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世界の果ての宝物  作者: 秋山如雪
Chapter 8 灼熱の死闘
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60. 代理戦争

「我々は、ディンカ族でな」

 グオルは室内にも関わらず、電子タバコを取り出して、口に含んでから話し始めた。


「ディンカ族?」

「ああ。ここ南スーダンに古くからいる部族だ。世界で最も平均身長が高いと言われている」

 それでリョウジは思い出した。


 このグオルは身長が2メートル近くもある大男だが、他の兵士たちも軒並み190センチを越えていたのを。


「現在、隣のルバ族と戦争をしている」


(呆れた)

 内心では、そう思わざるを得なかった。


 世界が大変なことになり、温暖化や戦争で、飢餓や戦死が相次いでおり、世界人口が大幅に減っているにも関わらず、ここでは相も変わらず「戦争」をやっていた。

 まさに、ウィリアムズが言った通りの世界だった。


「つまり、俺たちに代わりに戦え、と」

「そうだ。ただ、普通に戦ってもつまらん」


「何が言いたい?」

 グオルの意図がいまいちわからないリョウジが尋ねると、グオルは、

「あの刀。普通の刀じゃないな、ジャパニーズ?」

 不敵に微笑んでいた。


「まあ、普通じゃないのは認めるが」

 いつの間にか、彼は兵士から取り上げた日本刀を目にしていたのだろう。

 あるいは、もしかすると、最初に兵営に来た時から、モニター越しに見ていたのかもしれないが。


「実はな。先頃、ルバ族側が傭兵を雇った。そいつが厄介でな。そいつ1人のせいで、戦闘が上手く進んでいない」

 にわかには信じられなかった。


 戦争とは、所詮は「数」を頼みにするものだ。

 かつての中世のような世界ならまだしも、近代戦争以降、兵士1人が戦局を大きく左右することなどありえないからだ。


 ところが、グオルの言は、予想の斜め上だった。

「何者だ?」

「R-236だ」

「R-236? そいつはサイボーグの名前じゃないか?」


 リョウジも聞きかじった知識だが、知っていた。

 タイプ「R」と呼ばれる、優秀なサイボーグがこの世界では作成されていた。タイプ「R」はその優秀さ、従順さにより、世界中で需要がある、言わば「万能型」サイボーグだった。


 それはある博士が、人為的に「機械」にしたものだという。

 つまり、戦争や生まれつきの不運により、身体の一部を欠損したり、機能不全になったり、生まれつき障害を持っている人間を「改造」したのがタイプRだった。


 今や世界中のあらゆるところで製造されているが、アフリカにはその製造工場はほとんどなかったと記憶している。

 そのことを訪ねると、


「ああ。奴はヨーロッパで製造され、ルバ族が雇ったらしい」

 苦々し気にグオルは呟き、口から煙を吐いた。


「どんなタイプだ?」

 と、リョウジが聞いたのはタイプ「R」にも様々な種類がいたからだ。

 タイプRを戦闘用にした場合、射撃が得意なタイプ、万能的な兵士タイプ、そして「一芸に秀でた」タイプが主にいた。


 もっとも、その中で「一芸に秀でた」タイプが一番厄介だった。


「コンバットナイフ二刀流を使う」

「コンバットナイフの二刀流? そんなの初めて聞いたぞ」


 よりにもよって、それが「一芸に秀でた」タイプだったことに深い失望を感じるものの、しかし、リョウジの驚愕の声とは裏腹に、グオルは楽しむかのように、微笑を浮かべて、続けた。

「それも、20代の女風のな」

「女か。少々苦手だな」


 リョウジの頭には、かつてエル・ドラドで戦った、ナタリーの姿が浮かんでいた。

 だが、

「見た目に惑わされるな。奴は相当な『殺人狂』でな。高周波化されたコンバットナイフで、機械の兵士もパワードスーツも何でも斬ってしまう。それでわが軍は手を焼いているのだ」


 さらにグオルは続けた。

「結晶をくれてやる条件として、そいつを倒すことだ。倒せたら、譲ってやる」

 一見すると、かなりの「無茶ぶり」である。


 たかが、訳の分からない結晶一つのために、「命のやり取り」をしろ、と言うのだから。


 だが、リョウジの瞳は、逆に「輝き」を放っていた。

 こういうやり方の方が、彼の流儀に向くし、要は「手っ取り早い」し、「わかりやすい」。そう思ってしまうあたり、彼もまた「武人」だった。


「面白え。そのR-236をぶっ倒せばいいんだな」

「ああ。というか、徹底的に破壊してくれ」


「わかった」

 交渉はあっさりと成立。


 リョウジはグオルと再び握手をして、グオルからR-236の居場所を聞く。

 曰く。

「先程の戦闘にも加わっているし、普段はここから北に20キロほどの敵側の兵営にいる」

 とのことだった。


 早速向かうことを告げるリョウジに対し、グオルは、まだ隠し持っていた情報をこっそり披露していた。


「それと、奴らが戦力を増強した、という情報が入ってきてな」

「何だと?」


「強襲陸戦型ロボット、G-5型という噂だ。注意しろ」

「はあ? G-5型だと。殺す気か!」

 リョウジは、このアフリカに来て、いやこの長旅で一番驚愕していた。


 強襲陸戦型ロボット、G-5型。それは元々アメリカ軍が極秘裏に開発していたという、「陸戦最強」のロボットであり、全高が25メートルにもなる大型の自立式AIロボットだ。


 おまけに、世界大戦前に世界最強の軍だった、アメリカ軍が技術の粋を集めて開発したという、「完璧な」戦闘ロボットで、武装は巨大なカノン砲1門、レーザー砲2門、ガトリング砲2門、ショットガン1挺、追跡ミサイルに、高周波型のブレードまで持っているという。遠距離・中距離・近距離、どのレンジでも対応可能な戦闘マシンだった。


 G-5の「G」の由来は「Genocide(ジェノサイド)」、つまり「虐殺」だという。


 このロボット1機だけで、1個連隊に匹敵するとも言われていた。

「まあ、噂だがな。それにそいつには賞金がかかってるから、もし倒せたら、お前にはハンターオフィスから賞金が出るだろう」

 グオルは不敵に微笑み、追加の賞金のことまで約束してくれるのだったが。


(命がいくつあっても足りねえ)

 さすがに、いくらウィリアムズからもらった日本刀があるとは言っても、化け物のような「G-5型」とだけは当たりたくはないと、リョウジは肝を冷やすのだった。


 こうして、ふとしたことから、リョウジは「戦争」に巻き込まれることになる。

 というよりも、これは「代理戦争」であり、ヤクザ同士の抗争の「助っ人」に近い感覚だったが。

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