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第23話 裏通りの子どもたち


ひとけのない裏通りにある建物の隙間に、もぞもぞとうごめく影が見える。


「人がいるな。あれは、子どもか?」


「子どもですね。あっ、あっちにも! あの通りだけ人がいますね」


よく見ると、お世辞にも綺麗とは言いがたい路地の壁に沿うように、ちらほらと子どもの姿があった。

子どもたちは、遠目にも分かるほどガリガリに痩せている。


「大人はいないのか? こんなに病気が蔓延しているのに、子ども達だけフラフラと外へ出て大丈夫なのかな」


お父様はそう言って眉をひそめた。

本当、親は何してるんだろう?


「なにかをさがしている…? たべもの……?」


よく見ると、子ども達はごみ箱を漁っているようだった。


「もしかすると、親のいない子ども達なのかもしれないな。腹を空かしているのか……。街がこの状態では、料理屋の食べ残しすら手に入らないだろうな」


そんな!

何も食べる物がなかったら死んじゃうよ!


「おとうさま! おりてください!」


「しかし、街中で下りて病気がうつったら……」


お父様は、食べ物を探す子どもたちを助けたい思いと、私に病気をうつしたくない思いの間で葛藤しているようだった。


「チェリーナは、ベールのうちがわにラップをはりつけます。おとうさまは、ハンカチを口元にまいて、その下にラップをはさみこめばどうでしょうか」


「おお、いいかもしれんな。子どもを見殺しにするのは寝覚めが悪い。やってみるか」


お父様はそういうと、通りから少し離れた広場にトブーンを止めた。

私は早速ラップを出して、帽子に挟みこんだ。

お父様は……、あれ、ハンカチを凝視して何してるんですか?


「おとうさま、どうしたんですか?」


「ああ、さっきこれでお前が鼻水かんだなと思ってな……」


大丈夫、大丈夫。

全然いけるってー。


「だいじょうぶですよ。さあ、三角におってラップをはさんで、顔にまいてください!」


「大丈夫かどうかは俺に決めさせてくれよ……。しかし、他に選択肢がないから仕方がないな……」


お父様は渋々ながらも、ハンカチの綺麗な面を選んで鼻から下を覆った。

こんなんで本当に効くのかな?

でも、何もしないよりはずっといいと思う!


さて、あの子たちに何をあげようかな。

あの状態の子たちにお菓子だけ与えて帰るわけにはいかないよね。


今の私のスキルじゃ、描けるものは限られているし……。

ううーん……。


そうだっ、お弁当だよ!

日本のお弁当はたくさんおかずが入ってて栄養満点だよ、たぶん!


よーし、そうと決まれば早速ペンタブで描いてみよう!

私は薄い四角い箱を描いた後、箱の上に”ハンバーグ弁当”と書いた。


「ーーーポチッとな! おとうさま、これをたくさん出してあの子たちにあげたらどうでしょうか?」


私はほんのり温かいハンバーグ弁当のふたをあけて、お父様に中身を見せた。

ハンバーグと、めだま焼きと、ポテサラと、ブロッコリーのチーズ焼き入りにしてみたよ!

ちゃんと割りばしも付いてます。


ツヤツヤの白米がおいしそう。

じゅるり……。


「なんだこれは。肉と、卵と、野菜と、白いのは小麦を茹でてあるのか? 美味そうな匂いだな」


「これはハンバーグべんとうです!」 


子どもはみんなハンバーグが大好きなんだよ!

私も大好きー!


「あとは、のみものを……」


飲み物は何がいいかなあ?

そうだ、エナジードリンク的な回復効果のある飲み物にしよう!

