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番外編 ハッピーウエディング③


私たちを乗せた馬車は大聖堂の正面を通り過ぎると、控え室に近い裏口付近まで乗り入れた。


「どうどう!」


馬車の外から、馬を止める御者の声が聞こえる。


「到着いたしました」


外側からガチャリと扉を開けた御者が、満面の笑みで到着を告げた。


「ああ、ありがとう。さあ、降りようか」


「はい」


お父様に続き、私も馬車を降りようと身を乗り出す。


「お綺麗でございます、お嬢様」


「ありがとう」


……あれ?

御者が差し出した手を取ったはいいけど、片手がふさがってしまったらドレスを上手く捌けない。

うう、長い裾がかさばるし、困ったな。


「どれ、お父様が手伝ってやろう」

「後ろ側はお母様が持つわ」


ドレスが汚れないようにお父様とお母様に手伝って貰いながら、なんとか馬車を降りることに成功する。

そして、裏口から屋内に一歩足を踏み入れると、私は両手に抱えたドレスの裾をバサリと開放した。


「ふうー……、やっと着きました」


到着して一息ついているところへ、どこからかパタパタと小さな足音が聞こえてきた。


「わあー! おしめしゃまー!」


はっ?

お、おしめ!?


薄暗い廊下の奥に目を凝らすと、花冠をかぶった2歳くらいの小さな女の子が私めがけて勢いよく走ってくるのが見える。


「きゃーーあああーー!」


ポスン!


私のドレスに埋もれてぐりぐり顔を押し付けているのは……。

もしかして、クリス様の妹のクラリッサ姫じゃございませんこと!?


白金の髪と紫色の目は国王陛下譲り、可愛らしい顔立ちは王妃様譲りというクリス様と同じ組み合わせだけど、どうやら中身は中々活発なお姫様のようだ。


「クララ! 1人でかってにうごきまわっちゃダメだよ!」


女の子を追いかけてきたのは、6歳になったアントニーノ王子だ。


「にいたま! みてみてー! おしめしゃまがいるの!」


またおしめって言ってるけど……。

どういう意味なんだろう。


「おひめさま?」


「うん! おしめしゃまー!」


ああ、お姫様ね、なるほど。

アントニーノ王子、よくわかったな。


「この人はおひめさまじゃなくて、クララのおにいさまのおよめさんだよ」


うん、まだ分からないかもしれないけど、お姫様は自分ですからね?


「トニーにいたまのおにょめしゃん……?」


違います。


「こんにちは、クラリッサ姫。私はクリスティアーノ殿下の妻になるマルチェリーナです。私のことはチェリーナとお呼びください」


「ちぇいーな!」


「はい。今日は私たちの結婚式のお手伝いをしてくださると伺っています。よろしくお願いいたしますね?」


そう……、国王陛下と王妃様のたっての願いとあっては断りきれず……。

今日はクラリッサ姫にフラワーガールをやってもらうことになっているのです……。


「うん! おてちゅだい!」


元気にお返事してくれたけど……、こんなに小さくて本当に大丈夫なんだろうか。

しかも、他の子ども達もクラリッサ姫に釣り合う年齢がいいだろうということで、借り出された親族のちびっ子達もみんな幼い。


まずはクリス様側の親族から、アドリアーノ王太子殿下のお子様6歳、4歳、2歳。

続いてファビアーノ様のお子様2歳。

そして私側の親族から、マルティーノおじさまの子どものうち、乳児を除く4名、6歳、4歳、3歳、2歳が手伝ってくれることになった。


ちなみにここまで全て男の子です!

マルティーノおじさまのところの子どもに至っては全員赤毛の男の子、マトリョーシュカ状態で単体では見分けが付きません!


圧倒的に女の子不足だったため、ガブリエルの長女2歳にも手伝いを頼んで、総勢10名のちびっ子軍団になりましたよ……。

フラワーガール、フラワーボーイの半分が魔の2歳児って不安しかないよね……。


「マルチェリーナ様、どうぞ控え室へお入りくださいませ。ベールの準備をいたしませんと。間もなくクリスティアーノ殿下の叙爵式のお時間でございます」


「あっ、はい!」


おっと!

