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第62話 久しぶりの我が家


「一日で帰れるのか?」


「ハヤメールを飛ばして、あとを追います。くるときは道なりに飛んできましたけど、まっすぐ飛べばたぶん今日中につくとおもいます」


直線距離なら早く着くんじゃないかな。

休憩も最低限にして、ぶっ飛ばせばきっといける筈!


「そうか。早く帰れるなら俺もそうしたい。ヴァイオラもチェレスも心配しているだろうしな」


「俺も早くティーナの顔が見たいよ」


「じゃあ、はやく朝食をとってしゅっぱつしましょう!」


私たちは、スクランブルエッグと白身魚のムニエル、ロールパンと果物、そして紅茶の朝食を終えると、出発の支度を整えて宿を出た。




ダニエルに宿の近くにある空き地へ案内してもらうと、私はアイテム袋に仕舞っておいた2機のトブーンを取り出した。


休憩するたびに新しいハヤメールを出すのは無駄になっちゃうから、今日使うハヤメールには長い紐を付けて飛ばすことにする。


「ポチッとな!」


「ん? その紐は何だ?」


いつもと違うハヤメールに気付いたお父様が尋ねる。


「きゅうけいする時においていかれないように、ハヤメールにひもを結んでおきます」


凧揚げの要領で飛ばして、休憩するときは紐を手元に手繰り寄せて何回も使えるようにするのだ。


「なるほどな。ハヤメールはいろいろな使い方が出来るんだな」


「それから、これはマルティーノおじさまの分のけっかいのマントです。マーニがいるから、いらないかもしれませんけど……」


「ああ、助かるよ。姿が見えない方がいい。マルティーノ、このマントはーーー」


お父様が結界のマントを広げて、マルティーノおじさまに効果や裏表の説明をしている。


……その間中、マルティーノおじさまの肩に乗ったマーニが不服そうな顔でこっちにガン飛ばしてくるんですけど。

それは、自分の結界の方がすごいのに余計なもの渡しやがって的な視線なのかな?


「チェリーナ? 変な顔してどうしたんだ?」


マーニの視線の意味はちょっと分からなかったけど、ムッとしたから下唇を突き出した変顔でお返ししてたらお父様に見つかってしまった。


「じゅんびたいそうです! さあ、しゅっぱつしましょう!」


「準備体操って、顔をか? まあ何でもいいが、準備が出来たなら出発しよう」


「はい!」


私は手に持っていたハヤメールを飛ばすと、トブーンに乗り込んだ。

ハヤメールに付けた紐がトブーンのプロペラに巻き込まれないか少し不安だったけど、真上には行かずに前方を飛んでいるから絡まる心配はなさそうだ。


マーニはマルティーノおじさまの肩になんかいたら風で飛ばされちゃうんだからね!

ちゃんとシャツの中に入ったのかと思って後ろを振り向くと、マルティーノおじさまのマントの首元から顔を出しているマーニと目が合った。


向こうがフンという顔をしたので、こっちもブタ鼻でお返しをする。


「ブハッ! なんなんだよ、チェリーナ。笑わせるなよ!」


「ははっ」


マーニにお返しをしたつもりが、マルティーノおじさまとダニエルに笑われてしまった。

私はえへへと笑ってごまかして前を向く。


マーニっておじさんが好きで女の子が嫌いなのかもしれないな。

変わった趣味だよね。




その後は休憩を挟みつつトブーンを快調に飛ばしたが、プリマヴェーラ辺境伯領に入った辺りで、ついに日が落ちてしまった。


「ここまで来たのに時間切れか……。もうあとほんの少しなのに惜しいな」


無理に飛ぼうにも、もう間もなく真っ暗になってしまう。

ここまで薄暗くなってしまっては、ハヤメールが見えなくなるのも時間の問題だった。


「仕方がない。この辺りでいったん下りよう」


「はい……」


そうして私たちは、木々の間の狭い空き地にトブーンを下ろした。


だけど、ここまで来たら諦められないよ!

