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第98話 呼び出し


近くにいるものと思って疑わないマルティーノおじさまは、のほほんとマルティーナの名前を呼び続ける。


『ティーナ! おかしいな? 外に遊びに行ってしまったかな』


「ティーナはうちにいる」


『えっ!? そんな馬鹿な。トブーンはアイテム袋に仕舞ってあるし、ティーナが1人でプリマヴェーラ辺境伯領へなんて、行けない……よな?』


呑気なマルティーノおじさまも、一応トブーンをその辺に出しっぱなしにするのはまずいとは思っていたようだ。


実はマルティーノおじさまが結婚するときに、婿入り道具として、高速トブーンや通信機といったお役立ちグッズをアイテム袋に入れて持たせたんだよね。

トブーンがあればいつでもうちに里帰りできるし、ポルトの町へニーナさんのお墓参りにも行けるから。


お宅のちびっ子たちがいたずらしないように、これからも管理には十分気をつけてください。


「ティーナは1人で乗合馬車に乗り、そして盗賊に襲われた」


『ええっ! なんだって!?』


マルティーノおじさまの大声に、お父様は顔をしかめて通信機から耳を遠ざけた。


「落ち着け。ティーナはもう助けたよ。マーニがチェリーナに知らせに行ったんだ。お前が妻のお産で当てにならないから、ダニエルを迎えに寄越してほしいとな」


『えっ……、当てにならないって……』


当てにならないって言い方はちょっと可哀想かもしれないけど、実際、マルティーナがいなくなったことにも気付いてないからねえ。

まあ、今回はそう言われても仕方がないよ。


「街道に出る盗賊は、これ以上の被害が出る前に早々に捕縛しなければならないな。すぐにでも討伐隊を編成した方がいいだろう」


『わ、わかった』


「父上、盗賊は30人ほどいるようでした。少人数で行くのは危険だと伝えてください。場所は、ジョアン侯爵領とアルジェント侯爵領との領境付近でした」


お兄様がすかさず、さっき見てきたことを踏まえてのアドバイスを口にする。


あそこは領境付近だったんだ。

お兄様すごいな、周りは木ばっかりだったのに、何を目印に領境だとわかったんだろう……?


「そうか。ーーマルティーノ、チェレスの話では、盗賊は30人ほどいたそうだ。少人数で行くのは危険だぞ。それからは場所は、アルジェント侯爵領との領境付近だそうだ」


『チェレスまで助けに行ってくれたのか? なんだか悪いな……。盗賊のことはわかったよ。早々に討伐隊を出そう』


「それから、せっかくだからティーナは2~3日うちに泊めようと思う。帰りはちゃんとジョアン侯爵家まで送り届けるから心配するな。その時に、折り入って話がある」


どうやらお父様も一緒にジョアン侯爵家に行って、ダニエルとマルティーナの結婚を後押しするようだ。


『折り入った話? 承知したが、そう言われると身構えてしまうな……。兄上、ティーナと少し話をさせてくれないか?』


「ああ。ティーナ、マルティーノが話したいそうだ」


お父様が通信機を差し出すと、マルティーナは大人しく受け取って、おずおずとマルティーノおじさまに話しかけた。


「お父様……」


『ティーナ! どうしてこんな危ないことをしたんだ! 一言プリマヴェーラに行きたいと言ってくれれば、暇を見つけて連れて行ったものを!』


「ごめんなさい……、お父様は私どころではなかったし……。どうしても、待てなかったの……」


大声で叱られたマルティーナは首をすくめながら謝りつつも、後悔はしていないようだ。


まあ、マルティーノおじさまが暇になるまで待ってたら、ダニエルがメイドカフェに行っちゃったかもしれないもんね。

恋する乙女はたくましいのだ。


『はあー……、まあいい。帰ってきてからゆっくりと訳を聞かせてもらうからな。ーー今日、お前の弟が産まれたぞ』


「また弟なんですね……」


『はは、また弟だよ。それじゃあ、チェーザレ伯父様とヴァイオラ伯母様の言うことをよく聞いて、いい子にしているんだぞ』


「はい」


会話を終えたマルティーナは、通信機をお父様に返した。


「チェリーナ、僕たちもクリス様とカレンに連絡しよう。そろそろ休み時間が終わってしまいそうだから手短にね」


そうだった!

