恋は盲目と言うけれど
携帯から軽快な音が聞こえた。
最近、同居人の東と担当の樋口からしか受信することのない携帯から珍しい名前を見かける。
高井 早央里
高校時代、東、私と一緒に過ごしていた友人だ。
高校卒業後、別々の学校に行った。
高井は京都の芸術大学に通い、私と東は専門学校へと進めた。
余談だが、東は手先が器用で裁縫が得意だ。
東の作る小物はネットで販売しているが売れ行きは好調だ。
まあ、私が作家になった事で本業の方に力入れてるから現状は作る時間がないようだ。
面倒をかけている自覚はある。
専門学校卒業後、私は都内に出て整体師になった。東はニートになった。
高井が学生の間は連絡をとりあい、たまに遊んだりもした。
最後に遊んだのはホラー映画を元にした体験型脱出ゲームに参加した時だ。
ゲームに参加したも、22歳…
もう、6年も連絡をとっていなかったようだ。
高井の就職活動を気に連絡が疎かになっていった。
懐かしいなーと鳴り続ける携帯を見つめる。
軽く1分は鳴り続けているだろう。
1分無視を続けている。
私は今、機嫌が悪い。
樋口から凄まじいダメ出しを受けたのだ。
「先生の恋愛小説、読みました……まさか小学生の作文の方が面白いなんて思いもしなかったです。」
そう、あいつはいつもの笑い声もおちょくりも無く、本当にダメ出ししてきたんだ。
「最近の小学生の方が恋愛してますよ。先生、女性として大丈夫ですか?次のジャンル考えておいてくださいね。」
ショックだった。
今まで、どんな作品でも笑って次行きましょーと言ってくれる樋口が冷たい反応…
これはダメだと焦っているのだ。
今は誰とも関わりたくないと思うが、高井からの電話も鳴り止まない。
深呼吸をして、顔に笑顔を作る。
私がイラついていることもショックを受けていることも高井には関係ない。
意を決して通話ボタンを押した。