第46話 マルティーノおじさまの捜し方
突然大声を出した私に、みんなは一斉に驚いた顔を向けた。
「どうしたんだ? 急に大声を出して。何かいい魔法でも思いついたのか?」
「はい! おじさまをさがすのに、まえに出した魔法具がつかえます!」
「どの魔法具だ?」
「ハヤメールです! おとうさまたちをカレンの元へつれていってくれました!」
カレンデュラ拉致事件の時のハヤメールの活躍を思い出した面々から、おおっという歓声があがった。
みんな忘れてたでしょ?
思い出した私えらい!
「そうだったな! ハヤメールの後を追って行ったらカレンデュラが見つかったんだ。今度もハヤメールをマルティーノの元へ飛ばして後を追えばいいのか! これはすごい、あっという間に見つけられそうな気がしてきたぞ!」
「そうね! きっと見つかるわ」
さっきまでの特攻隊の出陣さながらの悲壮さとは打って変わって、お父様とお母様は声を弾ませ和気あいあいとした雰囲気になった。
命がけの大仕事から、ハヤメールを追いかけるだけの簡単なお仕事に早変わりだもんね!
わはは、楽勝、楽勝~。
「そうと決まれば、早速明日にでも出発しよう! チェリーナ、大丈夫か?」
「はい!」
「お父様、ここからハヤメールを飛ばすのですか?」
お兄様が尋ねる。
「いや、アゴスト伯爵領までは馬車で1週間はかかる距離だ。ここからハヤメールを飛ばしたのでは、夜になれば見失ってしまうだろう。だから、港町まではいつも通りトブーンで飛んで、港町に着いてからハヤメールを飛ばすのがいいと思うんだ。港町から遭難地点までは、トブーンならばおそらく1日以内に着ける筈だからな」
てっきりここからハヤメールを飛ばして付いて行くのかと思ってたけど、言われてみれば日の高いうちに着けるような距離じゃなかった。
見失ったらまた別のハヤメールを出せばいいんだけど、無駄にするのももったいないし、私もお父様の案に賛成です!
「あなた、アゴスト伯爵領方面はあまりお詳しくないのでは? ダニエルなら道順や途中の街のこともよく分かっているでしょうし、案内を付けてはいかがでしょうか?」
「そうだな。いくらトブーンでもさすがに1日で港町までは着けないだろうから、途中で1泊しなくてはならないだろう。俺だけなら野宿でも構わないが、チェリーナが一緒なら宿に泊まらないとな。確かに案内があると助かる」
野宿ですとっ!?
わあ、キャンプだキャンプだ!
お父様がいればバーベキューもキャンプファイヤーもあっという間に出来るし、楽しみだな!
「おとうさま! チェリーナはのじゅくをしてみたいです!」
「……なんでそんなに目を輝かせてるんだ? 野宿なんて何もいいことないぞ? ごつごつした地面に直に横になるから体が痛くなるし、あちこち虫に刺される。蛇や獣が出てくることもあるしな」
「だいじょうぶですよ、けっかいのマントがあります! たべ物ものみ物も水だって出せますし、ベッドのかわりは何かかんがえます!」
火消しくんスーパーをお湯が出るように改良すればシャワーも浴びれるよ!
ベッドの代わりは、ヨガマットとか、エアマットがよさそうだな。
エアマットはちょっとかさばりすぎるから、ヨガマットがいいかもしれない。
お父様たちが遠征する時にも、ヨガマットがあれば重宝しそうだ。
「まあ、早く行けるに越したことはないから、チェリーナがいいと言うなら俺は野宿でも構わない。だが、やはりダニエルには付いてきてもらうことにしよう。マルティーノが見つかった時、自分でトブーンを操縦できないほど衰弱している可能性もあるし、それに……、ニーナが亡くなったことを知れば、ニーナの墓を訪れたいと言うだろうから……」
お父様は目を伏せてそう言った。
そうだ、マルティーノおじさまは、まだ奥さんが亡くなったことを知らないんだ。
お祖父様と同じように、自分がいない間に奥さんが死んでしまうなんて……。
それを伝えなくてはならないお父様も辛いだろうな……。
「はい……」
「それじゃあ俺は、ちょっと兵舎に行ってダニエルと話をしてくる。チェリーナは明日に備えて早く寝てくれ」
お父様はそう言うと、席を立って食堂を出て行った。
「おい。言っても無駄だろうが、あまり危険なことはするなよ」
一応心配してくれているのか、クリス様が私に話しかけてきた。
「だいじょうぶです! 安全だいいちです!」
「本当にその言葉の意味を分かっているのか疑問だ。早く帰って来て俺たちと一緒に勉強しろ」
ええー、そんなこと言われたら向こうでゆっくりしたくなっちゃうな。
「ティーナのことをおねがいします! たまには遊んであげてください」
「ティーナのことは僕たちがちゃんと面倒見るから大丈夫だよ」
よかった。
クリス様はあまり面倒見がいいタイプではないけど、お兄様は優しいから安心だ。
アルベルティーニ商会にでも連れていけば、年の近いアルベルトが遊んでくれるだろうしね。
ふとサリヴァンナ先生の方を見ると、今まで口を閉ざしていたサリヴァンナ先生が縋るような眼差しで私を見ていることに気が付いた。
ええと、なにやら深刻そうですね?
