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23 勲章授与式


 本日は殿下と私以外にも、これまで殿下と一緒に病害対策をしてきた方々が勲章を授与されます。


 式が始まる前に殿下がその方々を紹介してくれたのですが、皆様にはとても感謝されてしまいました。

 殿下も話してくれたように、材料の情報がなければ魔法薬の開発に何年もかかっていたので、その間に大損害が生まれていただろうと。


 それでも勲章授与はおおげさだと思うのですが、皆様のお役に立てたことについては素直に嬉しく思います。




 勲章授与式へは、どういうわけか殿下にエスコートされながら、一番初めに入場する羽目に。

 おまけの私は最後尾で良いと言ったのですが、殿下に口で勝てるはずもなく。気がつけば、殿下のエスコートまで追加されていました。


 ただ、殿下が隣にいてくれるというのは何よりも心強いのは確かで。私は緊張しながらも、大失敗することなく入場を完了できました。



 式では、国王陛下がひとりひとりに勲章を授けてくださったのですが、私に授けてくださる際には小声で話しかけてくださり。


「息子がいつも、世話になっているそうだね」

「とんでもございません、国王陛下。お世話になっているのは私のほうで、ルシアン殿下にはいつも感謝しております」

「お互いに助け合えるのは良いものだ。これからも息子を頼んだよ」

「はっ、はいっ」


 殿下に似た穏やかな雰囲気の国王陛下が微笑む姿は、十数年後の殿下を思わせました。

 彼もいつかは王位に就いて、こうして勲章授与などをするのでしょう。

 その時には私も、どこかでその姿を見守りたいです。



 勲章授与後。陛下からのお言葉では、私を才女(・・)と表現されていて。

 皆様から注目を浴びてしまったのは言うまでもなく、ひたすら恐縮してしまいました。

 私はただ単に、大好きな本に関する記憶力に長けているだけなのに、才女はおおげさすぎます。



 最後に式に参列している貴族の方々から、盛大な拍手が起こりました。

 その中にはもちろん、お父様とお母様もいて。

 お父様なんてハンカチで目頭を押さえているのが見えて、とんだ親バカぶりに恥ずかしくなってしまいました。


「ねぇミシェル。こうして人の役に立てることは、とても幸せだと思わない?」


 拍手の中、隣の殿下がそうぽつりと呟きました。

 彼のお顔を見上げてみれば、とても嬉しそうに貴族全員に視線を向けています。


「そうですね。私も微力ながらお手伝いができて、良かったです」

「ありきたりだけれど、俺はこの国をもっと良くするために王位に就きたいんだ。ミシェル、これからも俺のそばで支えてくれないかな?」

「もちろんですっ。陰ながらお手伝いさせていただきます」

「ありがとう、嬉しいよミシェル」


 殿下はそう微笑むと、私の前に移動しました。

 皆様に背を向けてどうしたのかと思っていると。


「俺からもうひとつ、お礼をさせてもらうね」

「え……?」


 考える間も与えられず、殿下は即行動に移しました。


 私の前に片膝をついた彼は、優雅な仕草で私の手を取ると、手の甲に口づけを……。


「でっ……!」


 何とか声を抑えることに成功した私の代弁者は、この会場にいる貴族のご婦人方でした。

 あちらこちらから上がる悲鳴に釣られるように、貴族男性からも歓声があがり。私は完全に硬直してしまいました。


 殿下、ここは学園ではないのですよ。

 せっかく地味なドレスを選んだのに、これでは完全に私が主役ではありませんかっ。


 私の手の甲から唇を離した殿下は、それはもう無邪気なお顔で微笑んでおり。

 可愛い殿下と手の甲に残る感触との相乗効果で、私の頭の中は真っ白になってしまいました。





 控室で休憩と着替えを済ませた私は、再び迎えに来てくれた殿下と共に夜会会場へと向かいました。


「少しは落ち着けた?」


 そう尋ねてくる殿下は、勲章授与式の時とは変わり黒い衣装になっています。

 白い衣装も王子っぽくて素敵でしたが、黒い衣装も魅惑的でどきどきしてしまいます。


 対する私は、淡いオレンジ色のドレスに着替えてみました。こちらにも天使の羽根のようなリボンがついています。


「はい……、なんとか」

「驚かせてしまってごめんね。あれも地盤固めには必要だったんだ」


 私の手の甲に口づけするパフォーマンスが、どう地盤固めに役立つのでしょうか。


 今日はもう私の役目はないので、夜会は楽しんでほしいと殿下は苦笑しました。

 そんな殿下自身は、夜会でちょっとした発表に駆り出されるので、少し抜けることになると残念そうでした。




 私の役目はないとのことでしたが、会場へ入った殿下と私は貴族の皆様からひっきりなしに声をかけられてしまいました。


 勲章授与式では国王陛下と殿下によって、すっかり主役として持ち上げられてしまいましたので仕方ないです。

 けれど会話の内容は本についてがほとんどでしたので、私も思いのほか楽しくお話しさせてもらいました。


 これまで頑なに拒んでいた社交界ですが、私でもそれなりに立ち回ることはできるようです。殿下が隣にいると不思議と、できないと思っていたことができるようになる気がします。


 アーデル地方を治めているアーデル公爵様にもご挨拶させていただき、公爵様から直々に感謝までされてしまいました。

 公爵様は殿下の後ろ盾になってくださるそうで、国の貴族で一番影響力のある後ろ盾を得られたと殿下は喜んでいました。

 殿下の地盤固めは、順調のようです。



 やっとご挨拶もひと段落したので、シリル様とセルジュ様と合流し雑談をしていると、殿下の元へ人がやってきて。

 その人に耳打ちされた殿下はうなずくと、私に視線を向けました。


「ミシェルごめんね。そろそろ発表の時間みたいだから、少し離れるよ」


 殿下は名残惜しそうに私の頭をなでてから、私の耳元で「心配しないでね」と囁きました。


 それからシリル様とセルジュ様に私を頼むと言い残して、殿下はこの場を去っていきました。


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