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14 二度目の


 翌日。そんな気分のまま登校した私ですが。教室のドアを開けた瞬間、正気に戻りました。


「あっ……、ミシェル様おはようございます……」

「あの、すぐに掃除が終わりますので……」


 SSRちゃんたちが、気づかわしげにそう声をかけてきます。


 私の席の周りには、昨日と同じようにクラスメイトが集まっていて。その中心にある私の席は、土だらけになっていました。

 それを下働きが二人がかりで掃除をしてくれています。


 昨日に続いてこの状態。単なる不注意が招いた事故でないのは、一目瞭然です。

 これはいじめと思ったほうが良いのでしょうか……。


 そう思っていると、同じ図書委員のジル様が私の前に進み出てきました。


「すまない、ミシェル嬢。昨日はとっさに皆が誤魔化してしまったが、昨日も今日も、俺たちが登校してきた時点でこの状態だったんだ。昨日はミシェル嬢に余計な心配をかけないようにと思ったんだが、二日も続くとなればどうにかしたほうが良いだろうな」


 ジル様は眼鏡越しに鋭い視線を私の机に向け、それからクラスメイトたちに不審な点がなかったか聞き取りを始めてくれました。


 私以上に言葉数が少ないジル様とは、今まであまり会話をしたことがなく。私を手助けしてくれることに驚きましたし、こんなにたくさん話している姿を見るのも不思議な気分です。


「残念だが、誰も手掛かりになるようなものは見ていないようだ。ただ、これが放課後の仕業なら下働きや夜の巡回が見つけるだろうから、早朝にやられたと見るべきだな」


 腕を組み、考えるような仕草を見せたジル様は、それから私に視線を向けました。


「明日はいつもより早く学園へきて、教室を見張ってみるよ」

「ジル様が? そこまでしてもらうわけには……」

「気にしないでくれ。これは俺の趣味みたいなものだから」


 そういえば彼はいつも、推理小説ばかり読んでいます。彼にとっては絶好の謎解きタイムなのでしょうか。


「それでしたら、私も一緒に見張ります」


 そう提案すると、クラスメイトの何人かも一緒に見張ってくれると、手が上がりました。


「男子生徒は良いが、女子生徒は危険が伴うかもしれないから、今回は控えてくれ。ミシェル嬢も無理はしなくて良いよ」


 嫌がらせがエスカレートする可能性があるからと。

 ジル様がそう諭すと、女の子たちは残念そうでしたが引き下がってくれました。

 私としてもこれが原因で皆が危険にさらされるのは嫌なので、ジル様の采配には感謝します。

 けれど当事者として私は、全てを任せきりにはできません。


「当人と私が話し合わなければ問題は解決しないでしょうから、私は参加させてください」


 そうお願いすると、ジル様は意外そうなお顔をしました。


「図書室の天使は、思っていたより行動的なんだな」


 本にしか興味がなさそうなジル様まで、知っていたのですね。その恥ずかしい通り名……。






 今日のお昼休みは、直接図書室の個室で殿下と待ち合わせをしています。

 先に鍵を借りてお茶の準備などをしていると、ドアを開けた殿下は暗い表情をしていました。


 どうしたのでしょうと思っていると、続いてシリル様とセルジュ様も入ってきて。


「ごめんねミシェル。今日は二人も一緒なんだ」


 殿下はとても残念そうに肩を落としながら、席に着きました。


「殿下は俺が護衛だということを、忘れすぎじゃないか? 昨日はどれだけ探したと思っているんだ」

「セルジュも俺を忘れて、いつもどこかへ消えるだろう。お互い様だ」


 確かにこの前のセルジュ様はひとりで林の中から出てきて、授業が始まるギリギリまで私と一緒にいました。

 セルジュ様が護衛で本当に大丈夫なんでしょうか……。少し心配になってしまいます。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、シリル様は私に微笑みかけます。


「殿下はセルジュがいなくても、十分にお強いですから。それより殿下、僕は彼女に問い詰められてひどい目に遭いましたよ。せめて僕にはひとこと言ってくれなければ、口裏合わせもできません」

「それは悪かったが、言えばついてきただろう?」

「当たり前です。今のところ百歩譲っていますが、僕の天使であることには変わりませんよ」

「俺だって殿下に譲る気はさらさらないからな!」

「俺の従者と護衛が、俺の敵とはどういうことだ。こういう時こそ、俺への忠誠心を見せるべきだろう」

「それとこれとは、話が別だ!」

「そうですよ、露骨に邪魔をしないだけありがたく思ってください」


 普段の鬱憤が溜まっているのか、突然三人が険悪なムードになってしまいました。

 話の雰囲気から察するに、殿下と二人だけで昼食を取ってしまったのが良くなかったようです。

 いくら学園内では身分が関係ないとはいえ、ただのお友達である私が殿下を独占してしまうのはいけなかったのかもしれません。


 せめてものお詫びというか、甘い物でも食べて落ち着いてもらおうと思い。私はバスケットからクッキーを取り出しました。


「あの……皆様。お腹が空くとギスギスしてしまいますし、昼食を取りましょう。クッキーを作ったので、良かったらこちらも食べてください」


 そう提案すると、三人の言い争いはぴたりと止まりました。


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