先にそれを飲ませて回復させておけば、急にハンバーグ弁当みたいなボリュームのあるものを食べても大丈夫だろう。


味は、子どもが好きなイチゴミルク味にしようっと。

私は保存しておいたりんごジュースの絵をコピーして、"りんごジュース"の文字を消し、"強力回復効果付き!ゲンキーナ イチゴミルク味"と書いた。


「ーーーポチッとな!」


どれどれ、早速味見してみよう。

私は紙パックを開けて、一口飲んで味を確かめてみた。


「うん、おいしいです! 子どもたちはよわってるだろうと思いましたので、かいふくこうかをふよしました。おとうさまものんでみてください」


私はそう言って、飲みかけの紙パックをお父様に渡した。


「ーーーうん、うまいな。おお、何だか力が漲ってくるようだ」


「では、あの子たちにおべんとうとのみものをわたしに行きましょう!」


「そうしよう。ーーおや?」


子どもたちの姿を見掛けた通りの方に目をやったお父様は、何かに気付いたような声をあげた。

私もその方向を見てみると、建物の陰から鈴なりになってこちらを覗いている子どもたちの顔が見えた。


「匂いにつられてやってきたのかな? 鼻がいいな」


「さがしに行くてまがはぶけましたね! おーい、こどもたちー! こっちにおいでー!」


「プッ、子ども達って、自分も子どもだろ、ククッ」


お父様が笑いを噛み殺しているけど、私はあの子たちより精神的に大人だから、あの子たちを守ってあげないといけないんだもん!


何人いるのかな?

とりあえず飲み物は20個用意しておこう。

お弁当はこれを飲んだら出すからね。


「じりじり近づいてきましたけど、これ以上こないですね……。おとうさまのことがこわいのかも」


子どもたちは、5メートル程距離を取って私たちを見ている。


「薄々そうじゃないかとは思っていたが……、せめて髭を剃ってくるんだったなあ」


「おーい! おとうさまは、さんぞくじゃないよー! 大きくて、やさしくて、おもしろいよー! こっちに食べものがあるから、いっしょに食べよー!」


私はそう言ってブンブンと両手を振って合図を送った。


「山賊じゃないよって……」


お父様がショックを受けたような顔をしている。

もしかして自覚なかったのかな?




「あの……、たべもの、くれるの?」


やせ細った5歳くらいの女の子が恐る恐る近づいてきて、私に尋ねた。


「うん! まずは、こののみものをのんで! 元気になるよ!」


私は、その子のために紙パックの口を開いてあげてから、怖がらせないようににっこり笑って手渡した。

……って、ベールで見えないから意味ないか。


「……ありがとう」


女の子は素直に受け取ると、そっと口をつけて一口飲んだ。


「……っ! おいしいっ! こんなにおいしいもの、初めてのんだ!」


女の子はそういうと、満面の笑みを浮かべた。

すると、その子の様子を見ていたらしい他の子たちもわらわらと集まってきた。

1、2、3、4、……全部で12人いる。


「みんな、まずはのみものをのんでね! そうしたら、おべんとうを食べていいよ!」


ごくごくと喉を鳴らしながらゲンキーナを飲んでいた子どもたちは、お弁当という言葉に首を傾げた。


「おべんと?」

「おべんとーってなに?」

「たべものなの?」


私は子どもたちが飲み物を飲むのを見届けると、ハンバーグ弁当を12個出した。

みんなに一つずつ配り、お弁当のふたを開けて中に入っている割りばしの使い方を説明した。


子どもたちは、美味しそうなお弁当にわあっと歓声を上げると、不器用に箸を使いながら夢中でお弁当を食べ始めた。

しかし、チビチビと飲み物を飲むだけで、お弁当には手をつけようとしない子どもも何人かいる。


「どうして食べないの?」


ごみ箱を漁るくらいだ、お腹が空いていない筈がない。


「弟と妹がいるから」

「僕も兄弟がいる」

「私も家に持って帰って、みんなで分けたいの」


ごめん……。


お弁当12個じゃ全然足りなかった。

目の前にいる子たちだけにお弁当をあげて、いい気分になっていた自分が恥ずかしい。


「ねえ、みんな。おうちの人や、おとなりの人や、食べものを分けてあげたい人はいる? いるなら、もっとおべんとう出すよ。でも、必ずこののみものを先にのませること。それだけはやくそくね」





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