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番外編 ハッピーウエディング④


国王陛下もこんな反応になることはある程度予想していただろうけど、ザワザワと隠しようもないほど大きなざわめきになってしまい、心なしか困ったような表情を浮かべている。


「国王陛下! 望み通りの領地をお与えいただき、ありがたき幸せにございます。今後は国王陛下の忠実なる家臣として、賜った領地の発展に力を尽くす所存です。国王陛下並びに王太子殿下の御世に繁栄と安寧をもたらす一翼となれるよう、努力を惜しまぬことをここに誓います」


クリス様は膝を付いたまま国王陛下を見上げ、よく通る声で忠誠を誓った。


「よくぞ申した! クリスティアーノ、期待しているぞ!」


国王陛下はクリス様の言葉に何度も頷くと、嬉しそうに顔をほころばせた。


「あら……、ご本人の希望でしたのね」

「そういえば、旧ラーゴ男爵領はプリマヴェーラ辺境伯領の隣でしたな」

「なるほど、そういうことでしたか」


ほっ……。

クリス様の宣誓のおかげで、聖堂内に再び和やかなムードが戻って来た。


よーし、もうすぐ私の出番だね!

私もがんばらないと!



「きゃーーー!」

「あああー!」

「うぎゃあああー!」


ドタドタドタ!


あの……、まだ走ってたの?

そろそろ出番なんだから大人しくしてくれ!


「さあさあ皆さま、もうすぐ出番でございます! 籠を持ってお並びくださいませ!」


侍女たちがなんとか子ども達を並ばせようと頑張っているけど、年長組はともかく、2歳児組がどうにも言うことを聞かず苦戦しているようだ。


だ、大丈夫かな……?


「これより、クリスティアーノ・アメティースタとマルチェリーナ・プリマヴェーラの結婚式を執り行う!」


ひえっ、国王陛下の声が!

タイムアップだよ!


「チェリーナ! 出番だぞ!」


「はっ、はいっ! さあ、みんな! 並んで籠の中身を通路に撒いてね!」


「きゃー!」


聞いてるっ!?


「もう出番よ!」


ど、どうしよう!

2歳児組が野性味を発揮しまくってて手が付けられない!



(やれやれ。お前は子守りが下手だな)


「マーニ!」


私の目の前にフッと現れたのは、いまもジョアン侯爵家に絶賛入り浸り中のマーニだ。


(……お転婆娘が化けたものだ。なかなか美しいじゃないか)


口の悪いマーニが褒めてくれたのは嬉しいけど、今は喜んでる場合じゃない。


「あ、ありがとう。でもマーニ、どうしよう? もう行かないといけないのに、子ども達が言うことを聞いてくれないのよ」


(チビどもを聖堂の中に誘導すればいいんだな?)


「えっ、ええ。そうよ」


マーニは私の前から姿を消すと、子ども達の前にパッと現れては消えるということを繰り返した。


「にゃーにゃー!」

「わんわー!」

「あしょぶー!」


マーニがゆっくりしっぽを振りながらトトトと歩くと、2歳児組がトコトコとその後を付いて歩く。


「いけそうだな! チェリーナ、扉を開けるぞ!」


マーニ……、ありがとう!

私は急いで頭の上のベールを引き下げた。


「はいっ!」


ハラハラと不安げに待機していた2人の侍女が、待ってましたとばかりに両側から扉を開け放つ。

そして扉が開くと同時に、打合せしていたとおり入場曲の演奏が始まった。


マーニを先頭に、籠を持った8人の子ども達、お父様にエスコートされた私、そして最後にドレスのトレーンを持つ2人の6歳児が入場する。


あの……、2歳児組……、早速仕事を忘れているよ……。


「籠、籠! みんな、中身を撒いてね!」


私の声が聞こえたのか、私の前を歩く子ども達が籠を逆さまにしてブンブン振った。


ああ、そう……。

そう来るか。


その時、聖堂の両側からサーッと風が吹き、通路に落ちた籠の中身を聖堂中に舞い上げた。


「まあっ」

「綺麗ね」

「素敵だわ」


お兄様とアルフォンソの風魔法に乗ってひらひらと宙に舞っているのは、私の魔法で出した銀色の紙ふぶきと白い薔薇の花びらだ。

こんなこともあろうかと2人に頼んでおいてよかったよ。


銀の紙ふぶきは前世で見た舞台の結婚式シーンをヒントにしたんだけど、スポットライト代わりに点灯してもらった懐中電灯の光に反射しているせいか、想像以上にキラめきがすごくてかなりド派手な花嫁入場になったかもしれない。


