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第89話 お母様似のお兄様


お母様は宥めるように、そっとお父様の手に自分の手を重ねて微笑んだ。


「あなた。たとえ話ですからお静かに」


「そ、そうか……。ハハ……」


「チェリーナ、わかったでしょう? たとえ話ですら不快になってしまうような大変なことなのよ。噂で他の人からこんな話を聞かされたら、とても心穏やかではいられないわ。相手が婚約者であっても配偶者であっても同じことだけれど、不実を疑われるようなことは決してしてはいけないと肝に銘じておきなさい」


確かにお父様の怒りっぷりに比べたら、クリス様は大目に見ていてくれたのかもしれない……。

こんなに相手を怒らせてしまうことだなんて、想像もしていなかったな……。


やっぱり、私が悪かったのは確実なようだ。


「よくわかりました、お母様……。クリス様、勝手なことをしてごめんなさい。お兄様も、迷惑をかけてごめんなさい……」


「わかればいい」


「アルフォンソと遊ぶなとは言わないけど、これからはクリス様か他の誰かも一緒にね」


お兄様、自分を誘えとは言わないところを見ると、今回のこと本当に迷惑に思ってるんだな。

そうだよね、せっかくの休みなのにカレンデュラと一緒に過ごせないんだもんね。

ほんとすいませんでした……。


それにしても、大人になるっていろいろ大変なんだなあ。

私、ちゃんとした大人になれるのかな……。





翌朝、私を迎えに来たアルフォンソは、クリス様とお兄様の姿を見て目を丸くしていた。

そして、アルフォンソの証言で私がクリス様の許可をもらったと嘘をついていたこともバレてしまい、またもや叱られる羽目になってしまった。


「まったく……」


朝からそんなに怒らないでよ……。


「ごめんなさい……。本当に反省しています。でも、そろそろ王都へ向かったほうがいいんじゃないでしょうか?」


「そうだな。お前はチェレスのトブーンに乗れ。俺はアルフォンソのトブーンに乗る」


私とクリス様がペアになることはありません。

風魔法使いと一緒じゃないと遅くなるからね。


でもさあ、わざわざ組み合わせを変える必要ってあるんだろうか?

来た時と同じでいいじゃない。

お兄様と一緒だと、王都に着くまで延々と小言を言われそうで憂鬱なんだけど……。


「はい……。お兄様、お手柔らかにお願いします……」


「こっちだってお手柔らかにしてやりたいけどね。僕の妹にはビシビシ言わないとまったく通じないんだよ」


「さようで……。さあっ、みなさん気を取り直して出発しましょう! おーっ!」


王都までこの調子で小言が続いたら病気になりそうだし、こんな時はさくっと話題を変えるにかぎるよ!


「それじゃあ、気を付けて帰れよ。パーティでまた会おう」

「みんな、気を付けてね」


見送るお父様たちと短く挨拶を交わすと、私たちを乗せたトブーンはゆっくりと飛び立っていった。


「お父様ー! お母様ー! またすぐ帰ってきますねー!」


なんならまた来週帰ってくるから寂しがらないでね、お父様!


「いや、そんなすぐ帰らなくていいから」


お父様とお母様に手を振りながら別れを惜しむ私に向かって、お兄様が酷いことを言う。

だってお父様が私に会いたがってるんだから仕方ないじゃない!


「お兄様とクリス様だって、ほぼ毎週帰ってきてたじゃないですか」


魔法学院に入学してから月に3回のペースで帰ってきておきながら、よく私に帰らなくていいからなんて言えるよね!


お兄様たちが帰ってくるときは、まずはお兄様とクリス様の2人でフィオーレ伯爵家へ飛んで、お兄様はそのままフィオーレ伯爵家に滞在。

クリス様はそこから自分のトブーンを操縦して、うちへ飛んできていた。


帰りはお兄様が朝方クリス様を迎えに来て、2人で王都へ帰るのが毎回のパターンになっていたのだ。


「婚約者に会うために帰ってきて何が悪いのさ? 僕達は別に父上や母上に甘えるために帰ってきてたんじゃないからね。婚約者に定期的に会うということは、近い将来の円満な結婚生活のために必要なことだよ」


まったく、ああ言えばこう言うんだから!


「お兄様は学院を卒業したらお父様とお母様と一緒に暮らせますけど、私は違うんです! いまのうちに少しでも一緒にいたいんですよ!」


「……一応、卒業したら結婚するという自覚はあるようで安心したよ。でも、いつまでも一般常識が身につかないようじゃ、いつ破談になってもおかしくないということを忘れないように。チェリーナはもっと貴族令嬢としてーーー」


くどくどくどくど。


……やっぱりお兄様って、基本的にお母様似だよね。

身長や髪の色はお父様に似てきたけど、おおらかな性格ももっと似てほしかったな。

お父様なら、こんなに私を叱ったりしないのにな……、はあ……。





帰りも出来るだけ休憩を短縮して、私たちは5時間ほどで魔法学院の校庭の片隅に到着した。


もう……、くたばりそうです……。


恐れていた通り、お兄様の小言は校庭に降り立つまで止むことがなかった。

明日からまた忙しい1週間が始まるんだから、少しは休ませてほしいんですけど……。


精神的な疲労がかなり溜まってるし、部屋に戻ったら昼寝でもすることにしようかな。


「それではみなさん、また明日! ごきげんよう」


「ちょっと待て」


さっさと退散しようとしたのに、クリス様に呼び止められてしまった。


「どうかしましたか?」


「今日はみんな疲れてるし、外に出て食事するのもおっくうだ。食事はおべんとーで済ませよう」


まあ、確かに今日は外出する気分じゃないけど。

それって私が用意するんですよね……。


「そうだね、僕もそれがいいな。じゃあ、僕はカレンの分と合わせて6つくらいでいいかな。えーと、ステーキ2つと、ハンバーグ1つ、とんかつ1つ、からあげ1つ、エビフライ1つ、それからデザートにいちごのサンドイッチも。飲み物はカレンがお茶を入れてくれるから、今日はいいや」


「僕は、お昼はオムライスで、夜はステーキにしようかな。それといちごのロールケーキと、飲み物は冷たい紅茶を2つ」


ちょっと、お兄様もアルフォンソも少しは遠慮してよ!


「……なに? 僕達に散々迷惑かけたんだから、お詫びの気持ちを形で示してもバチは当たらないと思うけど?」


くっ、それを言われると……!

もうわかったよ!


最初の方の注文は忘れたから、適当に出してさっさと部屋に戻ることにしよう……。

ステーキ4つとハンバーグ2つ、それからオムライス2つといちごのサンドイッチ2つでいいね。


「ーーポチッとな! お兄様、アルフォンソ、ご所望のお弁当でございまする……」


「うん」


「ありがとう、チェリーナ」


よかった、適当に出したことはバレてないようだ。


「クリス様は何がいいですか?」


「俺は、あとでお前の部屋に行くから、いまはいい。一緒に食べよう」


そ、そんな……!

私は昼寝をしないといけないから忙しいのに……。


でもまあ、クリス様も疲れてるだろうし、そんなに長居はしないかな。


「……かしこまりました。それでは、部屋でお待ちしていますね」


魔法学院の寮は当然ながら男子寮と女子寮に分かれているんだけど、親族もしくは婚約者にかぎり、日中であれば部屋の行き来を許されているのだ。


行き来とはいっても、女子生徒が男子寮に足を踏み入れることはあまりなく、男子生徒の方が女子寮を訪れることが普通になっていると聞いている。


はあ……。

出来れば女子寮は男子禁制にしてほしかったな……。






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