表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/180

第49話 真夜中の襲撃


じりじりと間を詰める足音に気付いたダニエルが飛び起きて剣を構え、寝ているお父様を起こそうと声を張り上げた。


「チェ、チェーザレ様っ! 起きてください!」


「しっ。騒ぐな。チェリーナが起きるだろ」


「し、しかし!」


勢いを失くしたたき火の向こうに、呑気なことを言うお父様に困惑するダニエルの顔が見える。

お父様、こんな状況になったら私だってさすがに起きるよ!


「お、おとうさま……」


「ああ、起きたのか? 大丈夫だ。寝てていいぞ」


ええーっ、いくらなんでも寝にくいわ!

それでもお父様は、ジタバタともがく私を抱え込んだまま、まだ横になっていて体を起こそうともしない。


ガサガサガサッ!


その時、一匹の狼が茂みの中から躍り出て、私たちに飛びかかって来た。


「ファイアーアロー」


お父様は狼を見据えると、短く詠唱した。


ギャンッ!


忽然と現れた炎の矢に貫かれた狼は、悲鳴をあげて倒れ込んだ。

そのままピクリとも動かないところを見ると、どうやら絶命したようだった。


ザザザッ……、ガサガサガサガサッ!


そうしている間にも、狼が恐ろしい唸り声を上げながら絶え間なく襲い掛かってくる。


「ファイアーアロー、ファイアーアロー、ファイアーアロー」


お父様が詠唱を繰り返すと、詠唱の数だけ炎の矢が現れ、次々と狼を絶命させていった。


シーン……


あっという間に戦闘が終わり、場が再び静寂に包まれた。

すべての狼が死んだのか、生き残りは逃げたのか分からなかったけど、とりあえず襲撃は撃退出来たようだ。


「す、すごい……。狼を一瞬でこんなに……」


ダニエルはお父様の魔法に驚いて固まっている。


「ダニエル、死体を茂みの向こうにでも寄せておいてくれ。チェリーナが見たら怖がるからな」


「は、はいっ! 承知しました!」


活躍の機会がなかったダニエルは、慌てて狼の死体を片付けに行った。


「おとうさま……」


「大丈夫だぞ、もう狼はいなくなったからな。寝ろ寝ろ」


お父様は、そう言ってポンポンと私の背中をたたいた。

襲ってくる狼に寝ころんだまま対応するなんて、お父様ってちょっと肝が据わり過ぎじゃないかな!?


まったく、どんな度胸なんだろうか。

心臓に毛が生えてるってこういう人のことを言うんだよね、きっと。


私はお父様と違ってデリケートだから、狼に襲われたばかりなのに、そんな簡単に、寝られ……そうも……ぐう。




「チェリーナ、朝だぞ。起きろ」


ハッ!

お父様の声が下から聞こえる?


驚いて目を開けると、私はお父様の体の上に乗りあげてうつぶせになって寝ていた。

まるで親亀の上に子亀が乗ってる状態だ。


「ククッ、チェリーナの寝相はものすごいな? よく人の体の上に乗って熟睡できるものだ。ある意味感心するよ」


ええー、私が自分で乗ったの?

きっとお父様が寝てる間に私を抱き上げたんじゃないかな。


「おとうさまが、チェリーナをのせたんじゃないですか?」


「違うぞ。枕がないから腕枕をしてやろうと思って頭の下に腕を回したら、お前がよじ登って来たんだよ」


あーっ、やっぱり思った通りお父様のせいだった!

そんなに太い腕で腕枕なんてされたら、首が疲れて安眠できないもん。


平らな場所を求めてよじ登る羽目になったんだな……。

……ふわあ、そんなことより、まだ眠い……。


「あっ、こら。寝るな。もう起きるぞ」


お父様はそう言って、私を乗せたままガバリと身を起こした。

いきなり起きたら振り落とされちゃうよー!


