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第58話 予期せぬ招待


「ええっ……、女性ばかりで入り難そうだぞ……」


「だいじょうぶです!」


何なら私が買ってきてあげるから、お父様は外で待っててくれてもいいし。

私が渋るお父様の腕をぐいぐい引っ張っていくと、そこは思った通り可愛らしいお菓子屋さんだった。


「わあー、おいしそう! あっ、いろんなジャムもある! おみやげによさそう!」


いろんな種類のベリージャムやレモンカード、イチジクのジャム、サクランボのジャムなど、うちの領では珍しいジャムがたくさん置いてある。

小さなビンに入った色とりどりのジャムはお土産にぴったりだ。


私はたくさんの女性客の間をすり抜けて、店の奥へと入って行った。


「チェリーナ! ちょっと待て!」


呼び止められてお父様のところへ戻ると、お父様に大銀貨や銀貨を数枚手渡された。


「俺はとてもこの中に入れない。外で待ってるから、これで好きなものを買って来い」


お父様はまだ1軒目だというのに早くもギブアップのようだ。

ちょっと早すぎなんじゃないかな。


私は一人でまた店の中に戻ると、女性客たちがこぞって買う品物があることに気が付いた。

見た目は普通のクッキーみたいだけど、なんでそんなに売れてるんだろう?


「おや、見かけない顔だけど、一人で買い物に来たのかい? うちはこの焼き菓子が有名なんだよ。木の実を粉にしたものと小麦粉で作られててね、ちょっと味見してみるかい?」


私がじーっと焼き菓子を見ていることに気が付いた店のおばさんが、味見をしてみろと言ってクッキーを一かけ手渡してくれた。


「ありがとう! ーーーうわあ、おいしいっ!」


よくある硬めのクッキーとは違って、口の中に入れるとホロホロと崩れるような食感で、アーモンドのような香ばしさがある。

これもお土産にいいね!


「すみません、このおかしを10ふくろと、あっちのジャムをぜんぶ一つずつください!」


「えっ……! 子どもがそんなにお金を持って歩いてるのかい? 悪い人もいるから気をつけなよ」


気の良いおばさんはジャムを揃えながら心配そうに私に忠告してくれた。


「だいじょうぶです、大人といっしょですから! ほらあそこ!」


私はそう言って、窓越しに見える人一倍大きなお父様を指さした。


「ああ! あの用心棒がいればどんな悪党も裸足で逃げ出すだろうね!」


おばさんはアッハッハと陽気に笑ってそう言うと、お金を受け取りおつりを返してくれた。

用心棒か、お父様のイメージにぴったりな言葉だな!


私は受け取ったジャムをアイテム袋に入れて、クッキーが入った大きな袋を手に持つと、おばさんにお礼を言って店を出た。


「おとうさま! このやきがし、すごくおいしいですよ。一つどうぞ!」


「どれどれ。ーーうん、美味いな。ホロホロ崩れて不思議な食感だ」


「木の実のこなをつかってつくると言ってました」


「へえー。もう一つ」


私はお父様にもう一枚クッキーを渡すと、残りはさっさとアイテム袋に仕舞った。

持ち歩いてると食べつくされちゃいそうだからね。


「少し食べたら腹が減ってきたな。そろそろ港を見に行ってみるか」


そろそろって、ついさっき宿を出たばかりなのに。


「今なんじですか?」


「あと30分ほどで昼になる時間だ」


……すごい、お父様の腹時計はかなり正確に時を知らせてくれるんだな。

そろそろお昼の時間なら、もう港に向かってもいいかもしれない。


「じゃあ、行きましょう!」


私はお父様の手を取って歩き出した。


「チェリーナ、張り切ってるところ悪いが、港は逆の方向……」


「あっ、おじさまだ! マルティーノおじさまー!」


私は床屋と思われる店から出て来たマルティーノおじさまを見つけると、ブンブン手を振って名前を呼んだ。


「おお、ちょうどよかった」


「おじさま、わかくなりました!」


髭を剃って髪を整え、さっぱりとしたマルティーノおじさまは、20代後半くらいに見えた。

最初に見た時は35くらいに見えたのは内緒にしておこう。


「はは、ありがとう。そろそろ昼になるし、港へ行こうか」


「はい!」


港に近づくにつれて、だんだん食欲をそそる良い匂いが漂ってきた。

魚や貝が焼ける匂いだ。

ああー、お醤油があればなあ。


港に着くと、朝にはなかった屋台が10軒ほど並んでいた。

お昼時だけ営業してるのかもしれないね。


くんくんくん……、どこからか、パンが焼けるような匂いとチーズが溶ける匂いがしている。


「あっ! あそこだ!」


私は匂いの元を突き止めると、お父様の手をぱっと放して駆けだした。


「こら、こんな人が多いところで走るなよ」


お父様が後ろで何かを言っているけど、屋台の商品に目を奪われている私の耳には届かなかった。


「あああーーーー! こ、これっ!」


「どうしたんだ? そんなに大声を出して」


「これっ! 食べたいです!」


まさか、こんなところで会えるとは!

