13 お昼休みの二人
お昼休み。殿下には教室で待っているようにと言われていたので、心がそわそわするのを感じながらも席に座って待っていました。
殿下が迎えに来てくれるだけなのに、どうしてこんなにも落ち着かない気持ちになってしまうのか。自分の心を上手く整理できません。
精神統一をするために本を抱きしめ机とにらめっこをしていると、廊下が騒がしくなりました。
どうやら、殿下が到着したようです。
教室のドアを開けた殿下は、歓声を浴びながら私の席へとやってきました。
「お待たせミシェル。行こうか」
「はいっ」
差し出された手を取りながら立ち上がった私は、周りの歓声が聞こえないくらい殿下に見入ってしまいました。
殿下が日に日にかっこよく見えるのは、気のせいでしょうか。新しい美容法でも始めたのですか。
「どうしたの、ミシェル。ぼーっとして」
「あの……。殿下には特別な美容法でもあるのかと思いまして」
「美容法? 特には何もしていないけど……。ミシェルには、俺がかっこよく見えているのかな?」
殿下はいつもそうして斜め上の解釈をしてきますが、にやりと笑う仕草すら、魅力的に見えてしまいます。
私だって前世の記憶が戻る前は、殿下を見て心ときめかせる普通の女の子でした。
前世の記憶により殿下がゲームの主人公だと知り、ハーレムを回避したくて彼に拒否反応を示していましたが、ハーレムは私の勘違いでした。
そうなってしまうと、後に残る感情は前世の記憶が戻る前のもの。っとは、なりません。
私は彼と親しくなってしまったのですから、それ以上の感情が湧くのは必然的で。
素直にそれを受け入れられない自分もいますが、殿下が素敵な男性だということは認めます。
こくりとうなずくと、彼は無邪気に頬を緩めました。
ですから殿下、突然の可愛いは止めてください。
前世の私の性癖にぐさぐさ刺さるんですってば。
今日の昼食は、カフェテリアでテイクアウトをしようと殿下が提案してくれていたので、二人でカフェテリアへと向かいました。
「もしかしてミシェルは、カフェテリアも初めてなのかな?」
「はい。図書室への通り道なので、メニューは目に入っていましたが」
このオシャレ空間に入るには勇気がいるので、気になってはいましたがテイクアウトすらしたことがありません。
そう素直に申告すると、私の初めて集めをしている殿下は嬉しそうにお勧めメニューを教えてくれたので、私はそのお勧めメニューにすることにしました。
「飲み物は何にしようか」
「あの……、ずっと気になっていた飲み物がありまして……」
そう言いながら私は、メニュー表のイラストを指さしました。
いつもカフェテリアの入り口に大きな看板が出ていて、気になっていたのです。甘い物好きの心を鷲掴みにするような見た目をしていて、季節ごとに味が変わるようなのです。
「ここのいち押しメニューだね。俺も同じものにしようかな」
注文して出てきたその飲み物は、イチゴの果肉がたっぷりと入ったジュースの上に生クリームがあふれるほど乗っていて、その上からイチゴソースがかけられていました。
イラストよりも、さらに美味しそうな見た目をしています。
「俺も、このジュースになりたいな」
そう笑った殿下の意図が読めず首をかしげると、「そんな目で、ミシェルに見られたい」と顔を覗き込まれました。
どうやら甘い物に対する欲望が顔に出ていたようで、恥ずかしいです。
テイクアウトしたものを持って図書室へと向かい、カウンターで鍵を受け取って個室へ入りました。
私の隣に座った殿下は、早速ジュースを飲んでみるように勧めてくれたので、お言葉に甘えてひとくち飲んでみました。
「甘酸っぱくて、とても美味しいです」
「良かった。ミシェルが喜んでいるのを見ているだけで、俺は嬉しくてお腹が膨れそうだよ」
殿下は初めてサンドイッチを差し入れしてくれた時のように満足そうなお顔で、食事も勧めてくれます。
美味しい食事を二人で食べて、心もお腹もとても満たされてしまいました。
余った時間は、お互い読書タイムです。
これが本来の目的なので、殿下がゆっくりと資料を読み進められるよう私も静かに読書をしていると、満たされすぎて眠くなってしまいました。
うつらうつらしていると突然ふわっと殿下の暖かさに包まれ、抱き寄せられたのだと気がつきました。
「ねぇミシェル。君と過ごせる穏やかな時間が、俺は大好きだよ」
「……はい」
殿下は私の頭をなでながら「時間まで寝ていて良いよ」と微笑んでから資料に視線を戻しましたが、私の眠気は一気に消えてしまいました。
それと入れ替わるように、心臓がせわしなく動き始めたのでした。
殿下に抱き寄せられる場面は何度もあったのに、こんなにドキドキしたのは初めてで。
その後の私といえば授業どころではなく、ひたすら殿下の言葉が頭の中をループしていました。
勘違いも甚だしいのですが、『大好き』という言葉が時間ではなく自分に向けられているようで、思い出すたびに顔から火が噴出しそうです。
勘違いなのは重々に承知していますが、殿下の気持ちも知っているので余計にそう思ってしまうのです。
勘違いと知りつつ、告白を受けたような気分で心がいつまで経っても落ち着かず、放課後の殿下には熱があるのではと心配されてしまいました。