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第38話 陣中見舞いの品


お父様に結界のマントの防御効果を認めてもらえたので、前線で戦う騎士や冒険者たちのために100着ほど用意することになった。

火消しくんスーパーを改良したフライング火消しくんスーパーは、とりあえず30個くらいでいいかな。


「おとうさま、ほかにも何かひつようなものはありますか?」


「そうだな、魔術師が空から攻撃できるように、トブーンをもう20機出してもらおうかな。エスタの街から冒険者を緊急招集したんだ」


へえー、冒険者ってどの人だろう?

フォルトゥーナ王国の危機だもんね、有名な人も来てるかもしれない!

私が冒険者を探してクルクル回っていると、お父様が笑いながら言った。


「くくっ、そんなに回ったら目を回すぞ。冒険者は中庭にはいないんだ。それぞれの配置についてもらってるからな。魔術師たちは砦の屋上や見張り台にいて、魔法を使わない冒険者たちは跳ね橋付近にいるぞ」


ええー、エクスカリバーを持った勇者とか、大剣を背負った冒険者とか、ビキニアーマーはここにはいないの?

見たかったのに残念だな。


「そうなんですか。えーと、トブーンはこの中庭に出していいのですか?」


「ああ、20機分くらいの余裕はあるだろう」


中庭には中央にポツンと井戸があるくらいで、お父様の言うように空きスペースがたくさんあった。

これくらいの広さがあれば、30機でも置けそうだね。


でも、ずっと野ざらしじゃ、そのうち錆びちゃうかもしれないな。

もうちょっと絵が上手くなったら、自転車置き場ならぬトブーン置き場を出してあげるからね。


東京ドームみたいな、屋根が開閉できるのがいいんじゃない?

楽しみにしててね!


「ーーーポチッとな!」


ズシーン!


今回はペンタブを低い位置にして出したから、衝撃音はそれほどでもなかったけど、それでも20機ともなるとそれなりに重い音が響いた。


そうだ、結界のレンガのこともお勧めしてみようっと!


「おとうさま! けっかいのレンガも出せますよ! エスタンゴロとりでを建て替えれば、むてきのとりでになりますよ!」


「お、おう。砦の建て替えな。チェリーナ、すぐそこまで魔物が来てるから、建て替える時間はないんだ。その話はまた今度な」


お父様は面食らったような顔をしながら、なだめるように私の頭にポンと手をのせた。

やっぱり今は建て替えるタイミングじゃなかったみたいだ。

取り込み中だもんね。


「ーーーそうだ。チェリーナ、今から建て替えるのは難しいが、跳ね橋を覆うくらいの大きさの布を出して、そこに結界効果を付与出来ないか? エスタンゴロ砦の一番の弱点は跳ね橋なんだ。門の内側に鉄格子があるとはいえ、橋自体はただの木だからな。過去の戦いでも、そこから侵入されているんだ」


おおー、なるほどっ!

布なら簡単に出せるし、エスタンゴロ砦を建て替えなくても結界効果を付与できる。

さすが私のお父様、頭いいなあ!


どういう布にしよう?

カーテンみたいにシャッと開け閉めできたら便利だけど、カーテンレールがないんだよね。

ドレープも必要ないし、舞台みたいなどんちょうにしてみようかな。


うん、なんかイメージできそう!


「おとうさま、はね橋につれて行ってください。見てみないと大きさがわかりません」


「そうだな。跳ね橋はこっちだ。ヴァイオラは日当たりのいいところで待っててくれ」


「ええ、わかったわ」


布でなるべく水気を拭ったとはいえ、お母様のドレスはまだ乾くには程遠い状態だ。

あのままで1時間もトブーンに乗ったら風邪引いちゃうかも……。

ドライヤーでも出せたらいいんだけどな。


そんなことを考えながらお父様に付いて砦の回廊を抜けると、目の前に大きな木の扉のようなものが見えて来た。


「チェリーナ、あれが跳ね橋だ。今は橋があげられてるから、木の扉にしか見えないかもしれないな」


わあ、結構大きいな。

幅は3メートルくらいで、高さも見えてるところは3メートルくらいだけど、反対側から見たらもっと長いのかもしれない。


「おとうさま、そと側じゃなくて、うち側に布をかけるのですか?」


「ん? ああ、守れるなら橋も守れた方がいいな。外側にしてくれるか」


橋の外側に掛けるとなると、反対側が見えないと困る。

どこか見える場所はないのかな。


私はいいポジションを探すために付近をぐるりと見回し、跳ね橋上部の石造りの部分を人が通行していることに気が付いた。


あそこからどんちょうを下せばいいんじゃない?


