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第85話 いちごのロールケーキ


「私たちには名物料理のボロニア風パスタを広めるという使命がありますから……。パスタととんかつにしましょうか?」


ラザニアとハンバーグじゃひき肉がかぶるからね。

いや待てよ、とんかつソースの再現なんて、麺作り以上に困難を極める気もするな……。


「やっぱり、せっかくですからクリス様のお好きなハンバーグがいいですね。パスタとハンバーグにします」


ハンバーグなら、デミグラスソースでもトマトソースでもいけるし、チーズを乗せても目玉焼きを乗せてもいけるもんね!


「私はやっぱり魚料理ね。魚介のトマトスープと魚のパイにしようかしら」


「よし、決まったな。ハヤメールで兄上に手紙を送る。王太子の頼みとあれば、王宮の料理人も嫌とは言えまい」


ガク。

俺に任せろなんて言っておいて、アドリアーノ殿下に丸投げするつもりだったの!?


「……なんだよ? 俺がわざわざ王宮に出向くより効率がいいだろ」


そうですけど……。

ただでさえ王太子の仕事が忙しい上に、4年前に結婚した妃殿下との間に次々に子どもが生まれて今や2児の父だし、どう考えてもクリス様のほうが暇だと思うんだけど……。


暇人が忙しい人をこき使うなんてとんでもないよ!


「王太子殿下はお忙しいのではないでしょうか。あまり個人的な頼みごとで振り回すのはどうかと思います」


「は? お前がそれを言うのか? お前は個人的な頼みごとで、忙しいプリマヴェーラ辺境伯を振り回し続けているじゃないか。毎日毎日ろくでもない用事で通信機を使って。相手の忙しさに気を使うなら、通信機は緊急用にすべきなんじゃないのか」


異議ありっ!

私、お父様を毎日なんて振り回してないし!

稀によくあるだけだし!


「お父様はいいんです! 私のお父様なんですから!」


「兄上だって俺の兄上だぞ。相変わらずバカだな」


むうううー!


「まあまあ、2人とも。王太子殿下は仕事の早い方ですから、これぐらいのことは何でもないとは思いますが、パーティメニューのことは私から父に話しておきましょう。王宮料理人の派遣も父が手配したことですし、パーティメニューを最終的に承認するのは父ですから」


にらみ合う私たちを見かねたように、宰相の息子ファエロが割って入った。

いつも冷静で、いかにもデキ男といった雰囲気を漂わせている。


「そうか。それならファエロに頼むことにしよう」


「ファエロ様、よろしくお願いいたします」


あれ……。

そういえば、ファエロって継母にいじめられてるんじゃなかったっけ?


「ファエロ様……、もし悩みがあれば、いつでも私に相談してくださいね。決して悪いようにはいたしませんわ」


「な、悩み?」


ちょっとだけ唐突だったせいか、ファエロがきょとんとしている。


「俺の悩みはお前のその突拍子のなさだ。メニューの話からどうやってファエロの悩みに飛んだんだよ」


クリス様はちょっと黙っててください!


「ご家庭で辛い目に遭っていらっしゃるとか?」


「辛い目? いえ、特には。家族仲も普通だと思っていますが……」


強がって見せていても、本当は継母や継母の連れ子にいじめられているんじゃなくて?

まだ出会って少ししか経ってないけど、バーンと心の扉を開け放ってもいいんですよ!


「ファエロの両親は健在だぞ。実の弟とも仲がいい」


秘密のノートに書かれていたことを思い出したらしいクリス様がフォローしてきた。


「えっ、お母様もお元気で?」


「ええ、それが何か? 母は7年前に大病を患い一時はどうなることかと思いましたが、今は元気ですよ。ベールの聖女様の治癒薬で命をとりとめたのです」


ああーっ、あの時のっ!

そうか、私の魔法で出した治癒薬で命をとりとめた人があちこちにいるから、あの時から7年経った現在の状況が変わってるんだ……!


