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第95話 二人の世界


お父様の名前を聞くや否や、盗賊たちはヒイッと悲鳴をあげて一目散に逃げ出した。


「た、助けれくれーっ!」

「まだ死にたくない!」

「おい、道をふさぐな! どけっ!」


うわあ……、みんな仲間を押しのけて、自分だけ助かろうとしてるね……。

倒れた人は踏みつけられてるし……。


盗賊をむざむざ取り逃がすのは悔しいけど、こっちの人数から考えてとても全員は捕まえられそうもないし、今日のところは逃げて行ってもらうしかなさそうだ。


後のことは、マルティーノおじさまに討伐隊でも出してもらって何とかすればいい。

マルティーノおじさま、ちょっとは働いてもらうからね!


それより、マルティーナが無事でよかったあー!


「ティー……」

「ダニエルッ!」


私がマルティーナに声をかけようとしたのと同じタイミングで、マルティーナはダニエルの名前を叫んだ。

そしてそのまま振り向きもせず、ダニエルの方へ走って行ってしまった。


「ティーナ! なぜこんな危険なことを! あんなに盗賊が大勢いる中に出てくるなんてどうかしてるぞ!」


「だってッ! 馬車の窓からダニエルが盗賊たちに囲まれてるのが見えて……」


マルティーナはダニエルに剣幕に怯んだのか、のろのろとその場で足を止めた。


「結界のマントを着ているんだから、たとえ囲まれていても死ぬことはないよ。それより、ティーナが馬車から降りてきたのが見えて、心臓が止まって死ぬかと思ったぞ。ティーナ、なぜ家出なんかしたんだ? もしかして、ジョアン侯爵家で酷い目に遭っているのか……?」


「……」


マルティーナは俯いたまま返事をしない。


「ティーナ、黙っていてはわからない。訳を話してくれないのか?」


「ううっ……、ダニエル……っ! ダニエル!」


ダニエルはハアッとため息をもらし、泣き出したマルティーナに近づくと、結界のマントをバサリとはだけて抱き寄せた。


「どうしたんだよ。そんなに名前を呼ばなくても、俺はここにいるだろう?」


「ダニエルーーーー!」



ぽかーん。


あの……、私たちもいるんだけど……?

何がどうなっているのかさっぱりわからない。


「あー、ゴホン! みんな怪我はないかな?」


「チェレスティーノ様! マルチェリーナ様! まさか、王都からいらしてくださったのですか?」


お兄様と私の存在に気が付いた騎士たちが、驚いて目を瞠りながら集まってきた。


「マーニが知らせに来たんだよ。ティーナが盗賊が出る街道を通ると聞いたから、心配で駆けつけたんだ」


「それはそれは。想像していたよりも敵の人数が多く、梃子摺っておりましたが……」


そう言って騎士は、チラリとマルティーナに視線を向けた。


「ああ、ティーナが火魔法で盗賊を追い払ってたね。私の父はチェーザレ・プリマヴェーラよ、だっけ?」


からかうようなお兄様の声に振り返ったマルティーナは、そこでやっと私たちの存在に気が付いたようだった。


「チェレスお兄様! チェリーナお姉様! どうしてここに……」


「ティーナ! そんなことより、どうして家出なんてしたの? 護衛も付けずにたった一人で乗合馬車に乗るなんて危険だわ!」


「ううっ……、おねえさま……」


マルティーナの目に浮かんでいた涙がさらに膨れ上がる。


「ーー自分だって護衛なんか付けたことないくせによく言うよ」


お兄様が呆れたように言う。


「私の護衛はお父様ですよ!」


お父様より強い人なんていないんだし!

それに、今は私じゃなくてマルティーナの話なんだから邪魔しないでください!


「……ところで、ティーナはいつから魔法が使えるようになったのかな? これでティーナも、15歳になったら魔法学院に通うしかないね。もしかしたら、このことと家出は何か関係があるのかな?」


お兄様が探偵気取りで見透かしたようなことを言う。

……ぜんぜん意味がわかりませんけど。


なんでそれが家出の原因になるのよ?

