魔物・第八話
フレア帝国(南の帝国)
キトゥリノ大陸の南、中央に位置し、朱雀の加護がある。建国4096年で、様々な国(地球)から孤児、難民等を召喚し、豊富な資源と人材を背景に工業を発展させる。エレメンター最古かつ最大の帝国で、現在は炎帝マーズ=リヴァインが治める。
通貨は硬貨が主流で、単位はフレアドル。1フレアドルは約100円。
また、エレメンターの世界は資本主義経済で、実力主義となるが、フレア帝国ではそれが特に顕著である。
・光剣部隊
660人が所属するフレア帝国最強の部隊。
光剣を主な武器に、光属性、技タイプと認められたエレメンターが所属し、集団戦闘にも個人戦闘にも長けた南の帝国が誇る優秀な部隊。
臨機応変さと攻撃の多様性から、暗黒世界が最も恐れている。
稲垣方面に居たテロリスト達も全て片付き、残り見える脅威は、魔物のみとなった。
「時に師匠。《List up》でベルゼブブをワードに入れたのは何故ですか?」
すると、師匠は手を顎にあて、
「ふむ。やはり、分からなったか。ベルゼブブは知っているよね?」
「はい。ハエの王ですよね。疫病を司るという」
「その通り。まあ、現在は既に子孫もろとも討伐されているのだが、その力はどこかに隠され、今も暗黒世界の者達が探している、と言われている。その場所として最も有力なのが、・・・・・・」
言いかけた所で、師匠の言いたい事が分かってしまった。この展開では、
「このイオ、その地下深くと言われている」
「では、今回はそれをテロリストによって外に出されたという事ですか?」
「正確にはテロリストと手を組んだ者の仕業だね。犯人の見当は付いているが」
「えっ」
ここから先の話は紙に残したくない。故に、時間軸を先へと進める。稲垣達と合流した後、無人の自由組合の建物を利用して情報を整理した。
「師匠、ご指示をお願いします」
「魔物は、フレア帝国の光剣部隊が対応しているから問題ない。我々は教会のMHOが来るまで、現状の把握を行う。個別に指示を出していくからまずは自分の部隊の確認を。君達は・・・・・・」
その時俺は、一人のエレメンターがいない事に気が付いてしまった。
「稲垣。池上はどこにいる? 見当たらないんだが」
「それは・・・・・・」
嫌な予感は的中してしまった。
「戦闘狂にやられた」
「そうか・・・・・・」
不思議と動揺しなかった。俺は、合流する前から知っていた様な気がしたから。一人死んだという事実を。それが誰かまでは分からなかったが、あの感覚は、そういう事だったのだろうか。
「でも・・・・・・」
「でも? 何だ?」
しかし、ここから先に言葉を繋げてくるとは予想外だった。
「どこを探しても、死体が見つからないんだ。戦闘が終わった後、運ぼうと思ったら、・・・・・・」
「死体が、ない? テロリストは六十一人全員捕まえたか殺したし、住民もいないはず。俺達の中に犯人がいるとは考えづらい。しかし、外部の犯行というわけではない。俺の、そうでなくとも師匠の感知にすら引っかからない奴がいるとは思えないし」
いつの間にか俺は、考える人の姿勢になっていた。
いや、あれは実は地獄にいる人達を見ているそうだ。俺もあの時、地獄へと送られたテロリスト達を見ていたのかもしれない。
「滉穎君達の部隊には、テロリストの監視を頼む」
師匠の声を聞くと同時に、勢いよく立ち、
「承知しました。稲垣、すまないが今は考える時間も探す余裕もない。あとガイン=エルグの監視を頼む。倉庫に詰めた奴らは小栗と木村、松尾頼む。残りは遺体の処理と素性の確認」
「「了解」」
「滉穎君は別に仕事がある。塔に上ってくれ」
「分かりました」
望楼に上り、東を眺めるとその光景は広がっていた。死体の山。いや、この書き方は俺が死んだみたいになるな。魔物の死骸によって死屍累々(ししるいるい)としていたのだ。そして、それを築き上げていたのが、
「あれが、光剣部隊、ですか」
「そうだ。フレアの特殊部隊でね。660人という少なさにも関わらず、その強さは六師団程の強さを誇る、まさに一騎当千」
「少数精鋭ですか。しかし、良いのですか?自国で起きた事を他国の部隊に任せて」
「問題ない。もともとカーリーはフレアで興った組織。彼等にとって恥の様なものだ。それに、フレアとトイラプスは皇帝同士の仲が良い。もちろん、光剣部隊とSVMDFの仲もね」
「そうでしたか。あの光る剣は何ですか? まるでライトセー・・・・・・」
「光剣だ。仕組みは彼等の専売特許だから明かされていないが、魔力を流す事で熱光線が発動してああなる。先進的な工業国だから生み出せた逸品だ」
光剣を駆使した戦いぶりは、見惚れる程であった。一切無駄のない動きで首や心臓を切り落とし、仲間との多彩な連携攻撃、誘導によって落とし穴に入れ、一網打尽。その強さはもはや鬼神と言えた。仲間であるのが頼もしいのと同時に、敵である事を想像すると恐ろしくもある。
一万はいるだろう敵を既に半数倒している。
「ところで、僕の仕事とは何でしょう?」
「あの魔物の集団、おかしいとは思わないか」
「そうですね。統率が取れ過ぎています」
