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第36話 追いかけっこ


みんなが必死に引き止める声を振り切って、私は魔の森を目指してトブーンを進めた。

早くお父様のところへ行かないと!


「おとうさま、まっててね!」


早く行って、お父様が思い切り火魔法を使える環境を整えなければ。

あの広大な魔の森が全て焼け落ちるなんてことになったら大変だもん。

何人死人が出るかわからないよ。


マヴェーラの街の上空を抜けてしばらく飛んでいると、遠くにエスタンゴロ砦が見えてきた。


「ふー、けっこう遠いなあー。あとなん分でつくのかなあ?」


あそこでこれから、戦いが起こるんだ。

もしかすると、もう既に始まっているのかもしれない。


お父様のことを考えると、私は気がはやるのを抑え切れなかった。


「もっとスピード出ないのかな……」


ただ座っていたのでは時間がもったいない。

向こうに着くまでに、他にも戦いに役立つものを出せないか考えよう。


お兄様の案をもらって、ミエナインを改良した結界のマントを出してみようかな。

たとえ結界の範囲が小さくても、命を守れるのは大きいと思うし。


結界……、素晴らしくいい案なのにな。

広範囲を守れるように、どうにか出来たらいいのに。

やっぱりお父様に相談して、エスタンゴロ砦を建て替えてもらうしか……。

うちにそんなお金あるのかな?


一人で頭を悩ませているうちに、エスタンゴロ砦がだんだん近づいてきた。


「だいぶ近づいてきた。もうちょっとだ!」


あともう少しと思ったところで、私は後ろから微かに人の声が聞こえることに気が付いた。


「ーーーリーナ! チェリーナッ!」


くるりと振り向いて後ろを確かめると、そこにはトブーンの第1号機を猛スピードで操るお母様の姿があった。


「お? おかあさまっ!?」


えーっ、びっくり。

なんでお母様が?


あれって一番最初に出した小型のやつだよね?

なにあのスピード。

ぐんぐん追いあげてきて驚きの早さなんですけど。


小型も大型もスピードは同じだと思ってたのに、どうしてなんだろう?


「止まりなさいッ!」


ひいッ!

とんでもなく怒ってる!

今まででダントツの怒りっぷりだ、間違いない。


これは捕まったらお父様に会わせてもらえず、とんぼ返りでお仕置きコースだよ……。

せっかくここまで来たのに、そんなの嫌だ!

いまは何としても逃げ切らなくては。


「おかあさまー! おとうさまにあったら、すぐにかえりますー!」


「ダメよッ! 今すぐ戻りなさい! テイルウィンド!」


お母様はそう言うと、ますますスピードをあげた。

あーっ、風魔法を使ってトブーンを加速しているんだ!

ずっるーい!


このままじゃすぐに追いつかれちゃうよ。

どうしよう……。

私が後ろを向いたまま考え込んでいると、お母様が焦ったような声をあげた。


「ーーーぶつかる! チェリーナ、前を見て!」


ん?

うおっ、危ない!

エスタンゴロ砦の石壁が目の前じゃない。


私は慌ててリモコンを操作してトブーンを上昇させた。


ふいー、危うくぶつかる所だったよ。

余所見運転は危険だ。


でも、ぶつかるのは何とか避けられたけど、勢いあまってエスタンゴロ砦を通り過ぎて魔の森に入ってきちゃったよ。

ふと下に視線を落とすと、前回来た時にはなかった空き地が目に入った。


「あ、あそこを切りひらいたんだ。わあ、けっこう広いなあ」


幅200メートル、奥行き100メートルくらいかな?

前回は気付かなかったけど、よく見るとエスタンゴロ砦と魔の森の間には深い空堀がほってある。


いまは跳ね橋があげられ通行できないようになっているけど、普段は跳ね橋を下ろして行き来しているようだ。

おお、なかなか考えてるじゃない。


あの整地した場所にぐるりとスプリンクラーを取り付ければ、消火の観点からもばっちりだね!