「きゃあー! おちるうー!」


私がお父様にしがみついてきゃあきゃあ言っていると、ダニエルが微笑ましそうにこちらを見ていた。


「ふふふ、チェーザレ様の子煩悩ぶりは噂以上ですね」


「噂?」


「はい。チェーザレ様の子煩悩は王国一だと、先輩たちが口を揃えて言っていました」


うちの騎士たちが噂してたんなら、きっと子煩悩じゃなくて親バカって言ったに違いないな。


「ははは。まあ、大事な子ども達だからな。いつまでも子どものままでいてほしいくらいだよ」


「それほどですか。私などは兄弟が多いので、早く大人になって働いてくれと親に言われたものですよ」


この国では、15歳から大人と同じように仕事をするようになる。

魔法学院に進学する人は18歳からだけど、魔力のある人はほんの一部だから、ほとんどの人は15歳から働くことになるのだ。


「ダニエルは何人兄弟なんだ?」


「6人兄弟です。私が一番上で、一番下の弟は8歳です」


「わあ! チェリーナとおなじ!」


そんなに小さい兄弟がいたんだね。

ダニエルは子だくさんの家の長男だから面倒見がいいんだな。


「帰りに、実家に顔を出す時間をやろう。港町に1泊してもいいしな。家族を安心させてやるといい」


「いえ、そんな! 私のことはどうかお気になさらず」


ダニエルは焦ったように顔の前でせわしなく手を振っている。


「いいんだよ。さすがに宿に1泊もしないでとんぼ返りするのは、体がきついからな」


「はい。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


そうそう、お言葉に甘えた方がいいよ!


さてと、朝ごはんは何にしようかな?

朝からお弁当は重いから、軽めにサンドイッチにしてみよう。

私的にはおにぎりでもいいけど、お父様たちには海苔が不気味かもしれないからね。




朝食を終え出発の準備を整えているうちに、遅ればせながら寝床にしたクッションが大きすぎてトブーンで運べないことに気が付いた。


「残念だが、これはここに置いていくしかないか……」


「素晴らしい寝心地なのに、本当に残念です……」


お父様もダニエルも、しょんぼりしながらクッションを見下ろしている。

サイズを大きくして出したから厚みがすごくて、これじゃあ畳むことも出来ないしなあ。


ファンタジーによくある、アイテムボックス的なものがあれば持って帰れるのに……。


「ーーーん? もしかして、作れる?」


私はそう思いつくと、早速定規を取り出してペンタブに絵を描き始めた。


ポシェットくらい小さくてもいいんだけど、それじゃあお父様が使う時に絵面がシュールすぎるから、やっぱりショルダーバッグタイプがいいかな。


「おい、チェリーナどうしたんだ?」


ちょっと待っててください。

ええと、バッグの収納量は、私の部屋と同じくらいあればいいかな。

12畳分くらいあれば十分だよね?

それから、中に入れたものは腐らないように、入れた時の状態のまま保存されるようにしよう。


私はショルダーバッグの絵を描き終えると、"12畳分なんでも入るアイテム袋 時間経過なしタイプ"と書いた。

はあー、肩ひもの曲線が難しかったー。


「せーの、ポチッとな! できましたー!」


「何が出来たんだ? カバンか?」


「なんでも入る魔法のカバンです! このクッションを入れてみますね」


私がカバンをクッションに近づけると、カバンよりも何倍も大きなクッションはすうっとカバンに吸い込まれた。


「はっ? クッションはどこへ行った!?」


お父様とダニエルは、カバンに入ったとは思わなかったようで、辺りをキョロキョロと見回している。


「このカバンの中に入れました。クッションをつかう時にまた出せますよ」


私はそう言うと、カバンに入れたクッションを取り出して見せた。


「おおっ、何だこれは! こんなことが出来るとは信じられない!」


アイテムボックスはあまり一般的じゃないのかな?


「こういうカバンはないのですか?」


「そういえば、過去にいた創造魔法の大魔法使いが、いくつもの不思議な品を遺したと聞いたことがあるな。もしかしたらその中に同じようなものがあるのかもしれない。しかし、それらは王家の宝物庫に厳重に保管されているから、目にしたことはないな」


へえー、そんな大げさな感じなんだ。

それじゃあ、あまり大っぴらに使わない方がいいのかもしれないね。

いま履いているブーツに合うように、色は焦げ茶にしたから目立たないとは思うけど。


「チェリーナの魔法は本当にすごいな。俺の娘がこれほどの使い手になるとは、俺も鼻が高いよ」


えへへ、褒められちゃった!


それじゃあ、クッションも回収出来たことだし、港町目指して今日も張り切っていきましょう!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