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番外編 ハッピーパレード


外の日差しの眩しさに目を瞬かせながら大階段へ出ると、目の前に信じられない光景が広がっていた。


「なっ! なにこれ!?」


見渡す限りの人、人、人。


警備の騎士が周辺に配置されているせいか、さすがにすぐ近くまでは来ていないけど、道を挟んだ向こう側に驚くほどの人だかりができている。


集まった人々は階段の上に私たちが現れたことに気付くと、わーっと歓声をあげなから拍手で迎えてくれた。


「すごい……」


クリス様もあまりの人出にポカンと口を開けている。


「特に告知はしていなかったが、お前たちの結婚式が今日行われると民衆も知っていたようだな。パレードなどは予定していなかったが……。こんなに集まってくれたのだ、王宮までの道中手を振るぐらいのことはしてもいいだろう」


こ、国王陛下!?

いまサラッとパレードっていいました?


そんな急に言われても心の準備が出来てません!


「父上……、パレードですか……」


「振る舞い酒もよいな。めでたい日だ。みなで祝おうではないか」


ええー、お酒だけじゃ、子どもと女の人に不公平だと思うな。

それなら私からも差し入れします。


「国王陛下、お酒を飲めない方もいらっしゃると思いますので、私からちょっとしたお菓子を差し入れいたしますわ」


「おお、それはいい! マルチェリーナの珍しい菓子は私も毎回楽しみにしているのだ。みなも喜ぶだろう」


え、国王陛下も甘い物がお好きだったんですか?

クリス様の甘い物好きが遺伝だったとは知らなかったな。


「チェリーナ! クリス様! そろそろ撮影を始めましょう!」


そうだった、そうだった。

あまりの人出にびっくりして忘れそうになったけど、これから撮影だったね。


「お子様方、ゆっくり階段を下りてください! チェリーナとクリス様は腕を組んで続いてください! はい、皆さま笑顔で祝福を! はい、撮りまーす!」


アルフォンソは左右に移動し、角度を変えながら忙しなく撮影を続けている。


私は集まってくれたお客様たちの顔を、感謝を込めて一人ひとりぐるりと見回した。

国王陛下と王妃様をはじめとした王族の皆様方、それから遠方から集まってくれた私側の親族、とくにマルティーノおじさまとサリヴァンナおばさまはたくさんのちびっ子を連れてくるのは本当に大変だったと思う。


両家と付き合いのあるたくさんの貴族たちに混じって、カレンデュラ、ルイーザ、ラヴィエータ、ガブリエル、ファエロ、ジュリオといった友人たちの姿も見える。

他にも、今日は私たちの代の卒業式の翌日ということもあって、大勢の友人たちが帰郷を延ばして集まってくれた。


「今度は正面から撮りますので、皆さま階段にお並びください。新郎新婦と新郎新婦のご両親は最前列で固定、それ以外のお客様は入れ代わりでお撮りいたします」


お父様が最前列?

後ろの人が完全に隠れるんじゃない?

心配なんだけど……。


「申し訳ありません! チェーザレ様の後ろの方は2段あけてお並びください!」


人々が並び始めたところで制止の声がかかる。

やっぱりか。


「お、おい。まさか、このまま撮るのか?」


お父様の不安げな声が聞こえて、ふとそちらに視線を向ける。


「お、お父様!?」


お父様の両手両足に、クラリッサ姫を始めとしたちびっ子達がビッシリたかっています!

テーマパークの着ぐるみ状態!?

みんな、お父様で遊びたい気持ちはよーく分かるけど、今はそんな場合じゃないから!


「どうするんだよ、これ……」


「とーしゃま」

「だっこー」


マルティーノおじさまのところのちびっ子たち、確かに似てるけどキミたちのお父様とは別人だからね?


「ははは、いいですね! せっかくですから1枚撮っておきましょう。はい、もういいですよ。君たち、いまから写真を撮るからね、トレーンの左右にしゃがんでくれるかな?」


侍女たちが長いトレーンを私の前に持ってきて綺麗に広げてくれたんだけど、どうやらその周りに子ども達を配置するらしい。


アルフォンソがニッコリ笑って子ども達に話しかけると、子ども達は頷いてわーっと散っていった。

ふうー、やれやれ。


「はい、それでは1組目撮影しまーす! 皆さん、笑ってくださーい! はい、結構です」


そしてアルフォンソの指示に従ってサクサクと撮影を進めているうちに、白馬に引かれたパレード用の馬車がパッカパッカとやってきた。

撮影している間に誰かが手配してくれたようだ。


「ーー親愛なる我が民よ! 我が息子クリスティアーノと、新しく娘になったマルチェリーナの結婚を祝福するために集まってくれた皆に、ささやかながら祝いの品を振る舞いたい! 王宮前広場に酒と菓子を用意する!」


わああああああああーーーっ!