「おとうさま、あの上につれて行ってください! あそこから布をたらします」


「ああ、そうだな。あの通路なら布を垂らすのにちょうどいいだろう」


お父様に連れられて階段を上り、跳ね橋上部にたどり着くと、私は縦長の小窓から顔を出して下を覗いた。

思った通り、反対側から見ると橋の長さは5メートルくらいはありそうだった。


えーっと、3メートル×5メートルを覆うとなると、余裕を持って4メートル×6メートルの布でいいか。

まず長さ4メートルの棒を芯にして、それに6メートルの長さの布を垂らしてと。


いや、変にめくれたら結界効果が落ちるかもしれないから、棒は上下につけたほうがいいかな。

それから、上の棒の両端には2か所ロープの輪っかを付けて、小窓の淵にある飾り石の出っ張りに引っかけられるようにしよう。


うん、ベースはこれでよしと!

私は最後に、布の部分に大きく"超強力! 神結界どんちょう"と書いた。

色は砦の色となじむように薄いグレーにしたよ!


「ーーーポチッとな! おとうさま、できましたー!」


やった、やった……、あれっ?


「おとうさま、これどうやってそと側に出しますか?」


どんちょうを出したはいいけど、通路一杯に布がわさわさと広がってしまった。

これをどうやって小窓から出すの?


「俺もそう思った……。まず布を芯に巻き付けて、小窓から外に出すしかないんじゃないか? まあいいよ、誰か手の空いている若い者にやらせるとしよう」


「はい」



ズバアアアアッ!


ギャンッ!


私たちが階段を下りようとしたところで、外から戦闘の音が聞こえて来た。

空き地に現れた魔獣に、誰かが攻撃魔法を放ったようだ。


私が思わず小窓から外を覗こうとすると、お父様の大きな手に目隠しされてしまった。


「子どもがこんなもの見るんじゃない。もうすぐ戦闘が激しくなるだろうから、チェリーナはお母様と一緒にすぐに屋敷に戻りなさい」


「はい……」


私たちが中庭に戻ると、お父様の部下の騎士が一人バタバタと慌てて近寄ってきた。


「チェーザレ様! 魔物の大群が目視できる距離まで近づいてきました! 間もなく到着いたします!」


「わかった。跳ね橋の上の通路に結界の布が置いてある。急いで外に出して跳ね橋を覆うように吊るしてくれ」


「はっ」


知らせにきた騎士は、近くにいた若い兵士を連れて跳ね橋の上へと向かった。


「ヴァイオラ、もうすぐ戦闘が始まる。チェリーナを連れて屋敷に戻ってくれ」


「わかりました。ご武運をお祈りいたします。後のことはお任せください」


お母様はきりりと表情を引き締め、気丈にそう言った。


「おとうさま、がんばってください」


お父様は頷いてお母様と私を抱き寄せると、小さく微笑んで言った。


「砦は必ず守りきる。お前たちも気を付けて戻れよ」


「はい」


これから恐ろしい魔物と戦うお父様のことが心配で涙が出そう……。

でも、ここで泣いて心配をかける訳にはいかない。


なんとか笑顔を作ってお父様に別れを告げると、私たちはトブーンの方へと歩き出した。

トブーンに乗り込んでシートベルトを着けようとしていると、後ろからおーいと呼び止める声がした。


振り向くと、お父様の隣に並んだユリウスが期待の眼差しでこっちを見ているのが目に入った。

なに、ユリウスのあの顔。


「チェリーナ! せっかくだから、ゲンキーナも出して行ってくれ! 魔力を回復できると助かる。ついでに、おべんとーとワインも頼む!」


あーっ、ユリウスめ、さてはお父様にワイン飲みたいって耳打ちしたね?

まったく、ちゃっかりしたおっちゃんだ!

こんな時によくワインのことなんか思いつくな。


それでも言われたとおり、ゲンキーナ、お弁当、赤ワイン、白ワインを大量に出してあげたよ。

前回のワインの味を憶えていたらしい砦の騎士たちは、ワインを見たとたん俄然やる気が出たみたいだった。


無言の圧力に負けてワインを多めにしてあげたから、みんながんばってね。



お父様も、騎士たちも、冒険者たちも、どうか怪我をしませんように。

私はそっと心の中で祈った。





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