魔法を使えるようになったら普通嬉しいでしょ。


ぷぷっ、これはぜったい外したね。

私が思うに、マルティーナはジョアン侯爵家でそれはそれは酷い目にーー。


「ううっ! 王都なんていきたくないっ! うわあーーーー!」


あ、あれっ?


「……ティーナは15歳になったらダニエルと結婚して、プリマヴェーラ辺境伯領に戻ろうと夢見ていた。ところが、魔法を発動したことでその夢が叶えられそうもなくなり、それを悲観したんじゃないかな?」


「ぐすっ……、うう……っ」


そうなの!?

マルティーナ、違うなら違うって言っていいんだよ!?


「話が出来る状態じゃないか……。うちに移動して話をしよう。せっかく久しぶりにダニエルに会えたというのに、このまますぐにジョアン侯爵家に送り返すのはかわいそうだ」


「そうですね。お兄様、私たちももちろん行くんですよね?」


「そりゃそうだよ。気になってこのままじゃ帰れない。それに、相談に乗ってやれるかもしれないしね」


何を当たり前のことをと言わんばかりだ。


「相談……、なるほど! それは私の得意分野です! ティーナ、悩みがあったら何でも私に相談するといいわよ!」


悪いようにはしないから!


実はさ、私って天才なのかもしれないと思い初めてるんだよね。エヘ。

なんといっても、入学早々2教科も免除になるほどの才女だし。

ああ、自分の才能が怖い……!


そんなことを考えながらニヤニヤ笑っていると、胡散臭そうに私を見ているお兄様と目が合った。


「ティーナ、相談相手は慎重に選ぶことをお勧めするよ。それはそうと、うちの騎士たちは何人で来たのかな?」


「はい。風魔法使いが2人しか捕まらなかったので、高速トブーン2機に分かれて4人で駆けつけました」


「4人だね。それじゃあ、風魔法使いじゃないのは……、ニコルか。悪いけど、乗合馬車を最寄りの村か町まで送ってやってくれないかな。送り届けたら、そこから自分でトブーンを操縦して帰ってきてほしい」


お兄様は騎士たちの顔をぐるりと見回して、その中の1人に乗合馬車の護衛役を命じた。

ニコルは可愛らしい名前とは裏腹に、いかにもうちの騎士らしく、マッチョで髭面の厳つい大男だ。


そういえばダニエルも最初に会ったときは細身だったのに、ここ数年でものすごく逞しくなったな。

うちにくると筋肉がつく呪いでもあるんだろうか。


「承知いたしました。そういえば駆けつけたときに、乗合馬車の方で怪我をした者がいたように見えましたが……」


「だ、だいじょぶ……っ。おねえさまの、薬、もってきたっ、ちりょう……っ」


マルティーナがヒックヒックとしゃくりあげながら、懸命に説明している。

うんうん、治癒薬で治療済みならもう大丈夫だね。


「そうか。とりあえず、ティーナはダニエルを放して、トブーンに乗って。ダニエルとは別のトブーンだよ。それじゃあニコル、後のことはよろしく頼むね。チェリーナ、ニコルに高速トブーンを出してやって」


お兄様がてきぱきとその場を仕切っていると、馬車の扉が開き、中からぞろぞろと人が出てきた。

旅装に身を包んだ男の人や女の人、それに親にしがみついた子どもの姿もある。


「あ、あの! この度は危ないところをお助けいただき、どうもありがとうございました!」


袖をまくって腕にラップを貼り付けた御者がお礼を言うと、乗客たちも次々に口を開いた。


「ありがとうございます!」

「おかげさまで命拾いしました!」

「本当にありがとうございます!」


よく見ると一行の中に腰に剣をさした冒険者風の男の人が2人いて、上半身が裸の状態でラップを巻きつけ、肩から血に染まったシャツをひっかけていた。

襲撃された時はマーニの結界の範囲外にいたのか、だいぶ酷く斬り付けられたようだった。


本当に紙一重のところで助かったんだな……。






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