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第5話 治療の効果


一晩経って、先生が私の様子を見に来てくれた。

手には朝食のトレイを持っている。


「マルチェリーナ様、おはようございます。今日は少し朝食を召し上がってみてください。ここ一週間ほどは、果汁やスープくらいしか口にしていなかったのですから、あまりたくさんは召し上がらないでくださいね」


えー、結構お腹ぺこぺこなんですけど……。

がっつりお肉とか食べたい気分です。

私は体を起こしながら先生に挨拶をした。


「ジルベルト先生、おはようございます。チェリーナはとてもお腹が空いているのですが、たくさん食べてはいけないのですか?」


「急にたくさん食べてはご気分が悪くなるかもしれません。徐々に量を増やしていくのがよろしいでしょう。今日一日様子を見て、問題がないようでしたら、明日からは通常通り召し上がっていただいて結構ですよ」


先生はそう言って、サイドテーブルに朝食を置くと、シャッとカーテンを開け放った。

明るい朝の光が部屋に差し込んできて、目にまぶしい。


朝食のトレイには、野菜の切れ端が浮かんだ薄そうなスープに、一口大にカットした果物、それに薄く切ったパンが一切れ乗っている。


ええー、ちょっとコレはあんまりじゃないですかあ?

これじゃあ治るものも治らないですぜ。

もっと栄養があるものをください!


「ーーーごちそうさまでした」


ほんの2分で食べ終わると、トレイを膝の上からサイドテーブルに戻した。

診察の準備をしていた先生が驚いて顔を上げた。


「えっ、もうお済みですか? そんなに早く召し上がられてはお腹がびっくりしてしまいますよ」


先生、私のお腹はそんな柔じゃありません。

自慢じゃないけど、めったにお腹壊さない体質なんで大丈夫です。

前世でも、賞味期限切れのもの食べてもお腹壊したことないんですよ?


「ジルベルト先生、もっと……お肉とかないんでしょうか?」


「お、お肉ですか。ははは、それだけ食欲があるなら、昼食から通常食に戻しましょう」


先生は苦笑いしながらも、私の食欲を優先してくれた。

よかった、これで飢え死には免れた!

ありがとう、先生~。




「それでは、治療の具合を見てみましょう。お顔のらっぷを剥がしますよ」


「はい、お願いします」


ドキドキドキ、期待に胸が高鳴ります!


「こっ、これはっ!? なんということだ!」


えっ、いい意味で? 悪い意味で?

どっちですかー!?


「ジ、ジルベルト先生っ! どうなさったのですか?」


「ーーーかっ、顔が! 顔がー! 大変だあーーーーー!」


先生はそう叫ぶと、ドタバタと部屋を走り出てしまった。


顔が大変って……。

まさか、失敗だったの!?

悪化してるとか、ないよね……、ないよねっ!?




バタバタと大勢の走る音が近づいて来たと思ったら、勢いよくバタンと扉が壁に打ち付けられた。

お父様、力の加減をしてくれないと、そろそろ扉が壊れてしまいます。


「チェリーナ!」


朝からうるさい……。


「おとうさま……。」


扉口の方に顔を向けると、集まった人たちからおおっというどよめきが起こった。


「治ったと言うのは本当だったのかっ! おお、チェリーナ! 顔をよく見せておくれ!」


「チェリーナ、本当によかったわ! 女の子の顔に病気の痕が残ってしまうなんてと、とても心配していたのよ……。ううっ……」


「チェリーナ! チェリーナのかわいい顔が元に戻ってよかったよおーーー! うう、うわーーん!」


家族が抱き合って涙ながらに喜んでいる。

え、治ったんですか!?


「マルチェリーナ様、さあ手鏡をどうぞ! さすがはご神託による新しい治療法です! これほどの効果があるとは、この目で見なければとても信じられなかったでしょう!」


先生から手鏡を受け取ると、私はふーっと深呼吸をしてから鏡を覗き込んだ。

鏡の中から、真っ赤な髪に大きな琥珀色の目をした女の子が、不安そうな顔で見返してくる。


昨日はあれほど腫れ上がっていた肌は、いまは驚くほど腫れが引き、ところどころに出来ていた潰瘍もすっかり治っている。

ただ、皮膚が真新しいせいなのか、通常の肌色とは違ってピンク色をしていた。


これならば、日がたてば色味はだんだん落ち着いていくだろうと思われた。


「あ……、なおって……っ! チェリーナの顔がなおっています! ううっ……」


嬉しさのあまり、私の目に見る見るうちに涙が盛り上がって来た。


「マルチェリーナ様。涙が肌にしみるかもしれませんので、肌に付かないようにお気をつけください」


先生はポケットからハンカチを取り出すと、そっと涙を拭ってくれた。


「いや、それにしても、一晩でこれほどの効果があるとは! お体の方はいかがでしょうか。失礼して腕を見させていただいても?」


「あっ、はい。どうぞ、ごらんになってください」


私はそう言うと、夜着の袖をまくり上げた。

先生は私の腕を取ると、ぺりぺりと丁寧にラップを剥がしていった。


「おや? 腕の方の治りはそれほどでもありませんね。お顔は劇的によくなられたのになぜでしょう?」


先生は首を傾げる。

そうだ、顔だけ新しいラップの『強力治癒効果付き!スグニナオールEX』に張り替えたこと言ってなかったっけ。


「ジルベルト先生、じつはあの後、ラップにちゆこうかをふよしたら治りが早くなるかもしれないと思いついて、顔だけ新しいラップにはりかえたのです。あちらの鏡の前においてあるものが新しいラップです」


「す、素晴らしい! プリマヴェーラ辺境伯様、治癒効果を付与するなど、誰にでも出来ることではありません! やはりマルチェリーナ様は聖女様なのではないでしょうか?」


先生は信じられないものを見るような目で私を見ると、お父様にマルチェリーナ聖女説を唱えた。

ちょっと、勝手なこと言わないでください!

そういうの、ほんと間に合ってるんで!


「お、俺の娘が……聖女……。木に登っては落ち、川に行っては流される、俺の娘が……」


ちょっと、お父様!

人聞きの悪いことをつぶやかないでください。

お母様やお兄様まで、あんぐりと口を開けたまま微動だにしません。

ーーーそんなに意外だった!?


そうだ、クリス様も驚いてるだろうから、この隙に婚約を解消しちゃおうっと。

クリス様も責任とる必要がなくなって、ほっとしているだろう。


「クリス様、ごらんのとおり、チェリーナの病気のあとはとてもよくなりました。これならば、クリス様にもらっていただかなくてもだいじょうぶだと思います。ごあんしんして、こんやくをはきーーー」


言い切らないうちにクリス様が言葉をかぶせて来た。


「病気が治ってもブスは治っていない! お前を貰うやつはいないから婚約は破棄しないぞ! ありがたく思え! フンッ!」


ちょっとー、そんな言い草ってあるっ!?

私のどこがブスなのよ!

これでも将来は、お母様の遺伝子の奮闘により美人になる予定なんだからね!


そっちこそ、その性格じゃ結婚してくれる相手がいないっつーの!

バーカ、バーカ!





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