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第84話 アルフォンソの提案


「それから、魚のパイもいいわね」


ルイーザはどんどんパーティメニューのアイデアが出て来るようだけど……。


魚のパイ……?

それって、有名な魔女が宅配に行った先で、あたしこのパイ嫌いなのよねって言われるあのパイ?


本物の魚のパイってどんな感じなんだろうと思って画像を検索したら、数匹の魚がパイ皮を突き破って顔を出しているホラーな料理が出てきて、コレを渡されたらああ言うのも無理ないなと妙に納得したことを思い出すよ……。


「魚のパイは……、パーティにはどうなのかしら……。頭からバリバリとは、パーティでは少し食べにくいのではないかしら?」


「頭からバリバリ? 魚のパイには頭は入っていないわ。大きな魚の切り身と、ほうれん草とホワイトソースをパイ皮で包んだ料理なの。魚肉がオレンジ色だから、切り分けた断面の色も綺麗だし、味もおいしいのよ」


オレンジ色っていうと鮭かな?

私の想像とは別物だったようだ。


「それはおいしそうね! ピザやハンバーグやからあげも食べたいし、ああ、食べたいものがどんどん出てくるわ!」


「チェリーナ、悪いけどちょっと話を戻していいかな?」


アルフォンソが盛り上がる私たちの会話に割って入ってきた。

戻すってどこまで?


「ええ、いいわよ。何の話かしら?」


「さっきの、パスタを乾燥させて長期保存するっていう話だよ。2年も保存が可能だなんてすごいことだし、料理長も興味がありますよね?」


アルフォンソに話を振られた料理長もうんうんと頷いている。


「ええ。乾燥パスタさえ手に入れば、本当に学院の名物料理にすることも可能かもしれません」


「そうはいっても、料理長は日々の料理を作ることに忙しいし、僕達も勉強や撮影で忙しい。そこで相談なんだけどね。アルベルティーニ商会で、乾燥パスタの加工方法を研究してもいいかな? 上手く商品化できればプリマヴェーラ辺境伯の税収も増えることになるし、学院の名物料理の実現も夢ではなくなる」


すごいよ、アルフォンソ!

いつの間にこんなに抜け目のない商人に成長したの?


あの小さかったアルフォンソが……、ホロリ……。


「素晴らしいわ、アルフォンソ! とてもいい案ね!」


「フーン。商品化できたらアルベルティーニ商会は大儲けか。やるな、アルフォンソ」


お兄様はにやにやとアルフォンソを茶化している。


「どこに商売の種が転がっているかわかりませんからね。成功すれば、いずれはチェレス様も恩恵を受けることになりますよ」


「うひひ……、越後屋、おぬしも悪よのう……」


「……何それ? うちはアルベルティーニ商会なんだけど……。僕が悪って意味がわからないよ」


えっ、今の話の流れだと悪代官ごっこするところでしょ!?

なんか、私がすべったみたいになってて腑に落ちない!


ふーっ……、やっぱりこういうところに異世界での生き辛さを感じるよね。

寄せては返す波のように苦労が襲ってくるよ……。


「なんでもないわ! 他の悪徳商人にこの話を聞きつけられないように気をつけてね、という意味よ。生産方法は秘密にしたほうがいいと思うわ」


「そういう意味だったの? わかった、気をつける。実家への連絡は部屋に戻ってからにするよ」


アルフォンソが魔法学院に入学したときにお祝いとして通信機をあげているから、アルフォンソも実家とはいつでも連絡を取ることが出来るのだ。


でも、アルベルティーニ商会で乾燥パスタを作るにしても、練るのはともかく、一定の幅に切るのが大変すぎないかな?

