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第86話 内緒の里帰り


それに、もし生クリームがお店で売ってるとしても、冷蔵庫がないのに常温であわ立ててホイップクリームになるのかな?

たぶん氷があれば作れるとは思うけど、氷を手に入れるのも難しいし、諦めた方がいい気がするけど……。


「冷やさないと作れないのだけれど、この季節では氷が手に入らないわ……」


「氷があればいいのか……?」


ガ、ガブリエル?

そんなに気に入ったの?


でも……、これ以上忙しくなるのは勘弁してほしいよね……、正直めんどくさい……。


「ええ、たぶん……。それから、このクリームは冷やしておかないと溶けてしまうのです。低温を保てる箱か何かがないと、作るのは難しいと思います」


「……わかった。低温を保てればいいんだな。俺の魔法で冷やせるか試してみる」


「ガブリエル様の魔法は何なのですか?」


「俺は、闇魔法と水魔法と氷魔法」


す、すごい。

水魔法を使える人は結構いるけど、数少ない闇魔法と、さらに珍しい氷魔法までとは。


3属性持ちに会うのは初めてだ。

ガブリエルってもしかして、実はとんでもなくエリートなんだろうか。


それにしても、マルティーノおじさまは火魔法と水魔法だし、お兄様は火魔法と風魔法、そして私も創造魔法と火魔法の2属性持ちだし、複数の魔法属性を持ってる人って割といるものなんだな。


まあ……、私の火魔法はロウソクの火程度の火力なんですけれども……。


10歳の時に発動してからちっとも強くならないけど、それでも一応2属性は2属性だ。

それに、私の創造魔法は歴史上でも数人しかいない希少な魔法だし、火魔法が弱くても別に悔しくなんてないんだからね!


「3属性もお持ちなのですね。……あの、創立記念パーティまでみんな何かと忙しいですし、ロールケーキを試すのは、パーティが終わってからということで問題ないでしょうか……?」


「……わかった。パーティの後でいい」


ほっ、見かけによらず意外と聞き分けのいい人で助かった!


「それまでは、魔法でいちごのロールケーキを出せば問題ない」


ズコー。

ずうずうしいな!

これだから公爵家のお坊ちゃまは!


「そうだな」


クリス様!?

勝手に賛同しないでください!


「でも、食べ物を出す魔法はあまり使わないようにとお母様が……」


「今更だろ。ここにいる者はみんな、お前の魔法をもう見てるんだぞ」


そうですけど……。


「これに懲りたら、今後は無闇に人前で魔法を使わないように気をつけろよ」


ぐぬぬぬぬ!

散々たかっておきながらえらそうにーーー!


はあ……、なんかもうわがまま坊ちゃまだらけで疲れたよ……。

来週アルフォンソが帰る時、私も一緒に帰ろうかな……。


お父様が寂しがってるに決まってるし。

うん、いい考えだ、そうしよう!





「アルフォンソ!」


翌週、授業の合間にアルフォンソの姿を見かけた私は、無事に出来上がったパスタカッターのことを報告しようと廊下に出て声をかけた。


「ああ、チェリーナ。どうしたの?」


「例のものが出来たのよ! 私も一緒に行くことにしたから、向こうに着いてから渡すわね」


「えっ、一緒に行くの? ……クリス様はこのこと知っているの?」


ん?

なんでクリス様が関係あるの?

ちょっと意味不明なんだけど……。


「言ってないから知らないと思うけど?」


「チェリーナ……、僕達はもう子どもじゃないんだから。婚約者がいる女の子と2人だけで旅するなんて、まずいに決まってるじゃないか」


アルフォンソが声を落として変なことを言い出した。


「あはは! 旅って! 大袈裟ね、ほんの数時間のことじゃない」


「ちょ、ちょっと、チェリーナ……! 声が大きいって」


アルフォンソはきょろきょろと周りの様子を伺うと、廊下の端へと私を引っ張っていった。


ちょっと自意識過剰じゃないのー?

