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第34話 街の噂


あれからお父様は毎日魔の森へ出かけている。

エスタンゴロ砦前の魔の森を切り開いて、火魔法で戦闘しやすいように整地するためだ。


とっさについた私の嘘からこんな大事になってしまっただけでなく、お父様がお爺様を思う気持ちをもてあそぶようなことになってしまった。

その事実が、鉛のように重く私の胸にのしかかっていた。


せめて何か、お父様が喜ぶようなことをしてあげられたら……。


「チェリーナ、最近元気がないけどどうしたの?」


お兄様が私に尋ねる。

お父様に悪いことをしてしまって落ち込んでいます……とはとても言えない。


「おとうさまが、まいにち魔の森へでかけるので、あまり会えないなと思っていただけです……」


「ああ、朝早くから出かけるから、夕食の時に少し話すくらいしかできないものね……。僕も寂しいよ」


「……ふーん。毎日顔を見て話をしているのに、それでも寂しいのか」


私とお兄様がハアとため息をついていると、クリス様はきょとんとした顔で聞いてきた。

まあ、クリス様はもう長いこと両親の顔を見ていないからね、私たちよりクリス様の方が寂しいでしょうけど。


「チェリーナはさびしいです」


「僕もすごく寂しいです」


「ふーん。じゃあ、今日はアルベルティーニ商会に遊びに行くか? 大勢で遊べば少しは気が紛れるだろう」


おおっ、クリス様が人の気持ちを考えて、なおかつ慰めようとしている!?

わがまま王子も、だんだん人として成長するんだなあ。

うんうん、お姉さんは嬉しいよ。


それでは、せっかく提案してくれたんだし、みんなで遊びに行きますか!


「はい! アルフォンソとアルベルトのところへ行きましょう!」


そうして私たちは、3人でアルベルティーニ商会へと向かうことにした。

3人と言っても、いつものようにクリス様の後ろには護衛騎士が付いてくるけどね。




「アルフォンソー! アルベルトー! あーそーびーまーしょー!」


私たちは例のごとく、アポなしでアルベルティーニ商会の店先に突撃した。


「おや、チェレスティーノ様、マルチェリーナ様、いらっしゃいませ」


今日はアルフォンソたちのお父さんのアルベリオさんが出迎えてくれた。

アルフォンソたちと同じ明るい茶色のくせっ毛で、エメラルドみたいな緑色の目をしている。

ここの兄妹は二人ともお父さん似なのだ。


「こんにちは!」


「はい、こんにちは。マルチェリーナ様がお元気になられて何よりです。そういえば、この前フィオーレ伯爵領へ仕入れに行ったときに聞いた話なのですが、アルジェント侯爵領に聖女様がお出ましになられたそうですよ」


へえー、聖女様なんて本当にいるんだ?

それなら、別に私たちが行かなくてもよかったのかもしれないな。


「わあー、チェリーナもせいじょさまに会ってみたいなー。どんな人なんですか?」


「まだほんの小さな子どもだそうですよ。子どもながら、病気の人々を次々と癒していかれたそうです。マルチェリーナ様のご病気はもうよくなられていますので、プリマヴェーラ辺境伯領までは足を延ばしていただけないとは思いますが」


「子どもなんですか?」


ふーん、ずいぶん働き者の子どもがいるんだねえ。


「ええ。お顔はベールに隠されていたそうで、見た者はいないと聞きました。なんでも、軍神のようにたくましい高位神官と二人だけで各地を回られているそうで、病気の人々を癒し、飢えた人々には食べ物を与える慈悲深い方だと大評判になっています。アルジェント侯爵領では、ベールの聖女と呼ばれているそうですよ」


ん?

最近アルジェント侯爵領に現れた、軍神のような高位神官と一緒の、ベールで顔を隠した小さな子ども?

なんか、どこかで聞いたことがあるような……。


「それって……」


「それは……」


お兄様とクリス様が何か言いたげにこちらを見ている。


んんっ!?

ま、まさか、私のことじゃないよね?

