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10 中位クラス


 翌日、私は中位クラスへと編入しました。

 クラス全員がそろっている場で先生が私を紹介してくれましたが、歓迎の拍手はまばらで。冷ややかな視線を浴びながら、私は一番後ろの席につきました。


 囁き合っている声によると、私は殿下を利用して中位クラスに戻ってきたと思われているようです。


 入学一年目はクラスメイトだった、中位クラスの生徒たち。

 私の実技の不得意さはすでに承知のはずで、自力でこのクラスに戻ってくる技量がないこともわかっているはずです。


 殿下と私は最近になって交流を持ち始めたので、そう思われても仕方ないのかもしれません。

 全ては殿下の望みだと言葉で説明しても信じてもらえないでしょうから、この誤解は実技の授業で晴らしていくしかなさそうです。

 レベルだけが上がり技術が伴っていないのなら、中位クラスの実技にはついていけないでしょうから。

 中位クラスでも十分にやっていけると先生にはお墨付きをいただいたので、私は地道にこのクラスでがんばっていくつもりです。




 居心地の悪い教室で午前の授業を終えて、私は足早に教室を出ました。


 向かった先は、学園の庭を奥に進んだ場所。

 下位クラスへ遊びにいくことも考えましたが、編入早々に会いに行けば馴染めなかったのではと皆を心配させてしまいそうなので、しばらくはひとりで昼食を取ろうと思います。

 最近はマリーちゃんたちと昼食を食べていたので久しぶりですが、それまでの私はよくこうして人があまり通らない庭の隅に敷物を広げて昼食を取っていたのですから。慣れたものです。


 敷物に座り、バスケットからサンドイッチと飲み物が入った瓶を取り出しました。

 時間つぶしの本も持参したので、私にとっての快適空間はすぐに完成です。

 この辺りはあまりお花が咲いていないのが残念ですが、綺麗に整えられている芝生も綺麗ですし、背にしている林の木々が良い日陰を作ってくれます。


 まずは食事を。と思ってサンドイッチを手に取った瞬間。


 背後の草木が、ガサガサ音を立てました。

 驚いて振り返ると、そこには赤茶色の髪の毛と鋭い瞳の彼が……。


「エルじゃねーか。こんな場所で、何をやっているんだ?」

「セルジュ様……」


 気分転換にここへ来たのに、今日は星のめぐりがよろしくないようです。


 通り過ぎてくれることを願いましたが、彼は私の横にどっかりと座り込むと、私の状況を無遠慮に見回しました。


「昼食を取っていただけです……」


 経緯を彼に話すつもりはないのでそれだけ伝えると、彼は「ふーん」と興味なさげな態度を取りながら、ポケットからパンの包みを何個も取り出し始めました。


 もしかして、ここで食べるつもりですか?


 最近は接する機会が増えたので、成長した彼を知る機会も増えましたが、私はまだ少し怖いんです。

 セルジュ様は殿下に対しては割と従順で、文句を言いながらも素直に指示に従っている場面をよく目にしますが、ここに殿下はいません。

 手綱に繋がれていない彼が何をしでかすかと思うと、ゆっくり昼食どころではなくなってしまいました。


 私がサンドイッチを手に持ったまま身構えていると、沈黙を破ったのはセルジュ様でした。


「あのさ、エル……。今まで、その……悪かったな」


 人差し指で頬をかきながら気まずそうに、そう切り出したセルジュ様。

 もしかして、幼い頃の行為についての謝罪でしょうか。

 

「エルが俺に会うと様子がおかしくなると、殿下に指摘されてさ。昔の俺たちのことを話したんだけど……。乱暴な振る舞いは許せないと、すげー怒られたんだよ。何時間も、クドクドと……」


 殿下が昔のセルジュ様の振る舞いについて、それほど怒ってくれたなんて。また彼に、助けられてしまったようです。


「俺はエルと遊ぶのが楽しかったし、お前泣くと可愛いからさ……。つい意地悪なことをした自覚はあるんだ。でもまさか、心の傷として残っていると思わなくて」


 セルジュ様はそこで言葉を切ると、私に向かって深々と頭を下げました。


「本当に悪かった! すぐに許してくれなんて甘い事は言わない! 何年かけてでも償うから、俺にチャンスをくれ!」


 思わぬ謝罪に言葉が詰まってしまいましたが、誠意を込めて謝ってくれる彼を非難する言葉が、私には思い浮かびませんでした。


 代わりに思い浮かんだのは、懐かしい光景で。


「セルジュ様のパンと、私のサンドイッチを交換してください」

「はぁ?」


 突然、何を訳の分からないことを言っているんだと言いたげなセルジュ様に向かって、私は頬を膨らませました。 


「今日のサンドイッチには、ピーマンが入っているんです……」


 ピーマンなんて、サンドイッチの具材ではないと思うのですが。うちの料理人はたまにこういう罠を仕掛けてくるんです。


「お前まだ、ピーマン嫌いなのかよ」


 セルジュ様は呆れたような声を上げながらも、「しゃーねーな」と私が手に持っていたサンドイッチにかぶりつきました。


 幼いセルジュ様が唯一頼りになった場面といえば、いつも私の嫌いなピーマンを食べてくれたことでしょうか。

 美味いと言いながらサンドイッチを頬張るセルジュ様を見ていると、なんだか昔に戻った気分です。

 あの頃の彼はいつも楽しそうで、私はそんなセルジュ様と本当は仲良くしたかったんです。


「私は臆病者なので、セルジュ様の予想不能なやんちゃぶりが怖かったんです……。けれど、今みたいに優しいセルジュ様は好きですよ」


 お互いに未熟だった幼い頃の言動について、今更償ってもらいたいなんて思いません。

 身構えることなくセルジュ様と接して良いと、安心させてくれるのならそれで満足です。


「これからは優しくしてくださいね、セル様」と昔みたいに愛称で呼んでみると、セルジュ様は「絶対に優しくする」と照れ臭そうにうなずいてくれました。


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