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第37話 危機一髪


迫りくる魔獣の激しい足音と息遣いが聞こえてきて鳥肌が立つ。


こんな時だというのに、私は例のゲームのチェレスティーノを思い出していた。

チェレスティーノの母親は、魔物に殺されてしまうのだ……。


ああ、もうダメなんだ!

私はこれから目の前で起こるだろうことを直視できず、思わずぎゅっと目をつむった。



ヒュンヒュンッ……、ドスドスドスッ!


諦めかけたその時、立て続けに風を切る鋭い音が聞こえた。


ギャオオオオオオオオオオーーー!


魔獣の絶叫と共に、熱気と肉が焼けるようなにおいが漂ってくる。


私が目をつむったままでいると、体当たりするような勢いで抱き上げられてトブーンに乗せられた。

シートベルトをつける間もなく、トブーンはそのまま急上昇する。


私がそっと目を開くと、隣にはハアハアと荒く息をつくお母様の姿があった。

恐る恐る下に目をやると、炎に包まれながらなおうごめく魔獣が見えた。


「お、おかあさまっ! ううっ……、うあーーーー!」


お母様は無事だった!

私はそのことに安堵して、お母様にしがみついて泣き出した。


「……チェリーナ、お父様がファイアーランスで助けてくれたわ。もう……、だ、だいじょう……ぶ……、ううっ……」


よく見るとお母様もガタガタと震えていた。

お母様だって魔獣と戦ったことなんてない筈だ、恐ろしかったに違いない。

私たちは身を寄せ合って、必死にエスタンゴロ砦へと向かった。


砦の中庭にトブーンを着地させると、見張り台の外階段を駆け下りてくるお父様が見えた。

砦の騎士たちも私たちの方へわらわらと集まってきた。


「ヴァイオラ! チェリーナ! 大丈夫かっ? どうしてこんなところに来たんだ!?」


「おとうさまっ! まほうぐっ……、ごめっ、ごめんなさ……、うわーーーーん!」


「あなたっ! ううっ……」


お父様は私たちを抱えてトブーンから下ろすと、落ち着かせるためしっかりと抱きしめてくれた。

しばらくそのままにしていてくれたが、私たちの涙が止まるのを待って尋問を再開した。


「ーーそれで、チェリーナが勝手にエスタンゴロ砦に来てしまって、ヴァイオラが慌てて追いかけて来たということなのか?」


「そうよ。何度止まってと言っても全然聞いてくれなくて、さっきはもうダメかと思ったわ……ううっ……」


魔獣と対峙した恐怖が蘇ったのか、お母様はまた涙が溢れてきたようだった。


「……チェリーナ」


地を這うようなお父様の声がした。

ゴゴゴゴゴゴゴ……という効果音が幻聴で聞こえるほどのド迫力です。


「ハ、ハイッ」


「どうして勝手にこんなことをしたんだ!? 自分の過ちのせいで、自分だけじゃなく、お母様まで殺してしまうことになっても構わないのか? 見張り役の兵士がたまたまお前達を見つけたから運よく助けられたが、援護が間に合わなかったかもしれないんだぞ!」


お母様をこんな危険な目に合わせるつもりはなかった。

お父様を助けたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃったの……。

私は自分自身に失望して、いったん止まった涙がまたこみ上げてきた。


「ごめんなさい……。まほっ、魔法具を、おとうさまに、とどけたくてっ……」


お父様はハアーと大きなため息をつくと頭を抱えてしまった。


「魔物の大群がそこまできてるというのに、自分からわざわざ魔の森に入る子どもがどこにいる!? うちの子はどうしてこんなに無謀なんだ! いったい誰に似てこうなった!?」


