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20 狩りの後


 殿下が忙しいため、一緒に狩りもできず。

 レベル上げは続けてほしいと彼にお願いされたので、最近はシリル様とセルジュ様が狩りに連れて行ってくれます。


 ちなみに中位クラスの男子生徒とも狩りをする予定でしたが、実際に誘ってみると全員「用事があるのでその件は無かったことに」と、なんだか怯えた様子で断られてしまいました。

 あんなに楽しみにしていたようなのに、男心はよくわかりません。




 魔の森。

 モンスターを見つけた私は、杖を構えました。


「えいっ! えいっ!」

「僕の愛に溺れてみますか?」


 シリル様の魔法は水属性で、杖の先から出現した水の龍によってモンスターは飲み込まれてしまいました。


「えいっ! えいっ!」

「お前を守れるのは俺だけだ!」


 セルジュ様は殿下と同じように、武器に魔法を付与して戦います。

 彼は風属性で、鉾を振るう動作に連動して風がモンスターを切り裂きます。


 モンスターが倒されて消えると、セルジュ様はがくりとその場にうずくまりました。


「くっ……ははははは!」

「もう……! いい加減に慣れてください、セルジュ様」

「だって、エルが可愛すぎて! その掛け声、どうにかならないのかよ! あははは!」

「無理です……。勝手に口から出るんですから……」


 私の通常攻撃の掛け声が、セルジュ様のツボにハマってしまったようで。毎日のようにこうして笑われています。

 通常攻撃もスキルという認識なのか、どう頑張ってもこの掛け声は出てしまうんです。


 どうして私が通常攻撃で戦っているかというと、殿下によって魔法禁止令(・・・・・)が出されてしまったからで。

 殿下曰く「ミシェルの魔法詠唱を、他の者には聞かせたくない」だそうです。


 私としても恥ずかしいのであまり聞かれたくはないのですが、シリル様とセルジュ様の魔法詠唱も、私と負けず劣らずの恥ずかしいものでした。

 と言いますか、この学園に通う生徒の魔法詠唱はたいていの場合恥ずかしいものなので、お互い様なのですが。


「セルジュは放っておいて、先に進みましょうかミシェル嬢」


 シリル様は呆れた表情でそう言ってから、地面に落ちているドロップ品を拾いました。けれど今回も、ドロップされたのはモンスターの素材だけでした。


 二人と狩りをすると、どういうわけか私の欠片がドロップされません。

 もうすぐ百個集まりそうなのに、今は残念ながら停滞中です。


 今さら欠片を集めても意味がないように思いますが、一度始めてしまったのでコンプしたいというコレクション魂で集めています。


 そんなことを考えながら歩いていたら足元をよく見ていなくて、何かにつまずきうつ伏せに転んでしまいました。ルジュ様はここでも大笑いして、ひどいと思います。

 ただ幼い頃とは違い土に埋めるのではなく、猫でも抱き上げるかのように起こしてくれましたが。


「それにしても、殿下もよくあんなに頑張れるよな。王女を選んでおけば楽できるのに」


 笑いが収まったセルジュ様は唐突に話題を振ってきましたが、選ぶとは何の話でしょうか。


「そりゃ殿下は、ミシェル嬢しか目に入っていませんからね」

「私ですか?」


 シリル様の言葉に首を傾げると、二人とも驚いた表情を見せました。


「まさかエル、殿下の気持ちに気がついていないのか?」

「あの……。殿下のお気持ちには気がついていますが、お話の内容がわからなくて……」


 まさかこのような告白を二人にするとは思っていなかったので、恥ずかしいです。

 シリル様は納得したように微笑みました。


「セルジュが言ったのは、殿下の結婚相手についてですよ」

「アデリナ殿下は、殿下のご結婚相手候補ということでしょうか」

「はい。アデリナ殿下は王子のどなたかとご結婚する予定で留学されたのですが……、ご存じありませんでしたか?」


 殿下がアデリナ殿下との関係を話してくれた際には、王家が招いた客人としか言っていませんでした。

 それにこの学園には、魔法を学ぶために周辺諸国からも生徒が集まるので、アデリナ殿下の留学目的については特に疑問をもっていませんでした。


「知りませんでした……。アデリナ殿下とご結婚すると、強力な後ろ盾を得ることになるのですよね?」

「そうですね。隣国とは友好関係にありますから、後ろ盾としての意味は大きいです。けれど殿下が言われていたとおり、地道な信頼関係を築くことで殿下は着実に後ろ盾を増やしています。ミシェル嬢が気にすることではありませんよ」


 シリル様は「余計なことを言うな」と、セルジュ様の頭を杖でぽかりと叩きました。


 気にするなと言われましても、殿下の王位に関する重要な件ですし気になってしまいます。


 セルジュ様の口ぶりだと、殿下はアデリナ殿下を娶るつもりはなさそうですが、果たしてそのようなことが可能なのでしょうか。

 隣国としては次期国王に嫁がせたいでしょうし、殿下の気持ちだけで王子の結婚相手を好き勝手に決められるはずもありません。


 それにこの前アデリナ様が言っていた『目的』とは、結婚相手を決めることだったのだと思うのです。

 それが果たせるとは、もうすぐアデリナ様も結婚相手が決まるということで。彼女の晴れやかなお顔から察するに、希望通りになったと受け取れます。


 そして、アデリナ様がお慕いしている王子は……。





 殿下との狩りを始めてからは、いつも帰りは彼が馬車で送ってくれていたので、最近はシリル様とセルジュ様も狩りの後は、交代で屋敷まで送ってくれます。

 至れり尽くせりで、なんだか申し訳なくなってしまいます。


 セルジュ様が送ってくれる日は、ちゃっかり我が家で夕食を食べていったりしますが、両親は遠くにいた息子が帰ってきたようで嬉しいと喜んでいます。


「ほんと、エルの家は居心地がいいよなぁー」


 夕食後、当然のように私の部屋へ一緒に入ってきたセルジュ様は、満足そうなお顔でソファーに腰かけました。


「今日は寝ないでくださいよ。この前は大変だったんですから」


 前回セルジュ様が来た日は、ソファーでそのまま寝てしまい起こすのにとても苦労したんです。

 私を抱き枕代わりにしようとするし、結局ほっぺたをひねり上げてなんとか起こしましたが。


「わかってるって。今日は話したいこともあるしな」

「話したいこと?」


 セルジュ様がわざわざそんなふうに言うとは、大切なお話しのようです。 

 お茶の用意をしてくれたメイドを下がらせてから、彼の向かい側に座りました。


 いつもマイペースなセルジュ様ですが、彼も姿勢正しく座り直すと私を真っ直ぐに見つめます。


 彼のきつい目も怖くて苦手でしたが、今ではこうして見つめられても怖くないくらいに、彼との関係は改善されたのだと、改めて思っていると。


「エル、俺にしないか?」

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◆作者ページ◆

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