誰も私たちのことなんて気にしてないのに。


「笑い事じゃないよ。チェリーナはもっと貴族令嬢として自覚を持たないと。変な噂がたったら命取りになりかねないよ。もし本当に行く気なら、ちゃんとクリス様の許可を貰ってくる事! クリス様がダメだと言ったら連れて行かないからね」


いつも優しいアルフォンソが珍しく強めに忠告してくる。


でもさ、なんで私が帰るだけなのにクリス様の許可が必要なのか、なんだか納得しかねるよね……。

私はクリス様の所有物じゃないのに。


「わかった?」


いつまでも返事をしない私に、アルフォンソが念押しをしてきた。


「わかった、わかりました! クリス様に言えばいいんでしょ」


「よし! ちょっと早すぎる帰省だけど、チェーザレ様もチェリーナに会えなくて寂しがってるだろうからきっと喜んでくれるよ」


そーでしょー!

私もそう思ってたの!


「ふふっ、いきなり帰ってお父様をびっくりさせることにするわ」


「はは。それじゃ、また放課後にね」





そして心待ちにしていた週末になり、私は朝早くに起き出して準備を整え、待ち合わせ場所である校庭の片隅へと急いだ。


「おはよう、アルフォンソ! 今日はいい天気になりそうね」


すでにアイテム袋から高速トブーンを取り出して私を待っていたアルフォンソは、私の声に振り向いて笑顔を見せた。


「おはよう、チェリーナ。じゃあ、早速行こうか」


「ええ、行きましょう!」


「クリス様は何も言ってなかった?」


……クリス様って?


はっ!

そういえば、帰省することをクリス様に報告して許可をもらうようにと言われていたんだった……。


すっかり忘れてたよ。

どうしよう……、もう時間もないし……。

……ここは誤魔化すしかあるまい。


「えっ、ええ! クリス様は何も言ってなかったわ」


なにしろ報告してないからね!

嘘じゃないし!

ふんふふふーん。


「……なんか、チェリーナのその顔……。嘘ついてるときの顔なんだけど……」


嘘ついてるときの顔ってどんな顔!?

私って、そんなにわかりやすいんだろうか。


「嘘なんてついてないわよ。さあ、行きましょう!」


クリス様が何も言ってなかったのは嘘じゃないから!

私は顔を隠すように結界のマントを羽織りながら、さっさとアルフォンソの高速トブーンに乗り込んだ。


「いまいち信用ならないけど……。まあ、向こうで色々やることがあるし、早く帰りたいから今日のところは追及しないでおくよ。チェリーナ、結界のマントのフードをちゃんと被って姿を隠して。よし、行くよ!」


「張り切って行きま……、うひょーーーっ! はっ、速い速い速い! アルフォンソ、いきなり速すぎるよーーーーーっ!」


ブバババババババーーーー!


アルフォンソがプロペラに向けて風魔法を放ったことで、高速トブーンがものすごい勢いで上昇していく。

ちょっとちょっと、なんでいきなり加速するかな!


普段は温厚なアルフォンソなのに、意外とトブーンの操作は荒いというか、スピード出しすぎなんだってーーーーっ!





最低限の休憩のみでひたすらトブーンを飛ばし続けた結果、私たちは5時間ほどでプリマヴェーラ辺境伯家の屋敷内の広場へと到着した。


つ、つかれた……。

短時間で懐かしの我が家に着いたのは嬉しいけど、やっぱり風魔法使いに便乗するのは寿命が縮むよ……。


「チェリーナ? お前、もう帰ってきたのか?」


外にいてトブーンの音に気付いたらしいお父様が、建物の影からひょいと姿を現わした。


「お父様! お父様が寂しがっているんじゃないかと思って!」


私は久しぶりにお父様を見て嬉しくなり、さっそく駆け寄ってぴょんと飛びついた。


「おっと。お前なあ。お母様に最初の1ヶ月くらいは里帰りは我慢しろって言われてなかったか? お前も学院や寮生活に慣れないといけないだろう?」


お父様は、ぐりぐりと顔を押し付ける私を受け止めながら小言を言った。


あれ……、まさかとは思うけど、お父様は私に会えて嬉しくないの……?





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