に相談してね」


 そう提案してくれた殿下に、私はどうしても聞いておきたいことを質問してみました。


「あの……、殿下は愛のない結婚は望んでいないとおっしゃいましたが、側室についても同じお考えなのでしょうか……」


 王太子妃になると決意したので、もううじうじ悩んでいても仕方ありません。直接聞いて心の準備をするしかないと思ったのですが。


 それを聞いた殿下は、ぽかんとした顔で私を見つめました。


「あの……」


 このような質問をしてはいけなかったのでしょうか。

 しかし殿下は、次第に嬉しそうなお顔に変わります。


「今から側室の心配をするなんて、ミシェルも意外と独占欲が強いんだね」

「そのような意味では……」


 と反論しようと思いましたが、改めて考えるとそういう意味になってしまう気がします。

 前世の常識があるので、一夫多妻制が受け入れられないという理由もありますが、結局は殿下が他の女性に目を向けるのが嫌なだけなんです。


「心配しなくても、俺はミシェル以外に娶るつもりはないよ」

「本当ですか……?」

「うん。この国で側室を迎える理由は主に二つ。ひとつは後ろ盾を得るため、もうひとつは子供を多く得るため。俺の後ろ盾には婚姻で関係を深めるつもりはないと伝えてあるし、ミシェルが俺たちの子をたくさん産んでくれるなら側室は必要ないんだけど?」

「がっ……頑張りますっ」


 悩んだ日々は何だったのだろうと思えるほどに、またも殿下は私の難題をあっさりと解決してしまいました。





 翌朝。

 学園の門で馬車から降りた私に、メイドは笑顔で杖を差し出しました。


「どうぞ。お気をつけて行ってらっしゃいませ、ミシェルお嬢様」

「ありがとう、行ってくるわ」


 メイドに見送られて門の中へと入った私は、手に持っている杖に視線を向けて小さくため息をつきました。


 昨夜の夜会での失態については、私も大いに反省しました。

 殿下は、私が悪いわけではないように振る舞ってくれましたが、私が杖をちゃんと持ち歩き、落ち着いて行動していればあのような事態は避けられたのです。


 今までは周りにどう思われても良いと思っていたのですが、これからはそうもいきません。

 私の評判はそのまま殿下の評判に直結するでしょうから、彼の隣に相応しい女性になるべく努力をしていくつもりです。


 その第一歩として杖を持ち歩こうと思ったのですが。皆の視線を浴びてしまう気がしたので、今朝は早く学園へ来てしまいました。


 辺りに人影がなくてホッとしつつ教室へ向かったのですが、時間がありすぎて暇なのでカバンを席に置いてから教室を出ました。


 お庭の散歩と、図書室の、どちらにしましょう。

 そう考えながら渡り廊下に差し掛かると、殿下の姿が見えて。


 朝早くから殿下に会えるなんて嬉しいと思いながら、声をかけようと思った時。

 彼の視線の先にアデリナ殿下がいることに気がつき、私は慌てて柱の陰に隠れました。


「なぜ、私との婚約を辞退したのですか!」

「君がミシェルに嫌がらせをしようとしたあの日、君の気持には応えられないと伝えただろう。君は素直にそれを受け入れたと思っていたが?」

「確かに受け入れましたわ。けれど、この短期間で婚約が覆されるとは思っていませんでしたもの!」


 アデリナ殿下はルシアン殿下の胸ぐらに掴みかかりましたが、彼は毅然とした態度で彼女を見下ろしています。


「君の父親とは長い間、交渉を重ねてきたんだ。俺の後ろ盾が所有する宝石鉱山について、あちらに有利な取引を持ち掛けることで、色よい返事をもらったよ」


 ルダリア王国の国王は、無類の宝石好きとして周辺諸国に広く知られています。

 国王の宝石コレクションの画集まで作られており。図書室にも数冊あるので読んだことがありますが、素晴らしい装飾が施された美しい宝石ばかりでした。


「私の未来より、宝石取引を優先するなんてっ……」


 アデリナ殿下は悔しそうに、殿下の制服を掴む手に力を込めました。しかし急に雰囲気が柔らかくなり、甘えるような仕草で殿下にぴたりと身を寄せます。


「ルシアン殿下、もう一度冷静にお考え直しくださいませ。殿下があの子を気に入っておられるのでしたら、側室として迎えたらよろしいではありませんか。伯爵家なんて大した後ろ盾にはなりませんし、地味で特に秀でた才能もない落ちこぼれよりも、私を正妃に据えたほうがよほど殿下の利益になりますわ。私は上位クラスの中でも特に魔法の才能がありますし、自分で言うのもなんですが華があるので社交界での存在感があります。それにプロポーションだって私のほうが断然良いと思いませんか?」


 彼女がメインヒロインだったのかは結局わからないままですが、それに相応しいオーラと美貌とプロポーションを兼ね備えています。

 それに比べて私は、歳のわりに幼い見た目をしていますが、一定の需要があるからこそ私みたいなキャラも存在しているのですよ……。

 殿下はどちらのタイプがお好みなのかは、わかりかねますが。


「俺の大切な人を侮辱するのは、止めてくれないか。君は遊び歩いていて知らなかったようだが、昨日のミシェルは国王から勲章を授与されている。彼女は本の知識に長けていて、解決が困難とされていたアーデル地方の病害についての解決法を提供し、自らの力でアーデル公爵の後ろ盾も得た。魔法はもうすぐ上位クラスに編入できるレベルにまで達している」


 殿下はそこで一呼吸置くと、蔑むような笑みを浮かべながらアデリナ殿下を見下ろしました。


「それにミシェルは、君より可愛い」

「なっ……!」


 アデリナ殿下は顔を真っ赤にして殿下から離れると「殿下が、幼女趣味だとは思いませんでしたわ!」と叫びながら、玄関の方角へと走り去っていきました。


 幼女はさすがに、ひどいです……。

 そして、殿下をロリコンみたいに言わないでください……。


 心に大ダメージを受けているところへ殿下がこちらに向かってきたので、慌てて柱と壁の隙間に隠れました。

 このまま身を潜めていれば見つからずに……、なんて浅はかな考えが浮かびましたが、殿下がそんなに鈍感なはずもなく。


「ミシェル、終わったから出ておいで」

「……気がついていたのですか?」

「うん。慌てて隠れる姿も可愛かったよ」

「申し訳ありませんでした……。立ち聞きはいけないと思いつつも、内容が気になってしまって……」

「聞くのは構わないけど、気分の悪くなる内容を聞かせてしまってごめんね」


 殿下は私を抱き寄せると、慰めるように頭をなでました。


 アデリナ殿下の怒りを受け止めた殿下のほうが、精神を削られたと思うのですが。

 労うように殿下の背中をなでてみると、彼は私を両腕でぎゅっと抱きしめました。


 朝から殿下に抱きしめて貰えるのは幸せですが、アデリナ殿下のことがどうしても気になってしまいます。


「あの……。アデリナ殿下は今ので、ご納得していただけたのでしょうか?」

「どうだろうね。しばらくは警戒しておいた方が良いかもしれない。ミシェルはなるべく、ひとりにならないようにしてね。少しでも異変があれば、すぐ俺に相談して」

「はい……。殿下も気をつけてくださいね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