「まあっ、そうでしたの! お母様がお元気になられてよかったですわ! 私、本当に嬉しいです!」


もしその時亡くなってたら今頃酷い目にあわされてたよ、ファエロ!


もしかすると、ルイーザの方も似たような感じなのかもしれない。

私の治癒薬で1年前の妹の病気が治ったから、ジュリオと婚約破棄をせずに済んだのかも。


今となっては推理するしかないけど、もともとの話では妹の治療のために大金が必要になって、お金を工面するためにジュリオと婚約破棄せざるを得なかったのかもしれないね。

お金持ちに鞍替えしたって設定だったけど、ルイーザが私利私欲のためにジュリオを捨てるとは思えないもん。


そうなると、どうしてラヴィエータのお母さんは亡くなったんだろう……?

病死じゃなくて、不慮の事故だったのかな。



「……いちごのロールケーキとは……?」


ん?

誰の声?


「えっ、なにかしら?」


「いちごのロールケーキとは……?」


あ、ガブリエル、いたの?

もっと積極的に会話に入ってこないと存在を忘れちゃうよ!


「いちごのロールケーキがどうかしましたか?」


「いや、俺が質問しているんだが……。いちごのロールケーキとはどんな食べ物なんだ?」


ああ、そういう意味?


「あら、食べたことがありませんか? とてもおいしいですよ。そうだ、デザートにみんなで食べましょう」


「お前が魔法で出した食べ物なんだから、ほとんどの人間は食べたことがないに決まってるだろ。丸い形で、一番外側がピンク色のやわらかいケーキなんだ。中に真っ白なクリームと大きくて甘いいちごが入っている。普通のケーキとは全く違っていて、ふわふわでとても美味い」


クリス様……、そこまで詳細に語るほどいちごのロールケーキが好きだったとは……。


そういえば、トブーン酔いするクリス様のために、携帯用の回復薬を持たせてあげようと思ってミント味の錠剤を渡したときは絶望してたっけ。

なんでこの味でゲンキーナの代わりになるんだよとかなんとか……。

あんまりうるさいから、クリス様の携帯用回復薬はイチゴミルク味の飴にしてあげたんだよね。


「ーーポチッとな! これがいちごのロールケーキです!」


パカッと蓋を開けて中を見せると、箱の中には断面を上にして9切れのロールケーキがずらっと並んでいる。

ロールケーキを綺麗に切るのは難しいから、最初から切れてるやつです!


綺麗なピンク色のスポンジにテンションがあがったのか、いちごの大きさに驚いたのか、おおっという声が上がった。

ちなみに真ん中のいちごは、ブランドいちごのあまキングを使用しています!


「お皿をーー」


「マルチェリーナ様、私が取り分けましょう」


ラヴィエータがお皿とフォークを持って来てくれた。


ええと、1,2,3,4……、料理長を入れて11人か。

1箱じゃ足りないから2箱必要だね。


「さあ、どうぞ! 食べてみて!」


「おいしいっ!」

「美味いな」

「……美味い……」


「チェリーナ、この白いクリームはふわふわなのね? よくケーキに使われるクリームと全く違うようだけど、どうやって作るのかしら?」


ルイーザはホイップクリームの作り方に興味があるようだ。

この国でケーキというと、ドライフルーツやナッツがたくさん入ったパウンドケーキや、砂糖でアイシングされたケーキ、バタークリームで覆われたケーキ、フルーツやカスタードクリームを使ったパイなどがほとんどだ。


つまり、生クリームを使ったケーキが存在しない。

何しろ冷蔵庫がないからね……。


「ええと、このクリームはもともとは牛乳よ。牛乳の成分の濃いところだけをあわ立てて作るのだけど……」


生クリームってその辺に売ってるのかな?

売ってないとしたら、どうやって牛乳から生クリームを作るのかわからないよ……。





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