お母様と周りの騎士たちの視線が一斉にお父様に集中した。

お父様はみんなのもの言いたげな視線に気付いたのか、ゴホンと咳払いをすると私の方に向き直った。


「ーーとりあえず今は魔物退治が先だ。それで、どんな魔法具を思いついたんだ?」


「はい。けっかいのマントと、この、ひけしくんスーパーです!」


「ひけしくんすーぱー?」


お父様は、名前から魔法具の効果を想像できなかったようで首を傾げた。


「こうやって使います!」


私はずっと握り締めたままだった火消しくんスーパーを掲げると、ポチッとスイッチを入れた。

すると、手に持ったままプロペラがひゅんひゅんと回り始め、水がぶわっと撒き散らされた。


シャアアアアアアアアア……


「きゃっ!」


「うわっ!」


水がシャーシャーと音を立てて、お父様とお母様をびしょびしょに濡らしていた。

もちろん火消しくんスーパーを手に持つ私もずぶ濡れだ。


やってしまった……。

せめて、お父様とお母様から離れて水を出すべきだった。

このままじゃ、また怒られるに決まっている。

そうだっ、怒られる前に結界マントで挽回しよう!


私は火消しくんスーパーを止めると、ペンタブを出して地面に座り込んだ。

マントの絵もミエナインを使いまわすから簡単にできる。

私はミエナインにデカデカと、"超強力! 神結界マント"と書いた。

うん、分かりやすい。


「ーーーポチッとな! おとうさま、これがけっかいのマントです!」


さあ、どうぞ!

存分に褒めてください!


「チェリーナ……。お父様とお母様にいきなり水をぶっかけて一言もなしか?」


「ご、ごめんなさい……。おとうさまの火魔法でかじにならないようにと思って……」


ははは、やっぱり誤魔化すのは無理でした。

お父様とお母様は、周りの人が差し出してくれた布で顔を拭っている。


「はー……。まあ、これは助かるよ。だが、トブーンと同じようにリモコンで操作できるように改良できないか? これでは使うたびにびしょ濡れになってしまうからな」


お父様はそう言いながら、手にした布で私の顔も拭ってくれた。


「はい! おまかせください!」


なるほど、リモコンね!

確かにそれなら濡れなくてすむし、整地した場所に予め仕込んでおく必要もなくなる。

グッドアイデアです、お父様。


「それから、結界のマントというのは何なんだ?」


「これです! ちょうきょうりょくです!」


神結界ですから、これ以上はないというくらいの結界ですよ!


「……説明になってないが、攻撃を防ぐマントという意味でいいんだな?」 


「そうです、たぶん!」


知らんけど。


「たぶんってお前……、どれくらいの防御力があるんだ?」


ええー、そんなの分かんないよ。

お父様、何でもかんでも人に聞くのってどうかと思います。

自分で調べることも大切ですよ?


「使ってみればわかります!」


「……そうかよ……」


お父様は私の手から結界のマントを受け取った。


「これはミエナインじゃないのか? 姿が見えなくなるマントだろう?」


「そうです! ミエナインにけっかいこうかを追加しました!」


「それはすごいな。早速試してみるか。おい、誰か俺に攻撃してみてくれ」


お父様はさっとマントを羽織ると、近くにいた騎士たちに声をかけた。


「では、自分が!」


ユリウスが名乗りをあげて、腰の剣に手をかけた。

鞘からスラリと剣を抜く。


「おい、殺す気か。いきなり真剣で切りかかるなよ。とりあえず鞘に入れたままで叩いてみてくれ」


ユリウスは頷いて、鞘に入れたままの剣で上段に構えた。


「おい。全力で殴るなよ?」


「わかってますってー!」


本当にわかってるのかと思うような結構な勢いでユリウスは剣を振り下ろした。


ガツン!


振り下ろされる剣に反射的に腕を盾にしたお父様だったが、剣はお父様に当たる前に結界によって阻まれた。


「おっ!? 本当に当たらないな?」


「そうですよ! かみけっかいですから!」


「神結界? それはすごい名前だな。神に守られているとはなんとも心強い」


えへへ、褒められちゃった。

やっぱり、私が来て大正解だったね!





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