早くしないと休み時間が終わっちゃうー!

というか私たち、お昼ごはん食べてないじゃないー!


「了解です! あーあー! クリス様ー、クリス様ー! こちらチェ」


『チェリーナ! いったい何があったんだ!?』


どうやら通信機を手に待ち構えていたらしいクリス様が、食い気味に返事を返してきた。


「クリス様! また勝手にいなくなってごめんなさい。実は一大事があったんです。ティーナが家出し」


『家出!? まさか、ティーナはジョアン侯爵家で酷い目に……』


やっぱりみんな思うことは同じだね、でも違うから安心して。


「あ、いいえ、そうではありません。ダニエルに会いたくて家出したのですが、ティーナの乗った乗合馬車が盗賊の出る道を通るとマーニ」


『盗賊!? ティーナは無事なのかっ?』


ク、クリス様……。

落ち着いて話を聞いてくれればちゃんと説明するから。

全てのセンテンスに食い気味なんて、びっくりするよ。


「はい。ティーナはもう助けましたし、乗合馬車の乗客にも被害はありません。これからマルティーノおじさまが討伐隊を出します」


『そうか……、よかった』


ほっとため息をつくクリス様の向こう側から、小さくリーンゴーンと授業開始の合図である鐘が鳴っているのが聞こえてきた。


「もう授業が始まりますね。それでは、詳しいことは帰ってからまたご報告いたします」


『ああ、気を付けて帰って来いよ』


「はい」


ぐーーーきゅるる……


クリス様との通話を終えたとたんに、控えめにお腹がなった。

お腹空いたよ……、もう2時だもんね。


「チェリーナ、昼食を食べたらすぐに王都へ戻ろう。急がないと暗くなってしまうよ」


「そうですね」


新型のトブーンはライトを搭載してはいるけど、やっぱり明るいうちに帰りたい。

話を聞けば、誰も昼食を食べてなかったので、お弁当各種と新作のいちごのパフェを出してみんなに振る舞うことにした。


お兄様ってば、最速トブーンは自分専用にするって言ってたのにさ。

なぜか食事の席でお母様に報告しちゃうから、最速トブーンを5機ほど納品してからの帰路となりましたよ……。


ほんと、お願いだからみんな安全運転で頼みますよ!?





薄暗くはなってしまったものの、なんとか日没前に王都にたどり着くことが出来た私たちは、食堂でクリス様達と合流した。


「チェレス様! チェリーナ! 無事でよかったわ」


カレンデュラも私たちの顔を見て、ホッとしたように笑みを浮かべた。


「クリス様、カレン。それにみんなも、心配かけてごめんなさい」


「チェリーナのせいじゃないことは聞いているわ。あのね、言いにくいのだけど、実は校長先生の秘書からチェリーナに言付けを頼まれたの……。明日の朝一番に校長室へ来るようにと、校長先生がおっしゃっているそうよ」


「えっ……! こ、校長室……! 私だけなの!?」


私はギギギと首を捻ってお兄様を見た。

お兄様と私は同罪ですよね?


「チェレスは、教授に家の事情で外出させてもらいたいと許可を貰って教室を出て行ったからな」


クリス様がお兄様が教室を出た時の様子を説明をしてくれたけど、そうだったの!?

自分だけずるいよ、お兄様!


「チェリーナは3時限目の授業が始まる時に教室に戻ってこないし、探しに行ってもどこにもいないから大騒ぎになったのよ。その後チェレス様の授業を担当していた教授から話を聞いて、家の事情だと分かったけれど、授業中に無断で抜け出すのは、やっぱりちょっと問題があったみたい……」


な、なんてことだ!

入学早々、職員室をすっ飛ばして校長室に呼び出されるなんて!



もしかして、私、退学になるの!?






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