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第76話 招かざる客、三度


あれっ、うちの騎士じゃなかったみたい。

声に聞き覚えがないな。


「はっ」


お父様とマルティーノおじさまは、その人のために道を開けて、対応を任せることに同意を示している。

ええー、なんでこの人に任せるの!?


「あっ! 兄上! たたた、助けてくださいっ!」


「えっ……! アドリアーノ兄上っ!?」


お父様とマルティーノおじさまが両側にどいたおかげで、後ろにいた人たちの姿が私にもやっと見えた。


えーっ、またクリス様のお兄さんが来たの?

こんな大勢で突然来られたら迷惑なんだけど……。


こっちのお兄さんはクリス様と同じ白金の髪に紫色の目をしていて、クールな雰囲気がどことなくクリス様に似ていた。

アホっぽい2番目のお兄さんと違って、こっちのお兄さんは落ち着きがあって賢そうだ。


あれっ、その後ろにはどこかで見たことのあるイケメンが2人いるな。

そのうちの1人は、私の視線に気が付くと、パチンとウインクをしてきた。


「あっ!」


サリヴァンナ先生の護衛で来た、顔採用の王都の騎士さん達かあ!

ロマーノとジョルジオだよね、ひさしぶりー!


唇の前に指を一本立ててシーってしてるな、はいはい、空気を読んで黙ります。

後でゲンキーナを差し入れしてあげるから待っててね!


「クリスティアーノ、怪我はないか?」


「は、はい……」


「うむ。無事でよかった」


クリス様のお兄さんは……、あー、もうどっちのお兄さんかややこしい!

アドリアーノ殿下は、まずはクリス様の無事を確かめると、次にファビアーノ殿下に視線を向けた。


「ファビアーノ。お前は……、自分が何に加担させられたのか分かっているのか? お前たちが魔法学院の寮を抜け出して不穏な動きをしているという報告を受けて、取るものもとりあえずこうして追いかけてきたのだ。このことはもちろん父上もご存知だぞ」


「兄上! 私はっ、兄上の立太子のためにと思ってっ!」


「馬鹿者! 普段から、お祖父様の口車に乗せられないよう気をつけろと注意していただろう。あの年になっても、お祖父様の権力欲は未だ衰える様子がない。父上も、私も、クリスティアーノが命を狙われることになるのではないかと危惧していたのだ」


えっ、あっ、そうだ!

クリス様は王位継承争いに巻き込まれることになるんだった。

ええっ、今がその時なのーーー!


「ですがっ! 兄上はもう19歳になられたというのに、クリスティアーノのせいでっ!」


「何を言う。正妃の子であるクリスティアーノが正当な後継者だ。私は、弟の命を奪ってまで王太子になろうとは思っていない」


アドリアーノ殿下!

クリス様の兄弟は仲が悪いのかと思っていたけど、上のお兄さんはいい人なんじゃない。


「そんな! 兄上が国王になるべきです! 兄上は誰よりも頭が良く、剣技に優れ、魔法使いとしての力も強い。その上、慈悲深く、誰よりも国民の幸せを願っている! ……そんな兄上がっ! 側妃の子だというだけで、なぜ立場を追われるような目に遭わなければならないのですかっ! 俺は、くやしい……っ!」


ファビアーノ殿下は、涙を浮かべながら地面をこぶしでドンと叩いた。


ファビアーノ殿下……、アホの子なのかと思ってたけど、ただお兄さんが大好きなだけなんだね……。


それなら、アドリアーノ殿下が国王になったらいいんじゃないかな!

適正には全く問題ないみたいだし、私も応援するよ!