よーし、あそこに下りようっと。


「チェリーナッ! 下りちゃダメ! お母様の言うことを聞いて!」


私がトブーンを下降させていると、後ろからお母様の悲鳴のような声が聞こえた。

でも……、下りないとスプリンクラーを取り付けられないし。


「おかあさま、すぐにおわります!」


チャッチャと終わらせるからね!

私はトブーンを着地させ、座席に座ったままペンタブを出してスプリンクラーを描きはじめた。

といっても、ハヤメールの絵をちょこっと改良するだけだから簡単なのだ。


プロペラの文字を消して、代わりに"強力散水パワー! 火消しくんスーパー 火魔法にも対応"と書いた。


それからプロペラの両端に散水用の小さな穴をポツポツと描いて、手紙をくくり付ける輪っかの部分を消した。

軸のてっぺんにはポッチをつけてスイッチにする。


わはは、楽勝楽勝。

ちょっと穴がいびつだけど、そこは気にしない方針だ。


「できたっ、ポチッとな!」


私が言い終わると同時に火消しくんスーパーが空中に現れ、草の上にポスンと落ちた。

私はトブーンからぴょんと飛び下りると、かがんでそれを拾い上げる。


「やったー!」


ザッ……ザッ……ザッ……


草を踏み分ける音が聞こえて後ろを振り向くと、少し離れたところで立ち止まったお母様が、怒りのオーラを漲らせながら仁王立ちしているのが見えた。


こ、こわ……。

お母様の後ろにドス黒いモヤが渦巻いている気がする。

あれが魔素かな?


「チェリーナ! どうしてよりによって魔の森に下りるの!? お父様はエスタンゴロ砦にいるでしょ!」


えへへ。

いやあ、よそ見してたら通り過ぎちゃいまして。


「おかあさま! みてください! これがあれば、おとうさまがおもいきり火魔法をつかえますよ!」


「チェリーナ! 早くトブーンに乗って、エスタンゴロ砦に入って!」


「でも、せっかくきたから、この魔法具をここに……」



ガサッ、ガサガサガサッ!


その時、突然そばの茂みがガサガサと激しく音を立て始めた。

驚いて言葉を切り音のしたほうを凝視すると、20メートルほど離れた木々の間から熊型の魔獣がのそりと現れた。


あ、あれが、魔獣……。

こげ茶色の体毛に覆われた小山のような体は、ゆうに3メートルはありそうだった。


普通の熊さえ見たことがない私には、信じられないくらいの巨大さに思える。

それに、真っ赤に染まった瞳、涎を垂れ流す大きな口は、尋常ではない狂気を感じさせた。


魔獣は私たちの存在に気が付くと、威嚇するように二本足で立ち上がり、勢いよく両腕を振り上げた。


グオオオオオオオオオオーーー!


魔獣は、ビリビリと空気が振動するような恐ろしい咆哮をあげた。


「ヒッ……」


私は、2階にまで届きそうなほどの体躯と、耳をつんざく咆哮に威圧され、その場から動けなくなっていた。

明確な殺意を持った鋭い目に睨み付けられ、ガクガクと足が震えて言葉を発することすらできなかった。


「チェリーナッ! ウィンドカッター!」


お母様が魔獣に向けて風魔法を放った。

魔獣は切り付けてくる風の刃に体勢を崩したものの、その強靭な体に傷を負わせるにはとても至らない。


「早く、早くトブーンに乗りなさい!」


お母様が懸命に走ってきて、守るように私の前に立ちはだかった。


「あ……、あ……」


逃げなければ、殺される。

そう分かっていても、私の足は縫いとめられたように動かない。


グオオオオオオオオオオーーー!


風魔法があたった事で怒り狂った魔獣が、四つ足になってドドドと地響きを立てながら私たちに向かって突進してきた。



「おかあさまッ! きゃあああああああっ!」





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