「チェリーナ……。どうか、どうか無事に帰ってきてちょうだい。あなたたちの無事を、心から祈っています……」
えっ、はい……、それはどうも。
私はサリヴァンナ先生の様子を不思議に思いながら、早く寝るために食堂を後にした。
翌朝、まだ外が暗いうちにカーラが部屋にやって来た。
「お嬢様、起きてください。今日はアゴスト伯爵領へ出発する日ですよ。旦那様はもう朝食を済ませましたよ」
うう……、ねむい……。
ゆさゆさと容赦なく揺さぶるカーラを、薄目を開けて見た。
カーラたちっていつもこんなに早く起きてるのかな?
働くって大変なんだな。
やっぱり私は、黄金を作り出して、一生遊んで暮らす……ほうが……、ぐう……。
「お嬢様!」
「はひ……」
わかりましたよ。
布団を引っぺがされてしまっては、もう起きるしかない。
今日カーラが用意してくれた着替えは、お兄様が小さい頃に着ていた服だった。
ヒラヒラがたくさんついた白いブラウスに、紺色のズボン、そして足元は茶色のブーツだ。
「旦那様が、今日はお坊ちゃまのお召し物を着てくるようにとおおせです。ドレスは長旅にも野宿にも向かないそうですわ。少しでも女の子らしい物をと思って、ブラウスだけは可愛らしいものにしましたが……」
私が普段着ている服は、ドレスとは言っても膝下くらいの長さのワンピースだけど、露出部分が少ない方が虫に刺されたり怪我をしないで済むもんね。
「わあー、ズボンなんてひさしぶりだなあ!」
どうせならジャージとかの方が、楽だし動きやすくてよかったけど。
これでもドレスよりはだいぶマシだ。
「えっ、お嫌ではありませんか? 以前にも着たことありましたっけ……?」
あるあるー。
前世では、パジャマとかジャージとかデニムとか、毎日何かしら着てたよ!
全然抵抗感はないので心配しないでください。
「いやじゃないよ! ドレスよりらくでいいよ!」
私が手早くパパッと着替えると、カーラは目を丸くしていた。
「お嬢様、ずいぶん着慣れていらっしゃいますね。男の子の服もよくお似合いで可愛らしいですわ」
「えへへー」
そしてカーラは私を鏡の前に座らせると、着ている服に合うように紺色のリボンで髪を一つに纏めてくれた。
うん、我ながら似合ってる!
「おはようございます!」
私が食堂へ入っていくと、お母様とサリヴァンナ先生が待っていてくれた。
お兄様とクリス様はまだ寝ているみたいだ。
こんな時間じゃ、起こされないと起きられないもんね。
「おはよう、チェリーナ。そういう服も似合うのね、可愛いわ」
「あら、本当。似合うわよ。チェレスの服でごめんなさいね。帰ってきたらチェリーナにも乗馬服を作りましょうか」
前世と違って、こちらでは女物のズボンといえば乗馬服しかない。
馬に乗る予定はないけど、せっかくだからトブーン服として活用させてもらうとするか。
「今日はチェリーナの好物を用意したからたくさん食べてね」
「わあ! チーズのオムレツだ!」
うちの料理人が作ってくれる、ふんわりトロトロのチーズインオムレツは本当に絶品なのだ。
薄切りのパンに乗せていただきます!
ああー、おいしーい。
今日はいい日になる気がするな!




