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第87話 マーニは秘密主義


きっと喜んでくれると思ったのに……。


「でも……、お父様が寂しいと……」


「どのみち今月末のパーティで会えるだろ? それに、寂しがる暇がないほど通信機が鳴りっぱなしだぞ」


「お父様……」


せっかく会いに来たのに……。


「チェーザレ様、ご無沙汰しております。実は、チェリーナが画期的なことを考えついたんですよ。2年もの長期保存が可能になる食べ物なのですが、それをアルベルティーニ商会で研究開発出来ないかと思いまして。それで一緒に帰省してきたのです」


しゅんとしてしまった私を見かねたのか、アルフォンソが帰省の目的を説明してくれる。


そうそうっ!

忘れかけてたけどパスタ製造が目的なんだからね!


「おお、アルフォンソか。少し見ない間にずいぶん大人びたな。なんだ、ただ家が恋しくなって帰ってきたのかと思ったら、ちゃんとした理由があったのか」


声が聞こえた方に視線を向けたお父様は、声の主を見て目を細めている。

そしてアルフォンソの説明に納得したらしく、私の頭にぽんぽんと手をのせてきた。


「そうですよ! まったくお父様ったらひどいんだから! せっかくお父様を大儲けさせてあげようと思って考えたのに!」


私はお父様にぎゅうぎゅう抱きつきながら、ここぞとばかりに非難した。


「ははっ、大儲けか。まあ、期待しないで待つことにしよう」


「それでは、僕はこの辺で失礼します。チェリーナ、パスタを切る道具をもらえるかな?」


「あっ、そうだったわ! それから、出来上がりの見本もあったほうがいいわよね」


パスタカッターは何個必要かな?

とりあえず5個でいいか。

量産できるようになるかどうか、まだわからないし。


パスタのお弁当は10個もあれば十分だよね。

もし食べきれなくても、アルフォンソのアイテム袋に入れておけば腐ることもない。


「ーーポチッとな! ちょっと多いかもしれないけど、足りないよりはいいと思うわ」


「そうだね。ありがとう、チェリーナ。じゃあ、明日の朝7時頃また迎えにくるよ」


「わかったわ。また明日ね、アルフォンソ」


私は手を振って、飛び立っていくアルフォンソを見送った。




お父様と並んで正面玄関の方へ歩いているうちに、私はふとマーニのことを思い出した。

私が王都へ行ってからまったく姿を見ていないので、少しだけ心配していたのだ。


どうせ私のことを放置してお父様のところにいるに違いないと思っていたのに、ここにもいないみたいなんだけど……。


「お父様、マーニはうちにいますか?」


「いや、最近姿を見てないぞ。てっきりお前と一緒だと思っていたが、そうするとマルティーノのところなのかな?」


マルティーノおじさまは4年ほど前にサリヴァンナ先生と結婚し、いまはジョアン侯爵領に移り住んでいる。

2人が結婚したのは、マルティーノおじさまが30歳、サリヴァンナ先生が25歳になる数日前のギリギリ24歳のときだった。


「ああ、マルティーノおじさまのところかもしれませんね」


「マルティーノたちがジョアン侯爵領に行ってから、マーニは行ったり来たりしているからな」


いま思い出しても、2人が結婚したときはほんと大変だったよ……。


あの時は、実家から早く結婚しろと矢の催促を受けていたサリヴァンナ先生の前に、業を煮やした父親であるジョアン侯爵が登場して大騒動になったのだ。


25歳になったら無理やりにでも結婚させると言い放つジョアン侯爵と、涙ながらにそれを拒むサリヴァンナ先生の攻防を、私たちはなす術もなくただ見守るしかなかったんだけど……。


正直、マルティーノおじさまには心底ムカついたよね!


亡くなったニーナさんに申し訳ないと思う気持ちと、サリヴァンナ先生への気持ちの間で悩みに悩むことなんと3年!

ぐだぐだぐだぐだと、どこまでも煮え切らないおっさんのどこがそんなにいいのか全く理解できなかったわ。


「それにしても、もう2週間くらい姿を見てませんよ」


「そんなになるか。言われてみれば少し長い気もするな」


ジョアン侯爵の登場で、自分が決断しなければあと数日で他の人と結婚させられてしまうところまで追い詰められたおかげで、マルティーノおじさまはとうとうサリヴァンナ先生にプロポーズをする決心をした。


傍から見てると、とっくにサリヴァンナ先生のことを好きになってるとしか思えなかったのにね……。


2人から結婚の意志を聞いたジョアン侯爵は、俺の可愛い娘を泣かせた挙句に何年も待たせやがって!と怒り心頭でマルティーノおじさまをぶん殴った後、それでも娘の気持ちを汲んで結婚することを認めてくれた。


ちなみに、貴族同士の結婚でありながら、プロポーズの翌日に結婚するという超スピード婚でした!


娘が少しでも若いうちに結婚させてやりたいというジョアン侯爵の親心なのか、マルティーノおじさまの気が変わる前に一刻も早くということなのかわからなかったけど、紆余曲折を経て交際期間1日で結婚した2人は、今はとても幸せそうでなによりだ。


「こんなに長く向こうにいるなんて、何かあったんでしょうか?」


「さあ、特に連絡はないけどな。そろそろ子どもが生まれそうだから見守ってるのかもしれないな」


「ああ! そういえばもうすぐですね!」


サリヴァンナ先生の任期が終わるまでプリマヴェーラ辺境伯家で過ごした2人は、その間に最初の子どもを授かり、いまは3人目の子どもを妊娠中なのだ。

上の2人はどちらも男の子で、上の子は3歳になったところ、下の子はたしか1歳半位だったと思う。


……どうでもいいけど、マルティーノおじさま……。

結婚するまであれほどもったいぶっておきながら、結婚後たったの4年でもう3人目なんですね。


次もまた男の子なのかな……?




(おい)


ん?

マーニ!?


噂をすればマーニだ!


「お父様、マーニがいましたよ!」


どこから現れたのか、マーニはすばやくお父様の体を駆け上がると、定位置の肩にちょこんと座った。


「おお、マーニか。久しぶりだな。元気だったか?」


マーニはお父様にあごの下をこちょこちょとくすぐられ、機嫌よくしっぽを揺らしている。


(お前を追いかけてくるものがいるぞ。かなり怒ってるな)


「ええっ! いったい誰が!?」


(一応お前のことも守護することになっているから、わざわざ警告しに来てやったんだ。ありがたく思え。それから、俺はしばらくジョアン侯爵家にいる。気になることがあるからな)


それはわかったけど、誰が来るのよ!


(感謝のしるしに早くステーキを出せ。しばらく食べてなかったからな)


くううー、質問に答えない気だね!


「ーーポチッとな! はい、ステーキ! それで誰が来るの?」


(……うるさい。食事が先だ)


マーニは、しゅたっと地面に飛び降りると、はぐはぐとステーキにがっつき始めた。


「チェリーナ、どうしたんだ?」


「誰かが私を追いかけているそうなんですけど、かなり怒ってるって……。全然心当たりがありません。私、怒られるようなことしてませんし……」


「ふーん? 誰だろうな?」


「それから、マーニはしばらくジョアン侯爵家で過ごすそうです。気になることがあるとか」


「ふーん? 何が気になるんだろうな?」


まったく、マーニがちゃんと答えてくれないから謎だらけだよ!

もういいよ、気にしないことにする!


(ふう。久しぶりのステーキはうまかった。じゃあな、俺はもういく)


「あっ!」


そうしてマーニは、引き止める間もなく、あっという間に姿を消してしまった。






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