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17 殿下の好み

 それからいつものように殿下にお勧めする本の棚へ向かう途中、男子生徒との約束について殿下に早速相談してみました。


「モンスターの死骸を浄化する際に使った回復魔法を、皆様が気に入ってしまったようで。今度殿下との狩りに、誘ってほしいとのことなのですが……」

「ミシェルからの頼みならば、俺は構わないよ。ただ、皆が気に入ったという回復魔法を俺にもかけてほしいな」


 殿下は立ち止まると、にっこりと微笑みます。


「ここで、ですか……?」

「うん。ミシェルを心配しすぎて、HPが減ってしまったよ」


 そんなことで、HPは減らないと思いますが……。

 けれど、心配させてしまったのは事実ですし、狩りに連れて行ってもらうのですから見せる義務はあるように思います。

 殿下はとても強いので今まで回復魔法が必要なかったのですが、ついに見せる羽目になってしまいました。


 殿下に本棚の陰へと移動してもらい、私は杖を取り出しました。


「恥ずかしい詠唱なので、注意してくださいね……」

「今度はどんな可愛い詠唱なのか、楽しみだな」


 とてもご機嫌な殿下は、返すセリフでも考えているのでしょう。注意するべきは、私のほうなのかもしれません。


 ここで魔法が失敗したら、恥ずかしさだけが残り死にたくなりそうなので、深呼吸をして目標に集中しました。


「ミシェルのこと好きって言ってほしいの」


 回復魔法を詠唱すると、殿下の身体は一瞬だけ暖かい光に包まれました。


 けれど、魔法は無事に成功しましたが、肝心の殿下の反応がありません。

 男子生徒みたく固まっているのかと思いながら、殿下の顔を見上げた瞬間。

 彼は、私に背を向けてしまいました。


 よく見れば、殿下の耳が赤くなっています。


「ありがとう、ミシェル……。最高の気分だよ……」






 翌朝。

 殿下は嫌がらせを止めてくれると言ってくれましたが、クラスの男子生徒は今日も見張るために早く登校するかもしれません。なので今日も、早めに屋敷を出ました。


 馬車を降りて学園の門をくぐりましたが、昨日よりも早く到着したので外を歩いている学生はいません。

 玄関にも誰の姿もなく、今日は私が一番に到着したようです。


 誰か来るのを待とうかとも思ったのですが、教室の様子が気になります。一人で向かうことにしたのですが。

 教室にたどり着いたと同時に、ドアが開いて。


「ミシェルおはよう、ずいぶんと早いんだね」


 殿下が、朝日のように爽やかな笑みを浮かべながら、教室から出てきました。


「おはようございます殿下。あの……、教室の様子は……?」

「大丈夫だよ。もう嫌がらせは起きないから、安心して」


 殿下が教室の中に視線を向けたので、私も教室の中を覗いて見ると。室内は奇妙なほど、綺麗に整えられていました。

 まるで、何かを隠蔽したかのように。


 ここで何か起きたのかとても気になりますが、殿下が対処してくれたと思うべきでしょう。


「朝早くから対応していただき、ありがとうございます殿下」

「たいしたことはしていないよ。むしろ、朝からミシェルに会えて嬉しいな」


 早起きをして得したと言いながら殿下が私の頭をなでていると、後ろから数名の足音が聞こえてきました。

 振り返ってみると、ジル様と数人の男子生徒が私たちを見つけて駆け寄ってきます。


「教室の様子は」と尋ねてくるジル様に私が返答するよりも早く、殿下は私を抱き寄せました。


「皆には、迷惑をかけてしまい申し訳なかった。ミシェルを助けてくれて感謝する。この件については俺が処理したから、もう心配はいらないよ」


 皆は殿下に視線を向けたまま、ぽかんとした顔になってしまいました。

 昨日まで犯人の目星もついていなかったのに、突然出てきた殿下にそう言われても、すぐには信じられないのかもしれません。


 ただその中のひとり、ジル様だけは小さく笑みをこぼしました。


 協力してくれたクラスメイトに私からもお礼を述べると、ジル様は平常運転に戻ったかのように軽く手をあげるだけで、そのまま教室へと入っていきました。






 お昼休み。

 食後のデザートにと思い、昨日は屋敷に帰ってからフィナンシェを作ってみました。

 殿下にはお世話になりっぱなしなのでお礼をしたいのですが、喜んでもらえそうなものがこれしか思い浮かばず……。

 考えてみたら、私は殿下の好みを何も知らなくて愕然としました。


「ミシェルが作ってくれるお菓子なら、何でも嬉しいよ」


 殿下の好みを探るべく、手始めに好きなお菓子はと尋ねてみたところ、そんな返事が返ってきました。

 事実、フィナンシェも目を輝かせて喜んでくれたので私としても嬉しいのですが、聞きたいのは殿下自身の好みなんです。


 続いて、好きな色ならどうかと思い尋ねてみると。


「ミシェルの髪色は蜂蜜のようで、可愛いよ。瞳も真っ赤な果実のようで、思わず食べてしまいたくなる」


 私の髪の毛を手に取った殿下は。愛おしそうなお顔で髪の毛に口づけをします。


 シリル様と昼寝中のセルジュ様もいるのに、大胆すぎませんかっ。


「後、ミシェルのその表情も大好物だよ」


 一体私は、どのような表情をしているのですか?

 殿下の好みを探ろうとしただけなのに、どうして私はこんなにも恥ずかしい目に遭っているのでしょう。


「もうすぐ俺の誕生日だから、今のをぜひ参考にしてほしいな」

「ぜっ、善処します」


 殿下の言うとおり、もうすぐ彼の誕生日もやってくるのです。

 お礼も思い浮かばないのに、誕生日プレゼントなんて何を差し上げたら良いか……。


 今のを参考にすると、私を差し出す以外に思い浮かばないのですが、さすがに人間をプレゼントにはできませんし……。



 フィナンシェを食べ終えた殿下は資料を読みはじめましたが、必要な情報が足りないようで。シリル様と困った様子で話し合っています。


 話の内容を聞いていて、私にできるお礼はこれが良いのではと思いつきました。


「私に資料探しのお手伝いをさせていただけませんか」

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