「ほう、見事なものだな」


「大成功です」


お父様と私はゆっくりと歩を進めた。

祭壇の前に着いたところで、ピタリと風が止み、全ての紙ふぶきと花びらが床に落ちる。

そして、無事に役目を終えた子ども達が次々と侍女に回収されていった。


「クリスティアーノ・アメティースタ公爵。娘をよろしくお願いいたします」


「プリマヴェーラ辺境伯、どうかご安心ください。チェリーナは必ず幸せにします」


お父様はクリス様の返事に頷くと、祭壇を離れ、お母様の隣へと歩いて行った。


「チェリーナ……、綺麗だ」


「クリス様こそ……、とっても綺麗です」


クリス様は私のドレスに合わせてくれたらしく、光沢のある白い生地に銀糸の刺繍が施された婚礼衣装を纏っている。


美形なのは今に始まったことじゃないけど、今日の衣装はクリス様の白金の髪に素晴らしく似合っていて、いつにも増して輝くばかりの美しさに仕上がっていた。


「チェリーナの方が綺麗だよ」

「そんな、クリス様の方が」


「あー、ゴホンゴホン! そろそろ式を始めてもよろしいかな?」


気が付くと、真っ白な髭をたくわえた司祭様が、私たちの注意を引こうとわざとらしい咳払いをしていた。


司祭様、いつの間にいらしたんですか?

すみません、存在が目に入ってませんでした……。


「お願いいたします」


クリス様が返事をすると、司祭様は慣れた様子で朗々と宣誓の言葉を紡いだ。


「今日の良き日に夫、そして妻となる汝らはーー」


誰かの結婚式に参列すると、いつも眠くなるパートだ。

これが長いんだよね……。


「ーー共に助け合い、真心を尽くしーー」


……ま、まだかな。


「ーー汝、クリスティアーノ・アメティースタ、これを誓うや?」


「誓います」


クリス様は私を見てニコリと微笑むと、はっきりと宣言した。

うう、もう涙が出そう!


「汝、マルチェリーナ、これを誓うや?」


「……誓います!」


こぼれ落ちそうな涙を必死にこらえて、なんとか宣誓の言葉を搾り出す。


「神、そして、この結婚を祝福する者すべての前で、いま2人は正式に夫婦となった! ーー花婿は花嫁にキスを」


司祭様はクリス様に誓いのキスを促した。

クリス様はくるりと体の向きを変えると、そっとベールをあげて私の目を見つめる。


「チェリーナ。2人で幸せになろう」


「っ、はい……っ!」


そして、クリス様はちゅっと私の唇にキスを落とした。

わあっと招待客から歓声があがる。


ううう、頬がカーッと熱くなるのを抑えきれない……!

両親が見てるし!

お兄様も見てる!


というか、カメラを構えたアルフォンソの姿が見えるッ!

ぜったいバッチリ取られたー!


聖堂内には盛大な拍手が鳴り響き、このままいつまでも続くかのように思われた。


「それでは皆さま、続きまして王宮にて披露宴を行いますので、各自で移動をお願いいたします。その前に、今日の日を記念してサツエイとやらが行われますので、聖堂前の大階段でお待ちください」


宰相が披露宴と記念撮影の案内をしてくれたため、自然と拍手が収まる。


「サツエイ?」

「サツエイとは何かしら?」

「聞いたこともありませんな」


まあ、そうだよね。

カメラがないもんね。


そう思って招待客への引き出物の1つを、記念写真にすることにしたのだ。


カメラは前から使ってる録画機をそのまま使い、静止画像をプリントアウトできるように魔法でプリンターを出した。

ちなみに、録画機はケーブルを接続できる仕様になってなかったので、プリンターに録画機を近づけると無線で表示画像を同期できるようにしてみました!


これなら、以前撮影した映画の一場面をプリントアウトすることもできるしね。


「まずはお客様方。中央部分を開けて、階段の両側にお立ちになってください。階段の中央部分をお子様方、そして新郎新婦が続いて下りて来ますので、お客様方はそれを祝福するようにご覧になっていてください。その後、ポーズを変えて何通りか撮影いたします」


おお!?

単純な集合写真を想像していたけど、何カットも撮る気なの?


アルフォンソ……、本業の商売でも忙しくしてるっていうのに、カメラマンとしての仕事にも手を抜かないとは。

多才な人って何でも出来るんだな。


1ヵ月後に控えた自分の結婚式の準備もあるのに、私たちの結婚式にもいろいろと尽力してくれて、本当にどれだけ感謝してもし足りないくらいだ。


「アルフォンソはすごいな。録画機を一番使いこなしているのは間違いなくアルフォンソだな」


「そうですね。きっとお客様もアルフォンソが撮った写真を気に入ってくれると思います」


「今日のチェリーナのドレス姿をずっと残しておけるんだな。その白薔薇のドレス、とても似合っているよ。エステルの言ったとおり、王国一の花嫁になったな」


やだっ、クリス様ったら!


「そんな……。私も、今日の素敵なクリス様の姿を写真に残せるなんて嬉し」


「あのさ、2人とも。悪いんだけどさ、お客様たちが外で待ってるから。子ども達も待ってるし、そろそろ動いてくれないかな?」


あれ、お兄様、いたの?

おめでたい日なのに、なんでそんなにうんざりした顔してるのかな?


「ああ、そうだな」


「行きましょう」


私はクリス様の腕を取って一歩足を踏み出した。






いったん完結にしますが、披露宴へと続きます。

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