アドリアーノ殿下はファビアーノ殿下の言葉に苦笑を浮かべると、今度はクリス様とお父様の方へ向き直った。


「クリスティアーノ、プリマヴェーラ辺境伯。ここでの出来事は、どうか内密にして貰えないだろうか。この事が公になれば、ファビアーノも罪に問われることになるだろう。ファビアーノは考えが浅いところもあるが、私にとっては大事な弟なのだ」


「……誰も怪我をしておりませんし、ファビアーノ兄上は暗殺計画を知らなかったようです。この2人組が襲い掛かってくるのを止めようとしていました。私も、公になることは望んでおりません」


まあ、ファビアーノ殿下も心底驚いていたしね。

あれを見れば殺す気がなかったのは一目瞭然だ。


「ありがとう……。プリマヴェーラ辺境伯は、どうだろうか?」


「はっ。ーー二度とこのようなことが起こらないよう、何か打つ手があるのでしょうか」


この場で一部始終を見ていた私たちと違って、お父様はまだ腸が煮えくり返っているような顔をしている。

誰も咎めを受けないようなことになるのでは、とても納得しそうもない。


「それはもちろんだ。今回の黒幕は、私たちの母上の実家だ。私たちの祖父であるインテンソ伯爵はひどく野心家で、自分の娘を踏み台にして子爵位からのし上がった人物なのだ。何としても自分の孫を王位に付けようと手を尽くすだろうとは予想していた。


ずっと警戒はしていたものの、なかなか証拠を掴めずにいたが、事ここに至ってはもはや伯爵も言い逃れは出来まい。何しろ生き証人を捕えているのだ。母上や私たちの存在があるから家の取り潰しまではできないが、伯爵は蟄居と代替わりを申し付けられることになるだろう。もちろんこの実行犯2人も父上の裁きを受ける」


「……娘を踏み台とは? 側妃様のことでしょうか?」


「子ども達の前で詳しくは説明出来ないが、私たちの祖父が策略を巡らせて、父上が責任を取らざるを得ない状況に追い込んだとだけ言っておこう。おかげで父上は正妃を娶る前に側妃を娶る羽目になり、子どものころから可愛がっていた正妃、クラウディア様の怒りを買うことになってしまった」


えーっ、子どもに言えない策略ってなになに!?

私にも分かるように詳しく説明してほしい!


でも、お父様とマルティーノおじさまは何かを察したようで、どんな策略だったのかそれ以上追求することはなかった。


アドリアーノ殿下は、クリス様の方を向いて言葉を続けた。


「父上は、インテンソ伯爵の目がお前に向かないように、あえてお前と距離を取るようにしていたのだ。お前を守るためにだ。父上がプリマヴェーラ辺境伯領へお前を送ったのも、病の流行に乗じてお前が殺される危険があると憂慮したためだ。父上も私も、王太子にはお前がなるべきだと思っているよ」


そうか、予防薬があるのになんでわざわざうちに来たのかと思ってたんだけど、病気からというより暗殺から逃れるために避難していたのか……。


クリス様は、家族と縁が薄いというか、あまり愛情をもらえていないように見えていたから、本当はそんなことはなかったってわかってなんだか安心したな。


どうせなら、クリス様のお父さんとお母さんも仲直りできたらいいのにね。

お父さんの方は仲良くしたいみたいだし……。


「アドリアーノ兄上、私は……、王位を継ぐつもりはありません。国王には兄上が相応しいと思っています」


「何を言う。まだ幼いお前には荷が重い話かもしれないが、国王になる正当な権利があるのはお前なのだ。インテンソ伯爵の策略がなければ、お前が第1王子だったのだからな」


アドリアーノ殿下はクリス様の両肩に手を置き、諭すようにそう言った。


「いいえ。荷が重いということではなく、私には叶えたい夢があるのです」


「夢?」


夢?

そんなのあったの?


「今はまだ私は子どもですが、結婚する10年後までには必ず実現させて見せます。私は自分の道を歩いて行くつもりですので、王国は兄上に継いでいただきたいのです」


「そうか……。本気なのだな? 私の一存で決められることではないが、お前がそういうつもりでいるのなら、私も父上とよく話し合ってみることにしよう」


「はい。よろしくお願いいたします。私からも父上に手紙を書きます」


あの……、クリス様の中では10年後に結婚するって決定してるの?

初めて聞いたよ。


クリス様の夢って、どんな夢なのかなあ?

まだ教えてくれるつもりはないみたいだけど、10年後が楽しみだね!






次回で子ども時代が終わります

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