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第97話 癒しの街


お母様に指摘されたダニエルは、みるみる顔を赤くした。


「ヴァイオラ様……。しかし、年の差もありますから……」


「年の差は確かに埋めようがないわね。それでも、大人になってしまえば年の差なんて小さなことよ。一回りくらい年の離れた夫婦はいくらでもいるわ」


「しかし……」


ダニエルは、お母様の説得にもなかなかうんと言わない。

……往生際が悪すぎやしないかな?


「ひっく……、年の差があるからっ……! だから、魔法学院に行くよりっ、早く結婚しようと思って……っ!」


「まあ。魔法を使えるようになったことを隠して結婚しようだなんて、それは無理というものよ、ティーナ。別に魔法学院に行くからといって、結婚できなくなるわけじゃないわ」


え、そうだったの?

てっきり魔法学院に行く人は、卒業する18歳にならないと結婚できないのかと思ってたわ。


「えっ?」


「魔法学院に通う場合は、ほとんどの人が卒業後に結婚することを選ぶというだけの話よ。在学中に子どもを授かったら困るでしょう? でも、15歳になれば皆平等に成人するのですもの、本人が望むのであれば結婚することは可能なのよ」


へえー。

生徒達の中で結婚してる人がいるなんて聞いたことがなかったけど、探せば何人かはいるのかもしれないね。


「そうなんですか……?」


「ええ、そうよ。ティーナは魔法を発動できるようになって、それで18歳まで結婚できないと勘違いして家出してきたの?」


「はい……。それに……」


それに?

他にも何かあるの?


「それに?」


「ダニエルが……、エスタの街に行くって話してた……っ!」


「えっ!?」


みんなの責めるような視線がいっせいにダニエルに向かった。



……あの、もしもし?

誰か私にもわかるように説明してください。


唐突にエスタの街が出てきて、なぜそれが問題になっているのかまったく意味不明だ。

うちの騎士ならエスタンゴロ砦に行くこともあるだろうし、砦に近いエスタの街に行っても別に不思議はないんじゃないの?


「ごごごご、誤解ですっ!」


「嘘っ! この前通信機で話してたとき、『おい、ダニエル。今度の休みにエスタの街に繰り出そうぜ!』って誰かが話しかけてたもん!」


マルティーナはジト目でダニエルを責め立てる。


「それは、マテオさんが勝手にそう言っただけで、俺は一緒に行くなんて言ってないよ!」


ダニエルは言い訳に必死だ。


「……本当に?」


「本当だよ!」


「……神様に誓って?」


「神様に誓って!」


ちょっと、ほんとに何の話なの!?

私には状況がいまいち飲み込めないけど、それでもマルティーナは満足そうな笑顔を見せている。


何かに納得したらしいね……?


「よかった……」


「馬鹿だな……。もしかして、そんなことを心配して家出してきたのか?」


「そんなことって! 絶対阻止しないといけないと思ったんだもん!」


マルティーナはダニエルに抱きついて口を尖らせている。

なんか幸せそうでよかったね……?


「ダニエル、いい加減腹をくくったらどうなんだ?」


「はい」


お父様に促されたダニエルはしゃきっと表情を引き締めると、おもむろに立ち上がり、マルティーナの前で片膝をついた。


「ーーマルティーナ・ジョアン嬢、どうか私と結婚してください。私の命がある限り、あなたを大切に守り、幸せにすることを誓います」


「ダニエル! はい、喜んでお受けいたします!」


マルティーナが満面の笑みで片膝をついたダニエルに飛びつくと、ダニエルはその重みを受け止めきれずに床の上に尻餅をつく羽目になったけど、それでも2人はとても嬉しそうに笑っている。


「ティーナ、待たせてごめん。これからもずっと傍にいてくれ」


そうか……。

ずっと子ども扱いしてあしらってるように見えていたけど、本当はダニエルの方もマルティーナを好きだったんだな……。


「おめでとう!」

「おめでとう、ティーナ、ダニエル!」

「本当によかったわ!」


喜びの絶頂にいるマルティーナは、キラキラと輝いていて、心なしかいつもより大人びて見えた。


こうして改めてマルティーナを見てみると、年の割りにスラリと背が高く、琥珀色の大きな目も、腰まである艶やかな赤い髪も、欲目を抜きにしてかなり可愛いんじゃないだろうか。


いや別に、私に似てるからって言ってるわけじゃないからね?


