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12 教室での殿下

 廊下へ出た殿下はふわっと柔らかい笑みを浮かべて、私の手を取りました。


「強引に連れ出してしまってごめんね。少し息抜きに付き合ってくれないかな」


 午後の授業が始まるまで、もう少しだけ時間があります。こくりとうなずくと、殿下は私を連れて裏庭へとやってきました。


 この辺りは木々が生えているだけで人もあまり通らない場所なので、息抜きにはちょうど良さそうです。


「ミシェルと一緒にいると、心が休まるよ」


 目的もなさそうに歩きながらぽつりと呟いた殿下は、それからアデリナ様との関係について話してくれました。


 彼女は王家の招きでこの国へ留学に来てもらった、大切なお客様なのだそうです。

 重要な用事がなければアデリナ様の相手をしなければならないそうで、先ほどは資料を読み進める手を止めて彼女のおしゃべりに付き合っていたのだとか。


 これだけではメインヒロインなのかわかりませんが、殿下にとって近しい存在ではあるようです。


 殿下は王城に戻ってから執務をスムーズに終わらせるため、休み時間は資料を読みたいそうですが、どこにいてもアデリナ様に見つけられてしまうのだと、ややお疲れ気味に笑いました。


「それでしたら、図書室の個室を使われてはいかがですか? 個室ならドアを閉めて鍵をしておけば、誰も入って来ませんし」

「この前の場所か。あの個室は自由に使える場所なの?」

「はい。カウンターで鍵を借りるだけですし、事前に予約もできますよ」


 私ものんびり昼食を取りたい時などによく利用すると教えると、殿下は少し意地の悪い笑みを浮かべました。


「つまりそれは、ミシェルからのお誘いということで良いのかな?」

「あの……、利用を提案してみただけなのですが」

「限りあるスペースをひとりで使うよりは、二人で一部屋を使ったほうが皆のためだと思わない?」


 押しの強い殿下の提案も、不思議と最近は嫌ではないと思っている自分がいたりします。

 殿下がハーレムを築いていないとわかって、少し気が緩んでいるのかもしれません。

 それに彼は魅力あふれる方です。一緒にいて楽しくないわけがないのです。


「そうですね。明日のお昼休みが楽しみです」


 自然と笑みがこぼれるのを感じながら殿下を見上げると、殿下は「嬉しいよ」と言いながら私の手を繋ぎ直しました。


 殿下。その繋ぎ方は、前世の私がいた世界では恋人繋ぎ(・・・・)と呼ばれていたのですよ……。


 自分だけが知っている常識について、どう反応して良いのかわからず。ひたすら心臓の音を騒がしく感じながら、中位クラスの教室へと向かったのでした。







 午後の授業が始まる少し前。中位クラスへとたどり着いたので殿下にお礼を言って教室へ入ろうと思ったのですが、殿下はどういうわけかそのまま教室のドアを開けて中へ入りました。


 そろそろ授業が始まるので、教室内にはすでにほとんどの生徒が戻ってきており。一斉に視線がこちらに向きました。

 その直後、女の子たちから「きゃー!」と歓声が上がるのは、予想済みです。


 女の子たちが集まって来たので、視線を浴びたくない私は殿下の陰に隠れようと思ったのですが、それは殿下の腕によって阻まれてしまいました。


 私を抱き寄せた殿下は、集まってくる女の子たちに極上の微笑みを向けました。


「皆、このクラスに新しく編入したばかりのミシェルは不慣れなことが多いと思うから、どうか支えになってあげてね」

「はいっ!!」


 殿下に頼みごとをされて、断る女の子はいないようです。皆とても良い笑顔でそう返事をしました。

 いつもながら彼の主人公パワーには驚かされるばかりですが、私がこのクラスに馴染めていないことを、殿下は知っていたのでしょうか。


 彼が教室へ戻る際にお礼を言ってみましたが、殿下は何が? と言いたげな表情で私の頭をなでるに留めました。


 殿下はサラッと、私の難題を解決しすぎではありませんか?

 その上、恩に着せようともしないのですから、かっこよすぎます。



 その後の教室内はとても雰囲気が良くなり、帰りには普通にクラスメイトと挨拶を交わせる状態となりました。


 これからは問題なく教室でもすごせそうと、ホッとしたけれど翌日。事態は一変したのでした。






 翌日。教室へ入った私は異変にすぐ気がつき、眉をひそめました。


「おい! 下働きを連れてきたぞ! ミシェル嬢が来る前に早く片付け…………」


 私の後ろから教室に飛び込んできた男子生徒は、私を見てぎょっとしたように言葉を失いました。


「あの……これは……」


 その彼に状況を尋ねてみると、近くにいたSSRちゃんが慌てたように私に駆け寄って来ました。


「ごめんなさい、ミシェル様! 私が花瓶を落としてしまって……」

「そっそうなんだよ! 俺がコイツにぶつかっちゃってさ! ほんとごめん、ミシェル嬢!」


 確かに私の机は、水をこぼしてしまったような状態になっていますが、花瓶の水にしては量が多すぎます。バケツをひっくり返したような量の水が辺りを濡らしているのですから。


 教室へ入った瞬間はいじめかと思いましたが、皆の焦りようからそうではなさそうです。

 わざわざ後始末のために下働きまで呼んできてくれたのですから、何か不慮の事故が起きたと思ったほうが良さそうです。


 素直に、片付ける手はずを整えてくれたことに感謝をすると、その場にいたクラスメイト全員が安心したような表情を見せました。


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◆作者ページ◆

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