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番外編 ハッピーバンケット③


「泣くなよ」


「私……、憶えていたかったです」


どうしてこんな大事なこと忘れちゃったの……?


「病気だったんだから仕方がないだろう? いま分かったんだからいいじゃないか」


「クリス様……、もしかして、最初から私のことが好きだったんですか? 好きだからプロポーズしてくれたの?」


「今更か」


「だって……」


てっきり病気を移した責任を取るために、渋々プロポーズしたのかと思っていた。

小さい頃は口が悪くて、すごく意地悪だったし。

とても好きな子に対する態度じゃなかったと思う。


「好きだから、ずっと一緒にいたいからプロポーズしたに決まってるだろ」


「クリス様……っ! 私もクリス様のことが好きです! ううっ」


「やっと言ったな」


クリス様はクスッと笑うと、腕を伸ばして私の肩を抱き寄せた。

そして、胸ポケットからハンカチを取り出すと、そっと涙を拭ってくれた。


「エステルがハラハラしながらこっちを見てるぞ。席を外して、顔を直してきたらどうだ?」


「はい。では、そうさせていただきます」


化粧直しを促されたところをみると、もしかすると黒い涙を流しているのかもしれないね……。

今日はこれからもいろいろ撮影されるだろうし、ここはお言葉に甘えさせていただくことにしよう。


「えー、みなさん。実は、新婦は病気が原因で、出会った頃の記憶がないそうなのです。いま初めて二人の出会いを知り、感動の涙が止まらなくなってしまったようですね。では次に、新郎新婦友人のパヴァロ・ロッティ君とマリア・アカラス嬢より、歌のお祝いがあります。どうぞお聞きください」


会場を出て隣の部屋に入ったところで、パヴァロ君とマリアの歌が聞こえて来た。

二人の美しい歌声にだんだん心が落ち着いてくる。


「……ふうー」


「落ち着かれましたか?」


「はい。せっかくのお化粧が落ちてしまってごめんなさい」


私が謝ると、エステルは笑って首を振った。


「あの状況では仕方がありませんわ。私でもきっと泣いてしまうと思います。とても素敵なエイガでしたもの。クリスティアーノ様はお小さい頃からずっと一途にマルチェリーナ様を思われていたのですね……。私、とても感動いたしました」


エステルは私に話しかけながらも、手早く崩れた化粧を直していく。


「一途に……、はい」


もっと早くクリス様の気持ちに気付いていれば……。

いま思い返すと、私の態度は相当酷いものだったと思う。

過去の自分の振る舞いが悔やまれるよ……。


せめてこれからは、もっと素直に愛情表現することにしよう。

お父様とお母様みたいに、何年経っても新婚さんみたいな夫婦に私たちもなれたらいいな。


「さあ、元通りになりましたよ。会場へ戻りましょう」


「はい」


会場に戻る途中、出入り口付近に用意されていた引き出物が目に入った。


そうだ!

まず手始めに、今日の引き出物の品の由来を聞いてもらおう。

きっと喜んでもらえる気がする!


多めに用意されているから、一袋くらいは開封しても問題ない。

私は紙袋を1つ手に取った。


「クリス様、お待たせしてごめんなさい」


「いや、大丈夫だ。何を持っているんだ?」


クリス様は私が手にしている紙袋に目を留めた。


「今日いらしてくださったお客様へのお礼の品です。中身を説明したいので、1つ持ってきたんです」


「へえ、そうなのか」


クリス様も何が入っているのかはまだ知らない。

クリス様は袋の中から長方形の箱に入ったワインボトルと、正方形のお菓子の箱を取り出し、テーブルの上に並べてくれた。


「クリス様、一緒にご挨拶をお願いできますか?」


「ああ」


クリス様は頷いて立ち上がった。


「みなさま。私たち二人から、ささやかながら本日お越しくださったみなさまへのお礼の品がございます。少し珍しく感じるものがあるかもしれませんので、私からご説明させていただきます」