出入り口付近で立ち止まったため、私たちの馬車を追ってきたエステルたちが中に入れず大渋滞を起こしてしまった。


さあさあ、ちびっ子ちゃんたち、保護者の元へ帰っておくれ。


「アントニーノ王子、クラリッサ姫をお願いできますでしょうか?」


「うん、いいよ。さあ、クララ。あっちであそぼう」


「いーやーあぁぁーーー!」


アントニーノ王子がクラリッサ姫を抱えて強制連行してくれたけど、断末魔の叫び声が廊下にこだましているね……。


「はは……。元気だな」

「あの年頃が一番大変なのよね……」


お父様、お母様、やっぱりあの時子どもを作らなくて正解だったと思ってませんか?


だけど、国王陛下と王妃様は、クラリッサ姫を目に入れても痛くないほど溺愛していると聞いている。

初めて出来た女の子だし、孫もいまのところ全員男の子だから特別可愛いんだろうね。


「さあさあ、マルチェリーナ様! お支度を!」


「あっ、はい!」


早くしないとクリス様の叙爵式を見逃しちゃう!


私は演出の都合上叙爵式には参列出来ないんだけど、扉の隙間からこっそり覗こうと思っているのだ。

近くで見たいけど、結婚式が始まる前に花嫁姿を公開するわけにはいかないから仕方がない。


私はエステルに急き立てられるように控え室に入り、中にあった椅子に腰かけた。

精鋭侍女軍団が間髪入れずにベールとブーケの準備に取り掛かる。


「いったんティアラを外しますわ。ベールをかぶって頂いて……、はい、出来ました。お立ち下さいませ」


「マルチェリーナ様、ブーケをどうぞ」


「ありがとうございます」


私は手渡されたブーケをウエストの辺りで持ってみた。

ドレスに合うよう白薔薇で作られたこのブーケは、流れ落ちる滝のようにエレガントな形をしている。


「あちらにお鏡がございますわ」


どれどれ。


おおー!

ベール越しだと顔がよく見えないけど、なんとなく綺麗な気がする!


カラーン、カラーン、カラーン。


「あっ、12時の鐘です。お父様、お母様、早くクリス様の叙爵式を見に行きましょう!」


「そうね、私は参列させてもらうわ。また後でね」


「ああ、俺たちは目立たないところからこっそり見るよ」


ちょうどお母様が聖堂内に入ったところで、内側から正面扉が閉められた。

ロビーに残っているのは、お父様と私、そしてフラワーガールやトレーンベアラーをしてくれる10人の子ども達、それに式の手伝いをしてくれている王宮の侍女が数名いるのみだ。


私は音を立てないよう気を付けながら正面扉を薄く開いた。


「んっ、なんだかよく見えない……」


視界が薄ぼんやりしているな……。


「ベールをあげておいた方がよく見えるんじゃないか?」


「あ、そうですね」


お父様が慎重な手つきでベールをあげてくれた。

うん、これでよく見える!


「きゃー!」

「ああー!」

「うぎゃー!」


……うるさいよ!

お揃いの真っ白な衣装を纏った子ども達は天使のごとき愛らしさだけど、いかんせん騒々しすぎる。


ちびっ子ちゃん達、バタバタ駆け回ってないで、すこーし静かにしててね!





「皆さま、お静かに! ただいまより、クリスティアーノ・ディ・フォルトゥーナ殿下の叙爵式を執り行います!」


ザワザワとしていた聖堂内が、祭壇前に現れた宰相の言葉でピタリと止んだ。


「国王陛下、並びにクリスティアーノ・ディ・フォルトゥーナ殿下のご入場です」


宰相はそう言うと、右側の扉から現れた国王陛下とクリス様に場所を譲るように端の方へと移動した。


豪奢な衣装を纏った国王陛下は、3段ほどの階段を上ると、祭壇の下で待つクリス様に視線を向ける。

その合図を受けて、今度はクリス様が階段を上がり、国王陛下に向かって片膝を付く最敬礼をした。


祭壇の上の色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が2人の上に降り注ぎ、荘厳な雰囲気をいっそう盛り立てている。


「我が息子、クリスティアーノ・ディ・フォルトゥーナの婚礼に先立ち、クリスティアーノにはアメティースタ公爵位を授ける。アメティースタ公爵の領地は、旧ラーゴ男爵領とする!」


国王陛下がそう宣言した途端、あちこちからハッと息を飲む音が聞こえて来た。


「男爵領?」

「男爵領とは……」

「そんな……、正妃様のお子様がなぜ……」


やっぱり……。

こういう反応になるよね。





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