第6話 魔法の応用
隔離期間が残り4日となった頃、私は暇を持て余していた。
もうすっかり体は元気になったので、日がな一日ベッドで寝て過ごすなんて苦痛でしかない。
ああー、あり余るパワーを発散したいよー!
なんか小さい子どもって意味もなく走ってるよね?
また子どもになったことで、あの頃の走り出したい気持ちを再体験しています。
こっそり窓から出たら怒られるだろうなあ。
そのせいで誰かに病気をうつしちゃったら申し訳ないし……。
よし、こんな時はペンタブで暇つぶししようっと。
私、いいこと思いついたんだっ。
ずばり、箱に入ったものならイメージ次第で何でも出せるんじゃね?シリーズと、透明なものならイメージ次第で何でも出せるんじゃね?シリーズです!
例えば、ハワイのお土産の定番、箱入りのマカダミアナッツチョコとか。
姿が見えなくなるマントとか。
「あ~、夢がひろがるわ~。とりあえずチョコからいってみよう。絵本をそえて、線をひいてっと。箱にマカダミアナッツチョコって書いてー。あとは、チョコの絵だな。なんか、8みたいな形だったよね。しあげにちゃいろでペイントして。ーーーできた! せーの、ポチッとな!」
ぽすん。
私が欲張ったせいか、かなり大きめの箱がベッドの上に落ちて来た。
ちょっとこれ、Lサイズのピザの箱くらいの大きさだね?
こんなに食べたらニキビが出来ちゃう。
今はお肌に悪いものは我慢しないと……ッ!
くっ、チョコを出す前にニキビのことに気付くべきだった!
「しかたない……。こんどジルベルト先生がきた時に、みんなで食べてって言うしかないか……。いいもん、なおったら食べるもん」
お次は、透明シリーズ行ってみよう。
透明なマントがあればどこにでも忍び込めるし、泥棒にはうってつけのアイテムだね!
……盗まれないように気を付けないとな。
ただのシーツ状の布を出してみる?
それはさすがに着難いから、さっと羽織れるような簡単な作りのマントがいいかな。
フードも付けて。
目のところはメッシュ状になってて、着てる人からは見えるけど、相手からは見えない感じにしよう。
どこにあるか分からなくなると困るから、裏地を付けて、使ってないときは裏返して保管すればいいね。
うんうん、イメージはばっちり!
「せーの、ポチッとな!」
シーン……。
ーーあれ?
もしかして、イメージオンリーでどうにかなるっていうのは私の勘違い!?
たとえ透明なものでも、輪郭は描かないと出てこないのかもしれない。
よし、もう一度チャレンジだ!
「フード付きマントのりんかく……、こんなものかな? 目のところはメッシュになってて、めいさいがらの裏地がついてて……。よーし、とうめいなマント、カモン! せーの、ポチッとな!」
ふぁさっ……。
んっ!?
微かに音が聞こえた?
ベッドの上を手探りしてみると、思った通り布の感触があったっ!
見えない布があるー!
やった、やったあー!
私は早速ベッドから抜け出して、マントを羽織ってみることにした。
そして、鏡の前に立つ。
おおっ、消えてるっ!
「わーい、わーい! やったー! 消えてるー!」
興奮のあまり、その場でぴょんぴょん飛び跳ねると、思いのほか大きな音がドスンドスンと響いた。
ちょっと騒ぎすぎたかなと思っていると、廊下からこちらに近づいてくる足音が聞こえて来た。
「マルチェリーナ様、お加減はいかがですか?」
物音に気付いた先生が様子を見に来てくれたようだ。
「マ、マルチェリーナ様っ!? まさか、部屋を抜け出してどこかに遊びに? 大変だ! この領地でも病気が流行してしまう!」
部屋の中をぐるりと見回して、私の姿がないことに気付いた先生は、あっという間に顔色を失ってしまった。
「ジ、ジルベルト先生! チェリーナは部屋にいます! どうか、しんぱいしないでください」
「えっ!? マルチェリーナ様? マルチェリーナ様! どこかに隠れていらっしゃるのですか?」
先生はそう言いながら、ベッドの下を覗き込んだ。
ああっ、先生!
ベッドの下にはおまるがあるんです、見ないでー!!
「ジルベルト先生、チェリーナはここです! 鏡の前にいます」
「えっ……」
鏡の前に視線を移しても、先生には私の姿は見えていない。
先生は困惑しながら、そろそろと鏡の前に近づいてきた。
私はマントのフードを取ると、先生に顔が見えるようにした。
「わあっ!?」
先生は、突然現れた顔に驚いて、尻もちをついてしまった。
「ジルベルト先生、だいじょうぶですかっ!? おどろかせてごめんない。魔法ですがたが消えるマントをつくってみたので、ためしていたところなのです」
「す、姿が消えるっ!? そんなことが出来るとは信じられない……ッ! マルチェリーナ様、あなた様はもしや魔法の天才なのではっ!?」
いやあ。
それほどでもー、あるかな?
うはははは、もっと褒めてくれたまえー!
「王都の魔法学院に通う日が待ちきれませんね! 卒業する頃にはどれ程の使い手になられていることか。いや、先が楽しみですね」
うん?
魔法学院ですか?
いえ、私は前世で十分勉強しましたので、もう勉強は不要なんです。
「ジルベルト先生、チェリーナは王都へいくつもりはありません。このプリマヴェーラ領ですごしたいのです」
将来はお兄様の領地経営のお手伝いをしたり、魔法で出した品を売ったりして暮らしますので。
ペンタブ魔法があれば一生安泰ですよ、はっはっは!
「しかし、魔力のある者は、身分を問わず15歳になったら魔法学院に入学する決まりです。たとえ辺境伯令嬢であっても、これには従わねばなりません」
「えっ……?」
強制ですか?
私の意思は、人権は無視なんですか?
目に見えて萎れてしまった私を慰めるように、先生は優しく頭を撫でてくれた。
「私も通いましたが、魔法学院は面白いですよ。様々な体験ができましたし、たくさんの友人にも恵まれました。マルチェリーナ様も、きっとたくさんのお友達ができますよ」
友達かあ。
そうですね、友達はいた方がいいかもしれません。
商売方面でも人脈がものを言うしね!
先生、了解です!
私がぱあっと表情を明るくしたのを確認すると、先生は頷いてそっと部屋を後にした。
さて、次は何を作ろうかな。
箱入りシリーズよりも、透明シリーズの方が難しかったから、透明シリーズの方を練習してみよう。
「とうめい…、とうめい……。うーん、ガラスとか? コップとか? でも、われものは失敗するとかたづけがめんどうだし……。あっ、つり糸、テグスっていうんだっけ? テグスであみを作って魚をとろう!」
テグスで地引網的なものを作れば、大量に魚とれるんじゃない?
水に入ったら全く見えないだろうし、魚もきっと騙されるよ。
いやでも、地引網って最低二人はいないと引けないよね。
やっぱり投網に変更だ。
「丸いテグス製のあみで~、ふちにとうめいの重りがついてて~、あみのまんなかに太いなわじょうの持ち手がついてる感じ!」
私はペンを握ってイメージしながら、ペンタブにたくさんの線を引いていった。
……どこかに定規って売ってるのかな?
いつまでも絵本が定規替わりじゃ不便だし、細かいところが描けないよ。
よし、こんなもんでどうだ!
「せーの、ポチッとな!」
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