私、「ベールの聖女です、どうも」なんて名乗ってませんけど!?


「クリス様、チェレス様、チェリーナ! ひさしぶり!」


「みんなであそびにいこー!」


私が内心あたふたしていると、アルフォンソとアルベルトが裏庭の方からやって来た。

店の誰かが裏庭に呼びに行ってくれたみたいだ。


「う、うん。小川のそばであそぼう……」


私がベールの聖女と呼ばれているなんて知らなかったな。

悪い噂じゃないし、正体が私ってばれても別にいいとは思うけど……。


でも、本当は聖女じゃないって分かってるのに、聖女説を否定しなかったら詐欺になっちゃうのかな?

まさか、神殿から私を捕まえに来たりしないよね!?


ちょっと怖いけど、人の噂も75日って言うし、噂が消えるまで大人しくしておくしかないか……。




小川の傍までやってくると、私たちは車座になって座り込んだ。


「それでは、だい2回、しんへいきかいはつかいぎをかいさいします!」


「しんへいきー?」


「第2回なんだ」


そうです、第2回目です。

トブーンを開発したときが1回目ですよ。


「前回はすばらしいあんが出ましたので、2回目もはりきってかんがえましょう! たくさんの魔物をやっつけるほうほうとか、山火事をけすほうほうを大ぼしゅう中です!」


「消火の魔法具はまだ諦めてなかったのか」


諦めません、出すまでは!


「おとし穴はー?」


アルベルト、誰が穴を掘るの?

すでに木を切ってもらってるのに、この上穴を掘ってくれとはとても言い出せないよ。


「毒薬はどうだ? 一度に大量に殺せるぞ」


クリス様……。

10歳の子どもが毒薬で大量虐殺とか……、闇が深い感じです。

まさか、すでに毒殺されそうになった経験ありとかじゃないですよね?


「うーん……、おとし穴はほるのが大変だし、魔物をころせるほどのどくだと、そのばにいる人間にもわるいえいきょうがありそうです」


私の出した毒薬で、間違って人が死んじゃったら大変だよ。

なかなかいいアイデアが浮かばないなあ。


「毒がダメなら、動物が嫌いな匂いをさせるとかは? 猫はオレンジが嫌いだから、オレンジのそばに近づいてこないよ?」


アルフォンソの言う、猫が柑橘系の匂いが嫌いだっていうのは私も聞いたことあるけど……。

魔獣に効くかどうかわからないし、どんな匂いが嫌いなのかわからないよ。


「そうだ。そばに来ないと言えば、結界をはれる魔術師がいるって聞いたことあるよ。魔物が入ってこれないようにするのが一番いいよね。それなら戦わなくて済むから」


おお、お兄様!

結界はいいかもしれない!


ーーでも、結界ってどうやってペンタブで描くの!?

マントに結界の効果を付与するとかならできるかもしれないけど、エスタンゴロ砦にどう結界を張るのかまったく思いつかないよ。


あっ、結界の効果を付与したレンガを大量に出して、エスタンゴロ砦を建替えてもらうとか?

でも、そんなの私が勝手に決められることじゃないし、何年かかるかわからない。


目の付け所は素晴らしいものがあったけど、残念ながら今の私の実力では結界の案は却下せざるを得ないな……。




その日の夕食の席では、お父様が整地計画の進捗状況を話してくれた。

斧の魔法具のおかげでかなり伐採が進んだようだ。


でも、背の高い草も生い茂っているから、延焼を防ぐためにはそれも刈り取らないといけないらしくて、まだまだ手がかかるようだった。


「チェリーナ、トブーンなんだが、あと10機程用意できるか? エスタンゴロ砦で何かあったときにすぐに駆けつけられるように、屋敷にいくつか用意しておいた方がいいと思ってな」


「わかりました。ゆうしょくが終わったらトブーンをよういします」


「ああ、頼むよ。どうも嫌な予感がしてならないんだ」


お父様、それは確実に気のせいかと……。

ううう……、罪悪感がいや増すばかりだ……。





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