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第27話 10年前の事件


クリス様の爆弾発言によるダメージで行く気が失せたのか、今日はエスタンゴロ砦には行かないらしい。


私が疲れてるだろうからとお父様は言っていたけど、お父様の方がずっと疲れているように見えるよ。

まあ、主に気疲れなんだろうけど。


エスタンゴロ砦は話には聞いていたけど、実際に行くのは今回が初めてだ。

マヴェーラの街から遠いし、魔の森の近くは危ないからと言って今まで連れて行ってもらえなかったんだよね。


お兄様も行きたそうな顔をしてソワソワしていたから、きっとそのうち行きたいって言い出すと思うな。

さっきは、おねだりするにはタイミングが悪かったから言い出さなかったけどね。


そうするとクリス様も行くって言い出すんじゃない?

あー、お父様がまた頭を抱えそう。

わがままな子どもに振り回されて大変だなあ。


でも大丈夫、私がびしっと言って守ってあげるからね!

さてと、お腹もいっぱいになったし、外に遊びに行こうっと。


「おい。どこへ行く」


私が玄関扉へ手をかけると、後ろからクリス様の声がした。


「外へあそびに行きます。クリス様もいっしょに行きますか?」


「行ってやってもいい」


まったく。

一緒に遊びたいから、そうやって待ってたんでしょー?

素直に行きたいと言えない病気なのかな。


「では行きましょう!」


「何をする気だ」


「おとうさまのお役にたてる魔法をかんがえます!」


私は片腕をあげて、ぐっと力を入れて力こぶを作る真似をした。


「ふーん。……お前は、本当に父親が好きなんだな」


え、当たり前じゃない?


「そうですよ? それがどうかしましたか?」


「……別に。プリマヴェーラ辺境伯のような父親なら、好きなのは当たり前だな……」


クリス様、もしかして。

お父様のことが好きなのかな?


ああ!

だから私と婚約するって言ったんだね、そしたら大好きなお父様のそばにいられるから!


お父様は、このド田舎のどこが気に入ったのか分からないって言ってたけど、まさかのお父様目当てだったとはねえ。


「クリス様がそんなにおとうさまのことをお好きだったなんて。ごじぶんのおとうさまだと思って、あまえていいんですよ!」


「え……。何でそうなった。プリマヴェーラ辺境伯のことを好きだとは一言も言っていない」


えー、言ってなかった?

でも大体そういう意味でしょ。

実の子の私に気を使ってるのかな?


「えんりょしないでください!」


「いや、遠慮はしていない」


ふうん?

私が首をかしげていたせいか、クリス様は言葉をつづけた。


「俺はただ……、世の中には仲のいい親子もいるんだなと思っただけだ。俺は、父上や母上とは、ほとんど顔を合わせることがないから……。兄上たちとは他人も同然だしな」


そう言って目を伏せるクリス様は、とても寂しそうに見えた。

クリス様……。


なんだか例のゲームの、クリスティアーノ・ディ・フォルトゥーナと設定が似ている気がします。

まさか、目の前にいるクリス様が、血で血を洗う王位継承争いに巻き込まれるなんてことは……、ないよね!?


もしかして、王都に帰る途中で盗賊に襲われたってことにして殺されそうになったり、食事に毒を盛られたりするのかもっ!?


たたたた、たいへんだ!


「クリス様! ずーーーっとうちにいればいいですよ! うちにはクリス様のいのちをねらうものはいませんから! ここならあんぜんです!」


「命? 何を急に言い出したのかよくわからないが、俺はここにいるつもりだぞ。さっきもそう言っただろ」


クリス様は訝しげに目を細めた。


「はい! クリス様のことはチェリーナがまもります! さあ、あそびに行きましょう!」


私はクリス様の手をぐいぐい引っ張って、外へと連れ出した。




さてと、まずは課題となっていた消火の魔法具に取り掛かろう。

お父様が思いっきり火魔法を使えないんじゃ、宝の持ち腐れだもんね。


「うーん、うーん、うーん」


「なんだよ、腹でも痛いのか?」


違いますよ!?


「考えているのです」


「なにを?」


「火をけすほうほうです」


「はあ? バカなのか? 水をかければ消えるだろ」


クリス様が思い切り私を馬鹿にしてくる。

ほんと性格悪いよね!?


「それは分かっています! おとうさまがぜんりょくで火魔法をつかったときに、山かじにならないように火をけすほうほうがないかと考えているのです」


若干イラつきながらも、なるべく顔に出さないように返事をする。

お子様なクリス様と違って私は大人だからね!


「ああ、なるほどな。うーん、プリマヴェーラ辺境伯の火魔法の威力はすさまじいという話だからな。消すのは大変だろうな」


「えっ、クリス様、おとうさまの魔法をみたのですか?」


私もお父様の全力、見てみたい!


「いや、話を聞いただけだ。10年くらい前に魔の森に魔獣が大量発生したことがあって、エスタンゴロ砦が壊された。もう少しでエスタの街を魔獣が襲うという時に、間一髪で駆け付けたプリマヴェーラ辺境伯が放った火魔法で一網打尽にしたという話だぞ。


しかし、燃え盛る炎がなかなか消えず、砦から街までの一帯を焼き尽くしたそうだ。街にまで燃え広がりそうだったが、数軒の家を壊してなんとか延焼を防いだと聞いている」


ええっ!

魔獣が大量発生することがあるの!?


10年前といえば私はまだ生まれていない。

お兄様が赤ちゃんだった頃の話だ。


「魔物がたいりょうはっせいするのは、よくあることなのでしょうか?」


「前回が10年前なんだから、よくはないだろ。見回りにトブーンが導入されれば、魔物が発生したとしても、エスタンゴロ砦に接近する前に退治できるようになるんじゃないかな」


魔の森の見回りって、ものすごく重要な仕事じゃないですか!?

私のトブーンが役に立つなら、いくらでも使ってもらいたい。


トブーンを二人乗りにしたのは正解だったな。

一人が操縦してる間に、もう一人が見回りとか攻撃とか出来るもんね。

一人乗りで競争しようなんて馬鹿のすることだよ、まったく!


それにしても、エスタンゴロ砦を突破されたことがあるなんて初耳だ。

魔の森とプリマヴェーラ辺境伯領は、高い障壁で隔てられているから安全だと教えられていたのに。

街に魔物が入り込むかもしれないなんて怖いよ……。


「あっ、いたいた。クリス様、チェリーナ、何してるの? 僕も一緒に遊ぶよ!」


私とクリス様が真剣な話をしていたというのに、お兄様はへらへらと呑気そうな笑顔を浮かべてやってきた。

お兄様は遊んでばかりいないで、少しは勉強した方がいいと思います!


「おにいさま、チェリーナはあそんでいたのではありません! このプリマヴェーラりょうの安全について考えていたのです!」


私は能天気なお兄様とは違うんです!


「へっ? ああ、さっきお父様が言ってた話? トブーンで見回りをするっていう」


「そうですけど」


なぜ分かった。


「今度は僕も絶対に行くからね! 領地見学も大切な勉強の一つだからね」


かあー、調子いいなー!

お兄様は若干10歳にして弁が立つというか、頭が回るというか、要領がいいというか……。

纏めると、ちゃっかりしてるんだよね。


「俺も行く」


言うと思った!

言うと思ってたよ!

大事なことなので2回言いました。


まあ、私とお兄様が連れて行ってもらえるのに、クリス様だけお留守番はかわいそうだもんね。

そうなると、クリス様の護衛騎士も行くだろうから、トブーンは3機必要だな。


クリス様、一緒に行けるように私からもお父様に頼んであげるからね!





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