魔法でパスタマシンを出せたらいいんだけど、どういう形だったか詳しく思い出せないよ……。


うーん、何かいい案はないものか。


「そうだわ! ゆで卵をスライスするマッシーンを大きくすればいいのよ!」


「ゆで卵をスライスするまっしーん? 何それ……気持ちわるい。チェリーナ、またおかしなことを始めるんじゃないだろうね……?」


お兄様がいぶかしげに私を見る。


ええと、ちゃんとした名前はなんだっけ。

あっ、エッグスライサーだった!

パスタを切るなら卵を乗せるくぼみも必要ないし、簡単に描けそうな気がするな。


「おかしなことだなんて言いがかりです、お兄様! パスタを均等に切り分けるための、パスタカッターを思いついたんです。包丁で切る作業がなくなるので、きっと作業効率がよくなる筈です」


「チェリーナ、それは助かるよ。そうすると、やっぱり一旦実家に帰るしかないか。来週末にちょっと行ってくるから、それまでにその道具を用意してもらえるかな?」


通信機だけじゃ用事が済まなくなってしまったので、アルフォンソは帰省することに決めたようだ。


王都からプリマヴェーラ辺境伯領は、本来なら気軽に帰れるような距離ではない。

ところが、お兄様のリクエストで作った高速トブーンに、風魔法を併用することでビックリするくらい早くプリマヴェーラ辺境伯領まで帰ることが可能になったのだ。


「ええ、いいわよ、アルフォンソ」


今では、馬車で片道8日~10日程かかっていたところを、お兄様やアルフォンソならなんとたったの5~6時間で飛べるようになった。

どれくらい休憩を間に挟むかで所要時間が変わってくるけど、およその時間は普通のトブーンだと12~13時間、高速トブーンだと8~9時間、高速トブーン+風魔法だと5~6時間程が目安になっている。


ちなみに私は、高速トブーン+風魔法に便乗するのはなるべく避けたい派……。

だって、スピードが出過ぎてものすごく怖いんだから!


あのスピードで恐怖を感じないって、風魔法使いはちょっとおかしいのかもしれない。

それに、あまりの寒さに耐え切れず、結界のマントに温度調節機能をプラスしたんだけど、それがなかったら寒さで凍死してもおかしくないと思うし。


座席を馬車みたいに箱型にするのが一番いいと思うんだけど、操縦しながら魔法を使うからってことで、横は塞がず開けておいてほしいそうなんですよね……。

妥協案として、高速トブーンの前面を風よけのアクリル板で覆ってはいるけど、防寒対策としてはイマイチだ。


急ぐときは私も高速トブーンに乗っているけど、なんだかんだ言っても、私にとっては普通のトブーンが一番快適なスピードなのだ。




「それじゃあ、パーティメニューの話の続きをしましょうか!」


「あ、あの、お嬢様。1000周年記念パーティのメニューですが、王宮の料理人が取り仕切ることになっておりまして、私どもは手伝いをするだけなのです。1、2品であれば、こちらの提案したメニューを取り入れていただけるかもしれませんが、あまりたくさんは無理ではないかと……」


「あら……、そうなの。せっかく大勢の人に食べてもらえる機会なのに、残念だわ……」


王宮の料理人が作る料理も楽しみだけど、メニューを考えるのが楽しかったのにな。


「俺に任せろ。お前とルイーザ、それぞれ2品ずつくらいなら何とかなるだろう」


「わあっ、ありがとうございます、クリス様!」


やったあ、さすが王子ですな!

とっておきの2品は何にしようかな?


「いちごのロールケーキとハンバーグがいいんじゃないか? 料理長に作り方を教えておけば学食で食べられるようになるぞ」


さらりと好物のいちごのロールケーキを推してくるけど、ケーキはデザートだからねぇ……。


クリス様って実はいちごが大好きみたいで、いちごのロールケーキといちごのサンドイッチ、そしてイチゴミルク味のゲンキーナのリクエスト回数が圧倒的に多いんだよね。


でもそれだと、肝心のラザニアが入っていない。

名物料理推進委員会会長としては容認しかねるよ!





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