始動・第九話
・ルクス=カンデラ 24歳
前はフレア帝国の軍人で、光剣部隊に所属していたが、10年前のテロ事件の際に玄羽=ヴァトリーに引き抜かれた。現在は光剣部隊とSVMDFの連絡役等を担い、その関係で山滉穎達の監督に命じられた。
光属性使いで、剣技は一流。稲垣翔祐を指導した。
それから先は、よく覚えていない。
魔物使いを倒したことで魔力をほぼ使い、倦怠感と睡魔に襲われた俺はビルの屋上で死体と一緒に眠っていた様だ。
もちろん、永遠の眠りではなかったが。
イオでの一連の騒動は後に「イオエピデミック(イオパニック)」と呼ばれ、各国の医療研究を促すものとなった。
MHOは、見事な指揮と管理で、急速にイオの状態を回復させた。なるほど。暗黒世界が目の敵にし、恐れている訳だ。
その後、この騒動において、狂戦士を倒した稲垣、ガイン=エルグを生け捕りにした師匠、魔物使いを殺した俺及びその隊員に褒美が与えられた。もちろん、魔物の大軍を殲滅した光剣部隊も例外ではなく、報酬が与えられたのだが、それはシークレットの様で、一介のエレメンターに知る由はなかった。
そして、現在へと至る。今は、鉄道で国境を越えた後、馬車に揺られながらフレア帝国へ向かっている。なぜなら、一か月後の五神祭に出場するからである。出場エレメンターは僕に小栗、木村、稲垣、松尾の五人で、補欠兼サポーターに川相、林が選ばれた。地球の感覚で言うところの監督と呼ばれる役割に師匠の弟子、僕から見れば兄弟子のルクス=カンデラが就いた。しかし、師匠は隊長の立場も重なり、トイラプスからは出られず、皇帝不在の帝国を守る事になってしまった。
話を元に戻し、我々は時間的に余裕が有るので、山脈を越えるついでに迷宮へ挑戦するつもりだ。迷宮というのは古代に神々によって造られた所謂試練場であり、魔力を流すだけで稼働する。クリアすれば、中に設置されている宝を譲り受ける事が可能で、自由組合や冒険者の収入となっている。この魔境には、確認されているだけで三千百存在している。今回はその中の一つ、論証の迷宮という心が躍るような名前の迷宮を荒らしに、・・・・・・ではなく挑戦する。
まあとにかく、我々はイオにおけるテロリストとの戦いに勝利し、その功績から神格武器というものを与えられた上に、関係者から五神祭での活躍を期待された。ちなみに、池上は死亡ではなく、行方不明という扱いになり、心なしか稲垣達は少し、心が軽くなった様だ。
「なあ、山。こんなに揺れるのにお前、手記書いてて平気なのかよ」
「問題ない。半器官の強化をしているからな」
「いいなぁ~。アクションタイプの訓練でもしようかな」
「お前はマナタイプを先に極めた方が良いと思うぞ。自分の適性にあったタイプの方が要する時間が短くて良いからな。
まあ、どうしてもと言うのであれば、まずは脳について教えよう。例えば、暗記力を強化させたいのであれば、脳波の一種であり、4〜7ヘルツであるシータ波を強めるのだが、その原理は・・・・・・」
「ストップ、ストップ。かなり酔ってキツイのにそんなの聞かされたくない。潔く諦める」
「ははは、すまんな。五神祭が終わったらいくらでも教えるから。
それより、ここらで一回休憩するか」
山滉穎達はこうして、魔境での戦いに確実に巻き込まれていく事となった。しかし、彼等は知る由もない。そう、今から起こるアクシデントにも。
・神格武器
肉体を失った人間の魂、特化型精霊の中でも特殊な「英霊」を武器と接続させる事で造ることができる。英霊、精神世界では上位の「魔導生命体」と呼ばれるものが武器に憑けば、形而上から形而下への召喚が可能。つまり、武器を異次元から取り出す事ができ、その際魔力を消費する。
神格化された武器は、《属性解放》のみならず、《一時的解放》という特化型精霊の影響を受ける奥義が使用可能となる。その効果は多岐にわたり、「技マスター」が「極」や「完」より強いと言われる所以になっている。