国王陛下の言葉に、物珍しげな顔で撮影の様子を見ていた街の人々から一斉に大きな歓声があがった。


特に男性陣が飛び上がらんばかりに喜んでいるけど、やたらお酒が好きな人が多いのは国民性なの?

まあ、こんなに喜んでくれるなら嬉しいけどさ。





そんなこんなで、先に国王陛下やお客様方の馬車を見送り、最後に私たちがパレード用の馬車で王宮へと向かうことになった。

大聖堂から王宮まで馬車で10分もかからない距離だけど、パレードとなると時間がかかりそうだし、その順番の方が効率がいいからだ。


最後の馬車が見えなくなったところで、四方を馬に乗った護衛騎士に囲まれた私たちの馬車がゆっくりと動き出す。


「こんなに大勢の人が集まってくれるなんて……、びっくりしましたね」


私は左右に手を振りながら、小声でクリス様に話しかけた。


「ああ、俺も驚いたよ」


「さすが王子様ともなるとすごい人気ですね」


もしかするとクリス様って、イケメン王子として有名だったのかもしれない。

こんなに綺麗な顔面してたら、そりゃみんな拝みたくもなるよね。


「……むしろお前を見てみたくて集まったんだと思うけど」


「えっ?」


なんで私?

どこにでもいる普通の女の子をわざわざ見に来るわけないと思うよ?


「英雄の娘であり、王国にたった1人しかいない創造魔法の使い手を見てみたいだろ? それに、聖女の正体はお前だとみんな薄々分かってる気がするしな。不思議な魔法具を出せるのはお前しかいないんだから、俺たちが知らないだけでとっくに噂になっているかも」


ええっ、そうだったの?


「なるべく人目につかないようにしたつもりだったのに……」


「え、あれで?」


「そうですけど!?」


トブーンに乗る時だって、姿が見えなくなるように気を使って結界のマントで隠してたし!

対策は万全だったと思う。


「ついさっきもみんなの前で撮影してたじゃないか。子どもの頃から目立ち過ぎだし、プリマヴェーラ辺境伯の娘じゃなかったら、誘拐とかおかしなことを考える奴が現れても不思議はなかったと思うぞ」


そ、そんな!

誘拐だなんて、ぜんぜん考えたことなかった……!


「……私、明日から毎日結界のリボンを身に着けることにします」


「そうだな、それがいい。アメティースタ公爵家は、まだまだ戦闘力に課題があるからな」


クリス様が学院を卒業してから2年の間に、お父様に見所のある冒険者を紹介してもらったり、家を継ぐ予定のない魔法学院卒業生をスカウトしながらコツコツと騎士見習いを増やしてはきたけど……。


よく考えたら、プリマヴェーラ辺境伯家や魔法学院にいるよりも、新しい領地は危険があるのかもしれない。

やっぱり自分でも気をつけないといけないな。


「ーーお姉ちゃん!」


私が気を引き締めていると、どこからか男の子の声が聞こえてきた。

でも、人が多すぎてどこから聞こえるのかよくわからない。


「お姉ちゃん!」


「どこかしら?」


「こちら側から見えるぞ。あれは孤児院の子ども達じゃないか?」


どうやらクリス様側の沿道に孤児院の子ども達がいるようだ。

あれから子ども達の屋台は順調に軌道に乗り、今や人気店の1つとして大繁盛していると聞いている。


「みんな、来てくれたのね!」


子ども達は馬車のすぐ傍まで駆け寄り、私たちに色とりどりの綺麗な花束を差し出してくれた。


「お姉ちゃん、クリス様、ご結婚おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「おねえちゃん、すごくきれい!」


クリス様は微笑んでその花束を受け取ると、身を乗り出している私に手渡した。


「みんな、ありがとう! とっても嬉しいわ! 王宮前広場にお菓子を用意するから、みんなも来てね」


お菓子、と聞いた子ども達はぱあっと顔を輝かせる。


「うん! ぜったいに行くよ!」

「ばいばーい!」


「みんな、またね!」


ゆっくり進んでいるとはいえ、子ども達の足でずっと馬車に併走出来るわけもなく、すぐにお互いの姿が見えなくなってしまった。


私は座席に座り直すと、改めて花束を見つめた。

子ども達からの花束は、どうやら花屋で買ったものらしく、大振りの綺麗な花がたくさん入っている。


余裕のない生活の中で、私たちをお祝いしようとわざわざ買ってくれたんだな……。


「素敵な贈り物をいただきましたね」


「本当だな。子ども達の気持ちがたくさん詰まっている」


クリス様と私は、心のこもった花束に顔と顔を寄せ合い、すうっと花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。






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