鉄板の上にパンのような小麦粉の生地を薄くのばして表面にトマトソースを塗り、別に調理した魚介類や野菜を彩りよく乗せて、さらにその上にチーズを乗せてとろりと溶けるまで焼く。


まさしくシーフードピザではありませんか!?

これは是非とも食さねばなるまい!


「ははは、元気な嬢ちゃんだな! うちの魚介チーズ焼きは美味いって評判なんだ」


「ほう、では3つ頼む」


「あいよ! 3つで銅貨6枚だ」


銅貨1枚は100円くらいだから、3つで600円か。

食べ物はお手頃価格だね。


屋台のおじさんは、大きな貝殻に熱々のピザを乗せて手渡してくれた。

この店は貝殻がお皿代わりなんだね。

これはかなり大きいけど、ホタテの殻かな?


ふと隣の屋台を見ると、隣の屋台は魚介串焼きの屋台だった。

ロブスターみたいな大きい海老があるー!

あれも絶対食べたい!


「ハフハフ、おいしい! おとうさま、次はとなりのあれが食べたいです」


「アチチ、おお、隣の屋台も美味そうだ。どれもうちでは食べられないものばかりだな」


「おみやげにたくさん買ってかえりましょう!」


「ああ、それがいい」


食べ歩きって楽しいな!

私は自分達が食べる分と平行してお土産用の食べ物も少しずつ購入し、こっそりアイテム袋に仕舞っていった。

本当なら大人買いをしたいところだけど、他にもお客さんが大勢いて迷惑になっちゃうから少しで我慢だ。


「あれ?」


私はロブスターを食べ終えて、次のホタテの串焼きにかぶりつこうとして、ハタと気が付いた。

ホタテが減ってないか?

串には3つのホタテが刺さっていたのに、いま見たら2つになっている。

変だな、気が付かないうちにどこかに落としたのかな?




ふうー。

久しぶりの海の幸に興奮して少し食べ過ぎた。

おなかがポンポコリンになっちゃったよ……。


お父様たちもお腹をさすりながら、宿に戻って一休みしようと話し合っている。

うん、昼寝がいいんじゃないかな。


私たちが宿へと足を踏み入れると、待ちかねたように近寄ってくる男の人がいた。


「失礼いたします。プリマヴェーラ辺境伯様でお間違いないでしょうか。私はアゴスト伯爵の使いの者です」


ええ……、いまアゴスト伯爵の使いって言った?

仲良くもない貴族の使いなんて……、嫌な予感しかないよね。

お父様、とりあえず人違いですって言ってみたら?


「プリマヴェーラ辺境伯だが、何用だ?」


「はい。プリマヴェーラ辺境伯様がアゴスト伯爵領を来訪中との噂を耳にしまして、我が主が是非とも当家へお招きしたいと申しております。もしよろしければ、今夜の夕食をご一緒にいかがでしょうか?」


「ありがたい申し出だが、あいにく明日の早朝ここを発つ予定でな。夜遅くなるのは都合が悪いのだ」


お父様も関わりたくないらしく、やんわりと断りを入れている。

そうそう、どんな厄介ごとがあるか分からないし、断った方がいいですよ。


「左様でございますか。それでしたら、午後のお茶をご一緒にいかがでしょうか? 短い時間でも結構ですので、是非」


こ、断りにくいな……。


「実は、私たちは貴族家を訪ねられるような服を持参していないのだ。悪いが今回は遠慮させてもらいたい」


「我が主は服装など気にいたしません。そのままで何も問題ございませんので、どうか足をお運びいただけませんでしょうか?」


「そこまで言うのなら……、お茶をご馳走になろう」


そうなりますよね……。

ここまで引く気がないってことは、何か話があるんでしょうね。

面倒なことにならないといいけど……。





銭貨1枚=10円

銅貨1枚(銭貨10枚)=100円

銀貨1枚(銅貨10枚)=1,000円

大銀貨1枚(銀貨10枚)=10,000円 

金貨1枚(大銀貨10枚)=100,000円 


※庶民が使うのは銭貨、銅貨、銀貨がほとんどです。

※大銀貨、金貨の使用は店側のお釣りの都合で断られることがあります。銀貨1枚分の商品しか買わないのに、金貨で支払うということはできません。

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