ダニエルは童顔で18歳の時からあまり顔が変わってないし、3年後、15歳になったマルティーナと、28歳になったダニエルはきっとお似合いの夫婦になるだろうな。





……ところで、いままで空気を読んで黙っていたけど、もうそろそろ私もしゃべっていい頃合いですよね。


「あのー、エスタの街には何があるのですか?」


その後の説明がないことに痺れを切らした私は、エスタの街についてお父様に尋ねることにした。

領主であるお父様が知らない筈はないからね。


「えっ……」


お父様はきょろきょろと不自然に視線を泳がせたかと思うと、助けを求めるようにお兄様の方を見た。

そして、視線を向けられたお兄様は拒否するようにブンブンと首を振って、今度はお母様を見る。


えっ、なになに、目と目で伝言ゲーム?

新しい遊びかな?


「お母様?」


お母様が説明してくれることに決まったのかと思ってそちらを見ると、お母様は仕方がないわねとでも言いたげにお父様を一睨みしていた。


「エスタの街は独身の冒険者が多いことは知っているわね? だから……、男性が癒しを求めに行く店があると聞いているわ……」


へえ、癒しの店。

小鳥のさえずりを聞きながら森林浴とか?


「そうなんですね。でも、どうして癒しの店に行くくらいで家出することになるんですか?」


「それは……、癒してくれるのが女性だから、かしらね?」


ふーん?

そこはヒーリングサロンなの?

アロマの香りの中でフェイシャルマッサージを受けるとか、そういうのって女の人のほうが喜びそうだけどねえ。


「チェリーナお姉様、私知ってるんです。ポルトの町に住んでいたとき、お母さんに行っちゃダメと言われていた通りがありました。そこには派手な女の人たちがっ、モガッ」


ダニエルが慌ててマルティーナの口をふさいだ。


「派手な女の人たち……、ああ!」


ははーん、さてはメイドカフェ的な癒しだね!?


なるほど、なるほど。

こっちの世界じゃ、ミニスカメイド服はさぞかし目立つでしょうなあ。


みんなが隠したがる気持ちもわかったよ。

メイドさんに癒してもらってるとか、なるべく秘密にしておきたいもんね!


「よくわかったわ! それにしても、エスタの街にそんなお店があるなんて知らなかったわ。私たちもそのうち遊びに行ってみましょう」


「……絶対分かってない。チェリーナの頭の中ではどんな店だということになってるんだ……」


ん?

お兄様何か言った?


ちゃんと分かりましたのでご心配なく!

こう見えても私は察しがいい方なんです!



ブーブーブーブー!



「おっ、通信機だ! 通信機が鳴ってるぞ! ……助かった……」


お父様はなぜか心底ほっとしたように、いそいそとポケットから通信機を取り出し通話ボタンを押した。


『兄上!』


「マルティーノか」


『実はついさっき子どもが産まれたんだよ! いや、また男の子なんだ。こうも続くと参るよな、ははは!』


通信機を通して、マルティーノおじさまの大きな声が漏れ聞こえてくる。

マルティーノおじさまは参ると言いつつも、声を弾ませて嬉しそうだ。


「そうか、それはおめでとう。……その様子だと全く気付いてないな」


うん、気付いてない。

マルティーノおじさまってちょっと鈍感だよね。


『えっ、気付く? 何の話だ?』


「マルティーノ、ティーナはどこにいると思う?」


『ティーナ? ティーナならその辺に……。おーい、ティーナ! ティーナ! チェーザレ伯父様がお前と話したいそうだぞー!』



……どんなに呼んでも、いないよね、そこには。






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