フォルトゥーナ王国の結婚式は、ご祝儀の習慣がないため引き出物も用意されないのが普通だ。

見慣れないだろうし、食べ方も分からないかもしれないからね。


「1つは先ほど撮影した記念写真ですので、お帰りになる際に出入り口のところでご自分が映っている写真をお受け取りください。それから、こちらのボトルはワインでございます」


私はボトルを持ち上げて見せた。

この国には赤ワインと白ワインしか流通していないので、今回は魔法で”究極のロゼワイン”を用意してある。


私は給仕係に目で合図をして、コルクを抜いてもらった。


「ワインなら珍しくもなんともないと思ったのではありませんか?」


会場からハハハと笑いが起こる。

私はワイングラスを給仕係の方へすっと滑らせ、ワインを注いでもらい、グラスを目の高さに掲げた。


綺麗な透き通ったピンク色のワインに、会場からほうっと感嘆の声が漏れる。


「後ろの方もご覧いただけますでしょうか? こちらは白ワインと赤ワインから作ったロゼという名前のワインです。白ワインはクリスティアーノ様を、赤ワインは私をイメージして、2つを混ぜ合わせたものなのです」


「まあ、綺麗な色ね」

「お二人にぴったりだわ」

「素敵な品ね」


いま全部のボトルを開けるわけにはいかないから、どんな味かは帰ってからのお楽しみです。


「それから、こちらの箱に入っているものは、バウムクーヘンというケーキでございます」


私は箱を開けて、直径20cm程のバウムクーヘンを取り出した。

乾燥しないようビニールパックに包まれている。


「外側の透明な袋は食べられませんので、食べるときは袋をお開けください。こちらのケーキ、よく見ると何かに似ていると思いませんか?」


私はお客様やクリス様にバウムクーヘンがよく見えるように掲げた。


「うーん? 木の切り株に似ているかな」


「そうなのです。こちらのケーキは、木の年輪をイメージしたものです。このようにたくさんの年輪ができるまで、末永く、共にという意味が……、こめられて……」


あ、あれ……?

よく考えたらこれは今言わなくても、後でクリス様だけに言えばよかったんじゃない?


なにもみんなの前で大公開しなくてもいいよね!?

なんか、急に恥ずかしくなってきた!


「末永く、共に……。そんな意味が込められているのか。ーーチェリーナ。約束どおり、ずっと一緒にいような」


クリス様は声を落とし、私にだけ聞こえるようにささやいた。


「クリス様……!」


私は周りの視線も忘れて、クリス様の紫色の瞳をじっと見つめた。

やっぱり今日はクリス様の顔が一段と輝いて見える!


私、こんなに綺麗な人と、本当に結婚したんだ……。

もう、ドキドキしてきた!


……あのー、ところで、ちびっ子ちゃん達?


さっきから壁にびたんびたん張り付いてるけど、いくらやっても映画の中には入れないからね!?

せっかくいいところなんだから、もうちょっと大人しくしててちょうだい!





その後、フォルトゥーナ王国の結婚式では、白いウエディングドレスとバウムクーヘンが大流行することになる。


ロゼワインについては、華やかな色合いが人々に好まれ、結婚式に関係なくいろんなパーティで重宝されるようになった。

製法が分からないから、単純に赤ワインと白ワインを混ぜるだけのカクテル的なロゼワインだけど、正解を知ってる人がいないのでまったく問題なしだ。


結婚式の準備にいろいろ頑張ったけど、なんだかんだ言って一番広く浸透したのはロゼワインのような気がするな……。


やっぱりこの国の人たちって、本当にお酒が大好きだよね!?






結婚式のエピソードはこれで終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


え、結婚式なのにアレがないの?と思った方はいらっしゃいますでしょうか。

そうなのです、指輪の交換がありません!

なぜかというと、チェリーナが毎日指輪をつけるのがイヤだから……!

(それと、フォルトゥーナ王国に指輪を交換する習慣がない)


チェリーナは宝石にまったく興味がありませんが、宝石と深い関わりのあるお話が新作の『レピエルと呪いの石』になります。

年月を経て、魔法具の一つを手にした誰かの子孫が主人公です。

今日から連載を始めましたので、是非お読みいただけましたら幸いです。


どうもありがとうございました!

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