「そういう事だ。魔物は魔力が尽きるまで目に入った生物を片っ端から殺害していく。だが必ずしも奴等を使役する事が不可能という訳ではない。暗黒世界の中では土属性の裏属性は魔物だ。彼等は奴等を使役する事で、エレメンターと対等に戦って来た」
「つまり、あの中から人間を探せ、という事ですか?」
「あの集団にいるとは限らないが、まあ不審な人物をここから《千里眼》で探してくれ」
「はい」
仙術の一種である《千里眼》を使用して、辺りを捜索する。
「見つけ次第、如何を問わず、殺してくれて構わない。しかし、奇襲が失敗したら必ず撤退しろ。ガインとは次元が違う。彼等は足が遅いと思うから案ずるな。じゃあ、光剣部隊が少し疲れている様に見えるからサポートしてくる。頼んだよ」
「分かりました」
師匠はこんな非常時でも自分達に試練を課し、成長を見守ろうとする。果たして、それが正しいかは分からないが、信頼しているからできる事だと解釈し、期待を超えようと常に努力ができる。地球ではあまりできなかった。
何故だか、この状況を楽しんでいる自分がいるようだ。戦闘狂になってしまったのだろうか、はたまたサイコパスにでもなったのか。
とりあえず、魔物使いを探すことにした。
その時、反対方向、つまり西側から旗を掲げこちらに向かう集団が見えた。魔境保健機関、通称MHOだ。その旗には杖に巻き付いた蛇、アスクレピオスの杖が描かれている。
そして、その集団に対し、ビルに近い建物から連絡を取ろうと働きかける三人の姿も目に映る。その内二人は知った顔であった。ジェニファーとアレックス、もう一人の男は知らなかったが、どうやら彼が指示を出している様だった。さらに、その建物の中には、イオの民。
その時、俺の頭の中で電流が走った気がした。師匠の言葉を思い出し、考え直す。
「そもそも魔物使いの目的はイオのパンデミックではないはず。やるなら国を半壊させるぐらいの疫病を開発した上で戦争を起こす。本当の目的はテロに乗じたMHOへの攻撃か。それに師匠は隠れている人間ではなく、不審な人物と言った。という事はあの避難民の中に魔物使いがいる。でもあそこからだと上手く指示が出せないはず。いや、一つだけ、それが可能な場所があるか」
答えを導き出すと同時に、急降下し屋根伝いに走った俺は、どう攻撃するか考えた。
師匠は全てを見透かしていた。あの場所からならば、テロリストの動向も観察でき、魔物と光剣の戦いも一応見えるだろう。もちろん師匠の動きも。故に、警戒されやすい師匠は魔物使いの処理をスムーズには行えず、俺を使った。
「師匠は、魔物使いの足、ではなく彼等の足と言った。という事は、本当の脅威は魔物使いではなく、奴が使役する魔物の方か」
そして、とあるビルの真下に到着し、一気に踏み込む。
「約六十メートルか。なら余裕だ」
重力に逆らい上昇していき、屋上へと足を着ける。相手は案の定、師匠とMHO両方が見える向きでジェニファー達と話していた。その男に狙いを定め、
「《石化》」
対象は自分の腕、凶器へと化した身体の一部で喉元を狙う。ブシュッ、という音と共に血が勢いよく吹き出した。
「えっ、・・・・・・」
「な、何やってんだよ。滉穎山」
「説明は後。ジェニファーは魔物の出現可能性があると、MHOに伝えてくれ。アレックスは下のエレメンターに警戒態勢を敷くように言ってくれ」
「えっと」
彼等は、魔物使いに目をやり、一瞬戸惑った。
「速く」
思わず怒鳴ってしまった。階段を下りていくアレックスを横目に、止めを入れるため、出血が止まらない魔物使いに近づいた。
奴は、突然の事に頭を混乱させ、声が出ない苦しみにもがいていた。
「凄いな。喉を斬られても、生きているとはね。安心しろ。すぐに楽になるから」
絶望的状況にも関わらず、目は完全に敵意剥き出しで、こちらを睨んでいた。その目を俺は、笑顔で見つめ、首をはねた。
俺の顔と体は返り血で赤染となっていた。そして、変化はすぐに訪れた。光剣と戦う魔物は統率を失い、総崩れとなった。理性がない大群など、熟練者にとっては烏合の衆でしかない。師匠を見つけると、よくやった、と語っている様に見えた。
聖教会
現在は、クロウ=ダームスリハッシ=ペルニマイト教皇を長として暗黒世界撲滅・魔境の平和追求を第一義に掲げる組織。五字軍(V軍)という強力な軍隊と先進的な技術を背景に、魔境のエレメンターを一つに纏めている。
本部は、フレア帝国内の天空山にあるゼウス神殿とその麓である。圧倒的な力と権力を持つので、そのトップには五神が認めた者のみが就ける。
・魔境保健機構(MHO)
主に公衆衛生の管理を務める。
所属するエレメンターの強さから特例としてテロリストへの対応も行うが、基本的には疫病対策等であり、国家の保健業務の指導や監視、(非覚醒者の)企業に対する医薬品の調査並びに国際的標準化を図っている。
・五字軍(V軍)
暗黒世界を牽制並びに殲滅するための軍事組織。
過去に何度も遠征軍を率いて、暗黒世界を討伐しようとしたが、完全勝利にまでは至らなかった。しかし、悪魔や魔王の討伐数は数知れず。