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便宜上宇宙というが…~宇宙のなかまたち短編集~

ほほえむ葡萄 ~土星ファーマーは葡萄推し~

作者: ヒカリ

土星の輪の氷を使って何をする?


実際、葡萄(ぶどう)はいいものだ。

芳しい上に、単糖の必要な生物へ活力を与える。


他の星で土星と呼ばれるわたしの星ではありふれたこの葡萄。

わたしにとっては仲間のようなものだ。


なぜか。

それは、我々は同じ始まりを持つからだ。

エアから生まれ出づる人型の我々は、(たね)だった。

種から発芽し、プロトタイプの中間期を経て、種の時代に受けた振動により生命の表出表現が定まる。


同じ種からはじまり、人型になったのがわたしであり、葡萄になったものがわたしの手のひらにある。

だから、仲間だ。

起源を同じくする仲間であると、わたしは思っている。

仲間をいかに広めるかは、わたしの生涯の夢だ。


葡萄は耐える。

正確には、根と枝はよく耐える。

耐えるのは自分の手足を存分に伸ばす契機を待っているからであって、弱々しさのことではない。

強引なところもあり、他を平らげることに躊躇(ちゅうちょ)しない。


なぜ彼らはこのようにするかといえば、自分の価値を知っており、価値を他へ与えたいからだ。

決して蹂躙(じゅうりん)や支配のためではないのだ。

わたしを使い(たま)えと、葡萄の根と枝は宣言する。


葡萄(ぶどう)の葉は、無口であり、根と枝の保護者である。

保護者は根と枝へ、根と枝となるに必要な光子(こうし)を送り続ける。

清らかな音と細やかな光。

まるで我々の起源、エアのようだ。


(すい)が羽根をはやして飛び回り、葡萄(ふどう)の実を結ばせる時には、根と枝も、葉も、微笑んで眠る。


安堵の波が、葡萄(ぶどう)の周辺で湧き出す。

安堵の波は円く広がり、幾重にもなり、シの音を震わせた。


安堵の波と、(すい)の働きで、葡萄(ぶどう)(きゅう)を実として結ぶ。


実は、最後までそれを栄養し続ける衣を密着させて幾何学を彩った。

実の衣には、ふわりと華やぐ酵母(こうぼ)の集落が、共に生きている。


酵母の息づかいが辺りへはじけて、消えたように見える。

消えてはいない。

(すい)になり、またはエアのもとへ還り、

我々と再開を待つ。


わたしは、この葡萄(ぶどう)という仲間を、与えたい者なのだ。

だからこうして耕作を続けている。


もしかしたら今度、他の星へこの仲間を送り込めるかもしれないと聞いたばかりだ。

他の星へ腐敗(ふはい)発酵(はっこう)を伝える許可を、金星が得たそうだ。

あそこには生き残った花や木が豊富にある。

壊滅(かいめつ)から再生をよく知る彼等ならば、他の星へ伝えることは適任と言えるだろう。


そのときにはぜひこの葡萄(ぶどう)も、と夢を持ったわたしだ。

夢は彩り豊かに描くものだよ。

エアが我々にしてくれたようにね。


さあ、休憩は終わりだ。


ご覧。

(すい)が群れで飛んでいく。まるで光だ。

わたしは、土星にすんでいる。

(たね)から人型になったからには、この体を使って行きたい。


終わり!

怒りの葡萄、という映画がありました。

見た後は暗くなり、何もする気が起きません。

あらゆる加工食品はメイドインアースですね。

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