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第2話 ペンタブ魔法の練習


何が何だかわからなかったが、気を取り直してお父様にあの男の子のことを尋ねることにした。

プリマヴェーラ辺境伯一家を前にしてあの態度なのだから、きっとどこぞの大貴族の馬鹿息子に違いない。


「おとうさま、あの子はいったいだれなのですか?」


「熱で忘れてしまったのか? あの方は、第三王子のクリスティアーノ殿下だ。王都で発生している流行り病から逃れるために、うちの領で預ることになったんだ。子どもがかかると命取りだからな。


結局はクリスティアーノ殿下もここに着いてしばらくして流行り病を発症してしまったが、宮廷医に処方された予防薬を服用していたから軽く済んだんだ。ところが、クリスティアーノ殿下と遊んでいたお前にうつってしまってな……」


はあっ!?

あの子が私にうつしたの?

なのに何であんな態度!?

くっそムカツクーーー!


「おそらく、クリスティアーノ殿下なりに責任を感じて婚約を言い出したのだと思うが……。困ったな。仮にも王子殿下からのご提案を無下に断ることなど出来ないし、陛下に手紙を書いて相談するとしよう。この件は俺に任せてくれ」


「おとうさま! チェリーナはあんないじわるな子と結婚なんてしたくありません!」


あの子と結婚なんかした日には、事あるごとにブスブス言われて馬鹿にされるに決まってる。

いくら私が温厚な性格でも、そんなモラハラに耐えられる気がしないわ。


「結婚なんてすることないよ! チェリーナは僕が守るんだから、ずっと家にいればいい!」 


「う、うむ。まあ少し待っていてくれ」


いつも豪快なお父様が珍しく歯切れが悪い。

可愛い娘があんな言われようだったんだから、少しくらい怒ってくれてもいいと思います!




扉付近に立ったまま部屋の中に入ってこようとはしない三人の脇をすり抜けて、若い男の人が部屋に入ってきた。

この領で唯一の医者、ジルベルト先生だ。


「さあ、みなさんはここから離れてください。あと一週間ほどで感染の心配がなくなりますので、もう少しの我慢ですよ」


「でも、いまお母様がやってくれてるみたいに、風魔法で風をまとえば病気はうつらないんじゃないですか? ジルベルト先生も風魔法を使えるからうつらないんでしょう?」


もっと私と話していたいらしいお兄様が、先生に矢継ぎ早に質問をしている。

あ、そこから入ってこないのは、お母様の風魔法で病原菌を遮断中だったからなんですね。


「念のためですよ。風魔法を使えても万が一ということもあります。この病気は隔離が基本なんです」


「チェレスティーノ、わがままを言って先生を困らせるな」


「お父様……。わかりました。チェリーナ、また会いに来るからね、あと一週間の辛抱だよ」


そう言うと、家族は名残惜しげに部屋の扉をパタンと閉めた。





「マルチェリーナ様、鏡をごらんになられたのですね。いまは一番ひどい状態ですが、これから徐々によくなりますよ。しかし、これだけは必ず守ってください。何があっても絶対に潰瘍を掻き毟ってはいけません」


「か、かいよう……?」


なにそれ、怖い!

絶対にダメと言われると、つい逆のことやらかしちゃうパターンじゃない?

ダメよ、チェリーナ、前フリに負けちゃダメっ!


「はい。今は火傷をおって水ぶくれになっているような状態になっているです。これを掻き毟ってしまうと、引き攣れたような痕になって残ってしまいますのでお気をつけください」


「えっ、私の顔にやけどのようなあとが残ってしまうのですか?」


「完全に元通りと言うわけにはまいりませんが……。マルチェリーナ様の頑張り次第で、状態は良くなりますよ」


何だか奥歯にものが挟まったような言い方だな。

まあ、女の子の顔に病気の痕が残るとは言いにくいもんね。

先生、言いづらいこと言わせてごめんよ。


「わかりました。わたし、がんばります!」


「いい子ですね。一緒に頑張りましょう。さあ、そっとベッドに戻ってください。体にも潰瘍がありますからね。」


先生はそう言って微笑むと、私の頭をそっと撫でてくれた。

ト、トイレ行きたいけど、先生が帰るまで我慢しよう……。





それにしても、第三王子のクリスティアーノ様って、ウィール オブ フォーチュンの攻略キャラと同じ名前だね?

そういえばお兄様と同じ、プリマヴェーラ辺境伯令息のチェレスティーノという名前も出てきたな。

鈴木一郎とか山田太郎的な、わりとよくある名前なのかもしれないね。


まあ、そんなことより今は病気のことを考えよう。

顔にケロイド状の痕が残るなんて人生の一大事だよ!

8歳にして人生ハードモード決定とは、きっついなぁ……。


はっ、いかんいかん!

暗くなってたら病気をぶり返しそうだよ。

気を取り直して、さっきのペンタブで遊ぼうっと。


今度はいきなり人物じゃなくて、りんごとか簡単そうな果物でも書いてみよう。

甘酸っぱくて~、みずみずしい~、蜜入りのおいしいりんごだよ~。


ん、よしよし。

なかなか上手くいったぞ。

と言っても、丸描いて茎と葉っぱをくっつけただけだけどね!

赤と緑の色をペイントして、よし完成だ。


ん? この右端のツール一覧の中にある実体化っていうボタンは何だろう?

よくわからないけど、とりあえず押してみようかな!


「せーの、ポチッとな!」


言い終わると同時に、ベッドの上にコロンと赤いりんごが現れた!

赤さがペンキで塗ったみたいで不自然だけど、食べられるのかな?

これは試さねばなるまい!

では早速、いっただっきまーす。


「しゃくしゃくしゃく……。うん、りんご味だな。かわの色がアレだけど、むいたら問題ないし、ちゃんとみつ入りになってる! これはいがいといい魔法だったかも。もっと絵がうまくなったらいろんなもの出せるね。やったあー!」


この魔法があれば、将来誰かに養って貰わなくても独り立ちできそうだ。

なんせ、元手ゼロなんだから大儲けできる未来しか浮かばない。

フハハハハハハハ!


ん!?

そうだっ!

火傷には湿潤療法がいいってテレビで見たことあったの思い出した。

たしか、水で洗ってラップを巻いて、乾かさないように治すって方法だったと思う。


このりんごは、蜜入りという描いてない部分までイメージ通りちゃんと実体化されている。

つまり、透明なラップなら、イメージオンリーで出せるんじゃない?


でもペンタブサイズのラップ出されても使い辛いよなあ。

よーし、箱だけ描いて、中身が入ってるとイメージしてみよう!

む~ん、ラップ、ラップ、ラップ。


「ラップを歌ってラップを描くyo、チェリーの前世はちえりだyo! ヘイ、yo~! セイ、yeah~!」


即興ラップを口ずさみながらラップの箱を描いてみるも、線がガッタガタで箱に見えない……。


「ん、まっすぐな線っていがいとむずかしい……。なにかじょうぎの代わりになるものはーー」


そこでいきなりバタンと扉が開いたと思ったら、カーラがわなわなと震えて立っていた。

どうしたんだろう?


「お、お嬢様……っ! とうとう頭がおかしくっ! だ、旦那様ー! 奥様ー!」


え。

何それ失礼なんですけど。


「カーラ、チェリーナならだいじょうーー、あー行っちゃった」





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