うーん、うーん、何かないかな。


懐中電灯でもあればなあ、でもあれって丸いし……。

いや、別にいびつでもいいかな、要は明るくなればいいんだし。


私はそう思い立つと、ペンタブを取り出して画面に丸を描いてみる。

あとは”強力ライト”と書いて終了。


「ポチッとな!」


ビカーーーーーーー!


「うわっ、なんだっ?」


「ま、まぶしい!」


地面に落ちた丸い物体からいきなり強力な光が放たれ、暗さに慣れていた目がチカチカする。

私は慌てて丸い物体を拾い上げると、手のひらで覆って光を隠そうとした。


「……あっ? ふぁっちぃーーーー!」


最初は気付かなかったけど、ずっと持ってたら熱い!

もー、なによ、これじゃただの裸電球じゃない!


熱さに耐えかねてポーンと放り投げると、丸い物体は地面に叩きつけられ、パリンと割れて光を消した。


「……今のは、チェリーナが魔法で出した光か? あれがあれば帰れそうだが、まぶし過ぎて目を開けていられないな。もう少し明るさを調節できないか?」


みんな今日中に帰りたいと思っていたらしく、期待のまなざしで私を見ている。

うん、ここまで来たら帰りたいよね。


「かいりょうしてみます」


あの熱さじゃとても素手でなんて持っていられないから、やっぱり懐中電灯みたいな持ち手が必要だな。


あ、そうだ。

別に丸にこだわることないじゃない。

定規を使って、四角いライトを描けばいいんだ。

車のライトだって四角いもんね!


よーし、四角なら出来る気がして来た。

ライト部分を描いて、持ち手を付けて、持ち手にはポッチを4つ付ける。


三段階の明るさ別のスイッチと、オフ用のスイッチの4つだ。

さっきは明るすぎたから、今度は強力の字は消して”ライト”だけにしておこうっと。


「できました! ーーポチッとな!」


私は地面から懐中電灯を拾い上げると、早速一番明るいスイッチを入れてみた。


ピカーーー!


うんうん、いいじゃない!

持ち手を付けたおかげで、光は前方だけに行くようになった。

これなら目が眩むこともないね。


「おお! これなら帰れるぞ! やったな!」


「やったー! かえりましょう!」


私はもう一つ懐中電灯を出すと、トブーンを操縦しないマルティーノおじさまに手渡した。


「はい、どうぞ! いちばん上がいちばん明るくて、下にいくごとにくらくなっていきます。いちばん下はけしたい時におしてください」


「どれどれ。ーーーほう、これは便利だ」


マルティーノおじさまはポチポチと明るさを変えながら、感心したように言った。


「おとうさま、はやくはやく!」


さあ、早くトブーンに乗って、一気にうちまで飛ばしましょう!

早くみんなに会いたい!


「ああ、行こう!」




私が魔法で懐中電灯を出してからそう時間が経たないうちに、遠くにマヴェーラと思われる街の明かりが見えて来た。


「おお、懐かしのマヴェーラの街が見えてきたな。もうすぐ着くぞ」


「はい! まだみんなおきてるかな?」


「ははは、まだ夕食を食べ終えたくらいの時間だろう。皆いつ戻るのかと首を長くして待っているだろうな」


私たち抜きでもう夕食終わっちゃったか。

久しぶりに一緒に食べたかったけど仕方ないね。


みんな私たちがどんな冒険をして来たのか、いろいろ話を聞きたがるだろうな。

今日は何を話してあげようかな!


私が本日のお土産話のチョイスに頭を捻っているうちに、いつの間にか屋敷がすぐ近くに見えるようになっていた。


私たちのトブーンの音に気付いたらしい誰かが、正面玄関の扉を開けている。


「おーい! おーい!」


黒いシルエットになっていてよく見えないけど、きっとセバスチャンだと思うな。

その後ろに小さなシルエットがわらわらと集まって来るのが見える。


あれはきっとお兄様たちだ!


「ただいまーーーーー!」





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